No.099『煉獄エロイカ』

製作年:1970年
監督:吉田喜重
脚本:吉田喜重・山田正弘
ジャンル:超難解お芸術映画

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気がつけば99作目記念。
うめめちが偏愛する、ガチのお芸術映画である。

だいたいATG系お芸術映画ってものは、「まーよくもこんな映画作ろうとおもったな」と色々凄すぎてあきれるやつらだらけですが、そんな数々の猛者をも凌ぐ孤高の極みに達したお芸術作品と言える。
いい意味でも悪い意味でもw

おそらく日本一物語を理解するのが難しい日本映画であります。
登場人物が日本語で話してるので言葉は一応わかりますけど、しかしながら何回観てもセリフ聞いても、一体何がどういう話なんだかいまだにぜーんぜんわかりませんw

★とりあえずあらすじ紹介にレッツチャレンジ!

ビルから飛び降りた少女。
それを見てしまった女。
自分が見た夢の話を棒読み口調で語る男。
話を怪訝な顔で聞いている若い女。

♪るーるーるーるー♪るーるーるー♪
『夜明けのスキャット』を不協和音にしたような、背筋がぞわ~と寒くなる一柳慧の現代音楽で『煉獄エロイカ』は不穏に始まります。

時は1970年。
夢を語る棒読み男こと庄田力弥(鴉田貝造)は40歳MIT卒のエリート研究者。
10年前に妻・夏那子(岡田茉莉子)と結婚し、子供はいないがプライベートもそこそこ順調。
でも夏那子がある日、ビルから飛び降りて自殺未遂した17歳少女アユ(筒井和美)を家に連れ帰ちゃった事からなんか狂い始める。

庄田はアユにイヤ~予感がして最初は邪見に扱うが、やっぱ男なのでうっかり淫行してしまう。
しかしエッチ現場が謎の反戦組織の記録フィルムにうっかり映っちゃったのをネタにされ、「駐日アメリカ大使『J大使』誘拐計画に協力しろ」とゆすられる。
でも反戦組織メンバーの若い女・キヨコ(木村菜穂)はリーダーのグラサン田屋周(牧田吉明)が好きだが相手にされずモヤってたり、女同志リツコが体制側にパクられスパイに転向したり、なんか仲間割れで計画倒れに終わりそうな匂いがする。

一方、庄田家にはなんか藤子不二雄Aに似てる自称アユパパ(武内淳)が迎えに来た。
アユパパは学生時代にアユ母とデキ婚するが、母親はアユ出産後すぐに赤ん坊を連れて失踪。パパは17年間探し続けてやっとアユを見つけたが、アユは継父になつけず家出し、売春自殺未遂しながら母を探しているらしい。
ところがパパの顔を見て庄田はびっくり。
アユパパの正体は、彼が渡米前に日本の工科大で学生活動家をやってた時の組織リーダー・清靖夫だったのだ。

アユが生まれる前年の1952年。
庄田と清、女同志・温子(岩崎加根子)他同志達は、前衛党の政治局員・アトウ博士の指揮下で駐日アメリカ大使『M大使』誘拐計画を企てていた。
ところが仲間に転向スパイがいると発覚、計画中止になる。
リーダー清は「俺が後始末つけて来らぁ」とピストル片手に誰かを殺してそのまま失踪。

その後なぜか庄田が組織の査問委員会にかけられ、「テメー清とグルでスパイだっただろ」と責められる。
どうも『M大使』誘拐計画は学生活動組織を分断破壊する為の罠だったらしいが、「そんな事全然知らなかった」と訴えても同志は受け入れず、庄田は組織を追放された。
で、心入れ替えて学生運動なんかすっぱり辞めて、アメリカ行って出世しましたと。

★ここまでが前フリです

割とマトモな左巻き政治系サスペンスじゃねーか。
と思うでしょうが、あらすじは映画を換骨奪胎して頑張ってわっかりやっすーくした解説です。
映画本編は「ATG前衛お芸術にありがちな謎脚本」のお約束をフルアイテムで揃えております。

