No.084『屋根裏の散歩者』

製作年:1992年
原作:江戸川乱歩『屋根裏の散歩者』
監督:実相寺昭雄
脚本:薩川昭夫
ジャンル:あやかしの大正ロマンワールド

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『江戸川乱歩猟奇館』から少々寄り道しましたが、『屋根裏の散歩者』の映画化でもう1本。
江戸川乱歩×実相寺昭雄。
いい響きじゃないですか。字面もきれいだし。

怪奇エログロなんでもありの乱歩と前衛ぶっとびエロスの実相寺。
なまこ食いやエロユートピアに匹敵する、さぞかしすごい鬼畜変態ワールドではっ!
と期待わくわくな人には誠に残念です。

エログロひかえめです。

あのがっつり濃厚な昭和怪奇お芸術ワールドに比べて、豚骨ラーメンが京うどんに変わったくらい薄味だ。
実相寺昭雄といえど平成映画だからでしょうか。
それとも石堂淑朗脚本じゃないからかw
鬼畜変態ワールド目当てだとガッカリーな出来だが、これはこれで別趣の良さがある乱歩映画です。

★予告編



篆刻印から始まる端正な予告。踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

すだれ越しに風鈴がちりん、と見える夏の午後。
最初のカットからそこは実相寺ロマンの世界。

舞台は1920年代、東京の遊民宿。
高等遊民という名のプチブルバカニートで親の遺産で遊んで暮らす郷田三郎(三上博史)と同じく犯罪オタクニートの明智小五郎(嶋田久作)は、住人の高等遊民達のご高尚ぶったバカトークを煙草ふかしながらダルそうに聞いていた。
その会話の中でふと、歯科医の遠藤(六平直政)が女とモルヒネ心中したという自慢話が耳に入った。

翌日、宿に煕子(宮崎ますみ)と名乗る新入りが来た。
美人のお嬢様で優秀なバイオリニストらしい。
ここで月9ドラマなら恋心のひとつも芽生えるが、江戸川乱歩作品にして実相寺作品なので変態心が芽生えますw
って訳で美女に触発された郷田が趣味の女装ごっこというか、アケミさん@あなただけ見えないごっこで遊んでたら、押入れの天井板から雨漏りしてるのを発見。
おっとこのままじゃ気ままな押入れ生活が一大事。
しょうがなく板開けて屋根裏を点検したら、そこは階下の部屋を覗ける穴があったのです。

★下の世界は素敵であやしいワンダーランド

妾を縄で縛って模造刀で刺して血糊ビューさせては緊縛責め絵をシコシコ描く弁護士がいれば、
あっちの部屋こっちの部屋と男を渡り歩きエッチして2階から放尿までするヤリマン女流作家もおり、
住人の部屋から小銭をちょろまかすバカ女中に、女中とレズプレイを楽しむ奥様もいる。

なーんだ外の世界でスノッブぶっても、自分のお部屋じゃみなさん楽しく変態ごっこなさっていたのね。
十分ド変態じゃねーかって、控え目ですよこれでも!描写は薄味だし!これでも!

表じゃすました顔して陰でこんな楽しい変態ごっこしやがっててめーら、と夜な夜なのぞき魔しては住人に毒吐く根性悪い遊びに郷田はすっかり夢中。
見てるうちに住人の趣味習慣まで把握できてきた。
かろうじて住人で非変態なのはバイオリンお嬢様とオタクな明智と、意外にも夜は普通に寝る遠藤だった。

★ノリと思いつきで完全殺人やっちゃった

いびきかいてる遠藤の寝顔を見て、「このツラで心中かよ」と思い切り六平直政のご尊顔をディスる郷田。ひでー。
さらに屋根裏から寝ている口めがけてツバたらして、こいつ飲み込んだよきったねー!とケタケタ嘲笑う。

さ、サイテー。
なんて陰湿な嫌がらせだよ。
でもそれがきっかけで、郷田は閃いてしまったのだ。
屋根裏からモルヒネたらしたら口に入るんじゃね?と。

思いついたら(ヒマだし)早速殺人ごっこ開始。
ちょっとムカつく奴なだけで特に怨みとか無いけど、遠藤の部屋からモルヒネ盗んで道具揃えて計画練って「犯罪ってなんかめっちゃ楽しい♪」って軽いノリでいそいそと準備を整えて、ほんとに殺人やっちゃった。

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天井の闇から真下の口元へすうっと伸びる白い糸。
糸を伝いぽたり、ぽたりと落ちるモルヒネ。
乱歩×実相寺アングル美のコラボ。構図は単純だがなんて素晴らしく乱歩な映像!ブラボー!!これが見たかったのだよ!

さて殺人が成功したはいいが急にリアルな「死」の現実が見えて動揺した郷田は、「モルヒネの空瓶を枕元に落とし自殺に見せかける」アリバイ工作をミスって、近くの目覚まし時計に瓶を落としてしまった。
反動で目覚ましが鳴る音にビクッとして慌てて自室に帰り、押入れの蒲団に潜って3日おびえて過ごす。
ビクビク怖がるなら最初からやるなよ。

郷田が蒲団に潜ってる間に遠藤の死体が発見されて警察ご登場。
現場検証を終えた警察は遠藤の死を自殺と断定した。
あっさり自殺にするよねと思うが、現実まあそんなもんかも。仮に殺人事件として捜査しても、住人は腹に一物もつ変態だらけ、郷田がすぐ疑われる状況じゃなかったが、明智小五郎ひとりは事件の解決口を見逃さなかった。

★で、まあ明智小五郎が最後を締めます

殺人終わっていつもの退屈生活に戻った郷田はヤリマン作家相手に電球プレイwして暇つぶしてたが、なんかエッチさえかったるくてやる気がしない。
夜は嵐で錯乱したお嬢様に部屋乗っ取られるし、なんか心萎える気持ちで部屋に戻ると押入れから
逆さになった加藤保憲様が登場!!
ではなく(でもまじで一瞬魔人復活かと…)明智が出た。

という訳で最後は屋根裏部屋で名探偵推理ターン。

明智は郷田が事件後煙草を吸わなくなった点に注目し、遠藤を殺した時、死に顔の横に煙草が落ちてたのが無意識に目に焼き付き、吸えなくなったのだと説く。

なんだこいつにも人を殺すことへの恐怖や後悔の気持ちはあるんじゃん、と一瞬共感しかけたんだが、当の郷田本人は逮捕と死刑がリアル現実になるのを怖がるばかり。
怖いなら殺人やるなバカ!!

しかし明智はそれ以上郷田の罪を問わず(ここは小説と違う)、「警察には言わない。僕は真相解明だけしか興味ないし」とさらりと告げて姿を消す。

ひとり屋根裏に残された郷田が神妙に考えに耽りながら、久しぶりに煙草を吸ってみるシーンでジ・エンド。

ちなみにバイオリンお嬢様の正体は妄想癖のキチさんで、ご自宅の方に強制送還されましたとさ。おわり


★感想

前にも書いた気するが大正ロマン、昭和モダンが好きだ。
でも好きなだけに文句もある。

明治大正昭和純文学の華である「ブルジョワ高等遊民の堕落と鬱屈と頽廃」、浪速商人風に身もフタも無く言うと「ええとこのアホぼんがグダグダ腐って落ちぶれる」人物造形が日本の映画ドラマはどーも弱い。
「ブルジョワ」「鬱屈」「頽廃」どれも三つ巴で弱い。
大好きなんですけどねえ、こういう世界。

そんな中で「ブルジョワ」「鬱屈」「頽廃」の三つ巴を堪能できる数少ないパラダイスが実相寺作品です。
つまり、ええとこのアホぼんキャラの登場比率が高い。
そして彼らの腐れ根性描写が実に的確であり、佇まいも美しい。
実相寺監督自身が多分そういう種類の人なのでしょう。ルックスもお公家顔だし。

さて『屋根裏の散歩者』は乱歩でも屈指の人気作品。映画化だけで4回、ドラマアニメ化もあり、シチュエーションだけ使用を含めると映像化は数知れず。
でも「天井裏からのぞいた階下住人の堕落」を力を入れて映像にした作品はあれど、「天井裏からのぞく側の主人公(郷田三郎)」と「事件を謎解く探偵役(明智小五郎)」のアホぼん2名のブルジョワ高等遊民な堕落ぶりを的確に描けたのは実相寺作品だけであります。
まあ意外。そこが小説で一番面白いのにね。

★まさに住居は住人の鏡、明智と郷田の素敵なお部屋

この作品で実に描写に見入ってしまうのは、明智と郷田の「自室カスタマイズぶり」であります。
まるでNHK朝ドラみたいに明るく清潔な遊民宿の何の変哲も無い和室の一間を、ここまで自分色に染めるか?ってくらい部屋の空気が澱んで腐ってます。