過去と現在が時間軸無視で進行するカット割り
意味不明なフラッシュバックの嵐
きちんと繋げばわかるエピソードをミンチぶった切り
状況説明用エピソードやテロップ等一切無し
物語の説明は登場人物のせりふオンリー
なのにせりふの中身は政治系または観念系ばっか
なのに岡田茉莉子を除く全員が無表情&棒読み
エロシーンですらいきなり脱いで無表情で触る
前衛舞踏でもやってんのか級の情緒皆無プレイ


加えて
ナプキン50枚は入りそうな特大エチケットポーチに組織の秘密ブツ入れたのが見つけられたせいで、なぜかキヨコのレズビアンプレイが始まったり、「裏切ったりスパイになるのはセクシャルな行為」とか超理論が出てきたり、
アユは突然庄田夫妻をパパママと呼び始めて、しかも「パパが逃げないように椅子に縛るの」とかいう庄田夫妻&自分の謎プレイ妄想をべらべらべらべら棒読みでしゃべり倒し、なぜか庄田家に犬の首輪や白縄が置いてあり、夏那子とアユがそれを使った謎ごっこ始めたり
シュールなサイドストーリー連発で物語への理解意欲を著しく萎えさせます。

しかもそんな前半ですら我慢して見続けた視聴者を、後半で吉田喜重監督は奈落の底へ突き落とす。
今まで説明した2つの時代の物語さえ彼方へぶっとばす前衛難解ハリケーンが直撃します。

★いよいよ問題の後半。覚悟して観てね

さて後半ですがいきなり
庄田夫妻と1952年&1970年の登場人物全員が突然10年後の1980年にワープする。

謎の近未来空間で一堂に会した革命家たちだが、早々にメンバーからツッコミが入る。
「変だわ。誰か死んでるはずなのに」
実は同志・温子が1952年に死んでいた。
庄田が追放された後、温子もスパイ容疑が掛かり、尋問され追放され最期はチンピラに暴行されて全裸で殺されたらしい。
まぁ可哀想だがだからってどうということなく、温子は80年空間に居続けて話は進行する。いきなりオチ放置かよ。

革命家たちは革命を起こす会議を開く。
ところが最初の議題は革命と全然無縁で、「10年前にアユという少女は存在しない」とみんなが言い始める。
は?
嘘だ!そんなはず無い!と訴える庄田夫妻。だってさっきまでいたじゃんか。
ところが反戦組織の記録フィルムを見ると、庄田の1人パントマイムが映ってましたw
元々のエッチシーンですら前衛舞踏的なのに、相手がいないともう何が何だかwなんだか恥ずかしいわw
「アユは夏那子の情念が作った影にすぎない」と言われて(でもさっきまで一緒にしゃべってたけど…)、納得できない夏那子はアユを探しに行く。

52年メンバーはM大使誘拐の予行演習を始める。
リーダー清が大使役、温子が大使夫人役。ご丁寧に金髪ヅラをかぶって囮をつとめる。
そこへ70年メンバーが合流する。
おいおいお前らはJ大使誘拐じゃ?と思ったらみんなで「誘拐されたM大使夫妻が解放されました会見(世界同時衛星中継)」を演じだす。
なんで?
誘拐の予行演習に「人質解放後の記者会見のシミュレーション」って要りますか?
清&温子夫妻がなりきりインタビューを受けて計画に関係あんのか無いのか謎な質問に答え、最後にヅラ取って「もう終わり?まだ始まったばかりよ!戦いを始めなきゃいけないの!」とカメラにアジる。

はぁー?

★リーダーの条件は愛じゃなくてヒロイズム?人類の究極の目的は良い夫?

アユ探しに出かけたはずの夏那子は、何事も無かったかのようにひょっこり現れたアユと52年のアジトへ行く。
「パパは本当のママにしばり首にされた」とまたわけわかめな妄想をしゃべるアユ。
で、2人がアジトの扉を開けたらそこは査問委員会。庄田が二重スパイ嫌疑をかけられている。
夏那子は裁判に割って入り訴える。
「アユが誘拐されて売り飛ばされるの!」
どこにそんな話があったよ!?