窓、壁、床、天井まで書物でぎっしり埋め尽くされ、昼でもぼんやり薄暗い明智小五郎の部屋。
ヤニと埃で黄ばんだ本の要塞に囲まれて嶋田久作が煙草を吸っている。
ホラーです。妖奇です。
偏執狂的に積まれた書物に圧迫感さえ覚える光景は、親世代の人や犯罪系サブカル好きならピンとくる、「日本で最も有名な犯罪部屋」といわれる幼女連続誘拐殺人犯の宮崎勤の自室に近い。
「若く聡明な名探偵の卵」で納まりきらない明智小五郎の猟奇な側面が、部屋見て一発で露わになります。映画で一瞬しか映らないのがああーもったいない。

一方で郷田三郎の部屋は明るく清潔に片づけられたいつお嬢様が訪れてもOKな好青年のワンルーム。
外面は良いんです。
しかし押入れを開けると、なんということでしょう。
上段は布団を4枚重ねた自家製ベッドルーム。壁はポスターや飾り棚でデコってます。
上段より見事なのが下段のカスタマイズ。
艶やかな彩りで積み重ねた女性のお着物。手前にほどよく書物を積み、親の遺影が乗せてある。上段で寝転びながら下に手を伸ばせば、遺影の陰からカツラとメイク道具が出てきます
手で届く範囲で何でもそろうカスタマイズっぷりと、歪んだ趣味を親の遺影で隠す姑息テク。
自堕落人間しか考えつかない仕様だwww

と、部屋見りゃ一発で性格嗜好までわかる通り、この映画では2人は探偵でも犯人でもなく「ただの高等遊民アホぼん」という全く同じ立場で描かれます。

ダメ人間だらけの遊民宿でもさらに孤立してて、他の遊民達が(変態だが)世間並に交流してる様を冷めた視線で傍から観てるしかできなくて、世間から浮いてるニートな姿勢を批判されたら言い返せずにカスタマイズ自室に逃げ帰り、あいつらバカだ下等だとひとりで悪口言って傷を舐めてる。

そんなダメダメな2人が、別に友情を育むでもなく、でも「バカで下等なやつらだらけの世の中で僕達だけは同じタイプだよね?分かってるよね?」と思ってる、つかず離れずのビミョーなシンパシーが心地よい。

★ほろ苦く香るエンディングがいいですね

そんなビミョーな関係だからこそ、映画は小説とほんの少し結末を変えたんであります。

小説の明智小五郎は「僕が警察に連行しなくても当然君は自首するよね?」と探偵目線で郷田に示唆するが、この映画の明智は示唆なんかしない。
「僕は殺人を謎解く楽しみが味わえて満足なだけだし、君に『警察行け』と言える上から目線な立場じゃないし、自首を説得するほど君に能動的な感情抱いてないし、そもそも君は殺人のドキドキ感にもすぐ飽きちゃうから再犯なんかしないだろうし、って事で君が謎解きの後でどーしようが僕にはどーでもいいよ」というニートなアホぼん目線で郷田を突き放す。

郷田も死刑は見逃されたけど、「殺人さえ飽きちゃった自分に、後は何の楽しみがあるのかなぁ…」とある意味死よりもノーフューチャーな状況が見えてただ無力に煙草吸ってるしかないのだ。


この屋根裏エンディングで苦く燻る紫煙の澱みこそ大正ロマンのブルジョワの頽廃ってもんです。
圧倒されますね。さすがです。

三上博史の配役はパーフェクト。
シラッと冷めてて世間ナメててぐじぐじ腐った根性と、の割に殺人しちゃった後で「根は素直で育ち良く甘ちゃんな性格」がうっかり露呈するところがいい。
何より容姿がカスタマイズ押入れにジャストサイズだw
本当に棲んでそうwww

嶋田久作は相変わらず実相寺アングルに映えてます。
『名探偵・明智小五郎』らしい(というか天知茂らしい)テンプレ要素をわざと外したところがナイス。
猟奇がうっすら香る佇まいが、かえって乱歩文学の香りを体現してるよう。
おっとり品の良い語り口調も大正ロマンにぴったり。
この明智VS犯人コンビでもう何作か見たかったですね。

寺田農の画面への溶け込みかたはもはや小道具の域。
たんす、ちゃぶ台、寺田農って感じw
あと六平直政がモルヒネ心中を語るシーンでニヤーと微笑った顔がとても印象的。

★音楽の使い方が気になる木

あと田中登作品と共通してるのが、『カチューシャの唄』を歌うシーンがあるところ。
まあ有名な歌なんで大正ロマンものではテンプレな演出ですが、田中登作品が「関東大震災後の焼け野原で生き残った女中が歌う」シチュエーションなのに比べて、実相寺作品はなんと2階から放尿ソングw
ひっでーw

しかしながら加賀恵子の歌いっぷりが素晴らしく解放的に堕落してて良かった。
これもまた頽廃が香り立つシーンでした。

(了)

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