すると庄田はその場で52年&70年メンバーから「夏那子の子供を探す計画のリーダー」に任命される。
庄田は夏那子年表(どこからそんな)を開いてページめくって探すが子供の記録はどこにもない。
「これはリーダーの責任ね。有罪!」といきなり偏った判決を下す温子&メンバー達。
はー?自分たちで指名したんじゃねーか。
夏那子はひとり「無罪」と訴えるが、判決は原則全員一致なので、困った温子は夏那子に問う。
「リーダーになる条件を答えなさい」
「愛すること」
「違うわ。それはヒロイズムよ」
なんてシュールコントな会話が判決理由になって

庄田の絞首刑執行。
え”え”え”え”-----!?

旦那が死んだ所で夏那子はハッ!と我に返り、再び52年のアジトへアユ一緒に行き、「真実(?)」を知る。
本当のスパイは温子。彼女は学生活動を裏で扇動してたアトウ博士の恋人だった。
そしてアユはアトウ博士の娘だった。
謎のアトウ博士はアジトの窓際に座り、通話中がモロバレな異常にでっかい携帯電話で、何だかわからない組織にスパイの報告してた。
こっそりのぞいた彼の正体は、さっき死んだはずの庄田だった…

52年、アトウ博士=庄田と温子がデキ婚してアユを産み、すぐ失踪(殺された)と解釈すると、「パパは本当のママにしばり首にされた」アユのセリフと一致するっちゃする。
でも妊娠してから産むまで時間もなけりゃ、腹も全然出てなかった気がするんだが。
よく判んない展開に、あぁぁ~と苦悶にうめく夏那子。

「みんなゲームをするの!死ぬまでゲームを続けるの!」
唐突にアユが叫び、またまたワープした先は
80年、庄田夫妻の叙勲おめでとう記者会見w
そこに戻るのかよwww

さっきM大使夫妻世界同時衛星中継記者会見(の予行演習)で清と温子が被った金髪ヅラを今度は庄田夫妻が被り、腕を組んでレッドカーペットをしずしず歩きながら、温子・キヨコ・アユ記者の理不尽な質問責めに遭う。
ってか「男は自由になる為に男色家になるという意見をどう思うか?」なんて質問答えられるかよw
最期に庄田は「人類の究極の目的は?」と問われ
「最良の夫になること」と答える。

♪るーるーるーるー♪るーるーるー♪
もう何が何だかわけわかめー

★いつの間にかすべてが終わったの?何が?いつ?

もはや、あんた達何がしたいの?どこへ向かおうとしてるの?状態だが、一応話は70年に戻り?オチらしきものをつける。

まず夏那子はヅラ被ったままどこかの駅の通路で、グラサン田屋周とばったり出会う。
グラサンはJ大使を誘拐しに出掛ける所だったが、「あなたが誘拐するのは私」と言い道に横たわる。
で、2人は不倫でデキる
そしてベッドでプレイ用白縄を首に巻かれる。何故に唐突に。

一方、庄田は自宅でキヨコと一緒にいる。彼等もJ大使誘拐メンバーのはずなんだがまだ家にいる。
キヨコが「今何時?」と尋ね、庄田は「1時」と答える。
続けて何かちょろっと話して「今何時?」「2時」
また話して「今何時?」「3時」
(略)「何時?」「3時半」
「ねぇ本当の時間は何時?」
「時間など関係無い!」
そしてキヨコは無言で脱ぎ始める。

一体何なんだよ!
どういうお色気アヴァンギャルド漫才だよ!

結局ATG映画らしく2人は未来の無いセックスして、「あたしの神は、あたしのニヒリズム」とかほざきながら組織を裏切る。
組織は誘拐計画に失敗し、グラサンたちメンバーは機動隊に片っ端から射殺される。
アユは清をピストルで撃ち落とし前をつける。

それでもってようやくラストシーン。
どこかの駅構内でキヨコは夏那子に語りかける。
「すべてが終わったのね…何もかも」

そんなこと言われたってアナタ
何が始まり何がどうなって
何が終わったのかコッチには
さっぱりわからないんですけどー!!


しかし夏那子は「まだやることがあるわ」とのたまう。
それは何かと問われたら。
「私が私の神様であったものを撃ちに、よ…」
そうですか…
撃つなり煮るなり好きにしてください…
2人の女は黙ってどこかへ歩き出し、ようやくデッドエンド。(と本当に表示される)

★感想

どうでしょうか。
訳のわからなさがお判りいただけたでしょうか。

基本は「物語が過去と現在の入れ子構造になってる、ヌーヴェルヴァーグ・ポストモダン系にありがち不親切設計の前衛映画」ですが、1980年にワープしてからのワケワカメ展開は前衛系でも最高峰のぶっとび具合です。
凡人映画観賞者うめめちの脳活性化(と忍耐)の許容度を試してるかのごとき難解シーンの数々は、「意味を理解しようとするなぁぁー!!感じるだけでいいんだぁぁー!!いちいち辻褄合わせようと考えたら負けだぁぁー!!」と念仏を叫びながらでないと観れません。

ちなみに『煉獄エロイカ』の「煉獄」とは
天国=革命による理想社会の成就もできず
地獄=体制による徹底弾圧もされず
己の反体制活動を総体験を総括できないまま、何となく生き延びてしまった元革命家の悶々、であるらしいです。
って事を頭に入れてみると1㎜程度には理解の足しになります。(なるかよ)

★やみつきになる孤高の映像美

とか盛大に文句たれつつ、ついまた観てしまうリピートしたくなる魔力がある。
その魅力の源泉はキメキメすぎるほどキメまくった、昭和前衛映画として最高峰のモダン映像美です。

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これが映画のワンシーン。

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お得意の反射使ったシーン。
机に反射するライティングが美しい。

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廃工場を目映く照らす光。
鉄骨やランプシェードの配置まで完璧。

こんな感じで全シーン、全ショットを昭和モダン美学でバシバシにキメている。
どのカットも素晴らしくハイクオリティ。
長谷川元吉撮影監督の美意識が炸裂してます。

衣装は『告白的女優論』と同じ森英恵。『告白的』ほど衝撃衣装だらけじゃないが、四角い傘とかやっぱり普通じゃない。
いいなあ欲しいよ四角い傘。復刻してくれ。

★白昼夢ってこんな感じ?

とはいえ、キメキメのモダン映像美&抽象極まるポストモダンなワケワカメ話の組み合わせは当時から前衛映画界じゃポピュラーな手法なんだが、突きぬけてキメキメやりすぎなんである。良くも悪くも。
同時代のゴダール先生とかアラン・レネとかタルコフスキーだってもうちょい生活感とか文化背景とか、せめて人間のいる匂いはするぞ。

話も映像も俺美学をあまりに突き詰めすぎて、美学に合わぬ風景やモブ人物や話の解説など0.1秒も出すものかぁぁと排除しまくった結果がコレ。
人物は岡田茉莉子のぞく全員アートオブジェ。
風景はことごとくアートな抽象空間。
いっぱい屋外ロケしてるのに人ひとりいない。
人間が発する匂いは完璧に滅菌消臭されてる。
東京のはずなのにもはやSFである。

そんなSF空間で時空は20年間入り乱れ、オブジェ人間が謎セリフを棒読みで語り倒し、音楽は♪るーるーるー♪だ。
映画ってより幻影でも観てんのかと錯覚さえします。
白昼夢ってやつでしょうか。

ともかく60年代ヌーヴェルヴァーグ系特有のパースききまくり変態アングル決めまくりなキトキトのモノクロ映像美がだーい好きで、コンセプチュアル前衛アートとかだーい好きで、白昼夢体験してみたい人wはおすすめ。

★ちょっと気になる木

さて気になる脇役チェック。
アユ役の筒井和美さんのエゴンシーレつうかジャコメッティつうか要はほっそいうっすいオブジェな肉体が印象に残りました。
一応脱いでもOKな年齢の女性なのに、脱いでもエロスを100%感じないのが逆に凄い。
あと棒読みなのに心に棘が刺さる声してる。
アート映画に映えるルックスで気になりました。

(了)
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