No.103『無常』

公開年:1970年
監督:実相寺昭雄
脚本:石堂淑朗
ジャンル:ひとでなし姉弟の異常愛前衛映画

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秋ですねえ。
月並みながら芸術の秋ですねえ。
パンチの効いたトンデモ前衛映画が恋しい季節。当ブログでパンチ効いてる前衛といえばやはり石堂淑朗&実相寺昭雄のゴールデンコンビは外せないでしょう。

実相寺映画の男ヒロイン(ヒーローじゃない)は大概ろくでなしのボンクラ息子だらけですが、ボンクラ界の強者の中でも最強を誇るボンクラ男、それが『無常』のニートバカボン日野正夫です。

こいつがキング・オブ・実相寺たるゆえんはニートのろくでなしなだけじゃなく、自分は気ままに生きてる割に無傷だが、周囲の人々が不幸に次々落ちる地雷男だからだ。
彼の自分勝手な生き様に振り回された人々の死屍累々な有様をぜひご堪能ください
★あらすじ(青字はネタバレあり

1970年、京都の東の日下部という田舎町に裕福な商人・日野家のお屋敷があり、百合(司美智子)と正夫(田村亮)の姉弟が両親に寄生して住んでいた。
25歳の百合は美女なのに縁談を蹴ってばかり。21歳の正夫は大学に行かず親の商売も継ぐ気無く、毎日ぶらぶら暮らす困ったちゃん姉弟だった。

正夫は無精ヒゲ生やして身なりもかまわず趣味の仏像制作に没頭する草食系に見えて、いけない性欲を悶々とたぎらせていた。
まぁでもボンボンだから金はあり女を買える。
しかし買った女が気に入らないこと言えば「買われた女が口きくな」と暴力をふるい、女の旦那(おなじみ寺田農)が抗議すればその場で喧嘩してぶちのめす。
とんだロールキャベツ男子である。

百合もパッと見清楚なお嬢ファッションだが、フェロモンだだ漏れで周りの男を悩殺。
同級生のお寺の副住職・荻野(岡村春彦)や日野家書生の岩下クン(鼻デカ兄さん花ノ本寿)を悶々とさせていた。

★禁断愛は青カンで、悶々苦悩は周りにおまかせ

そんな姉弟がある日能面かぶって遊んでて、もののはずみで一発やってしまう
さすがにダメよこんな事!と恐怖におののく百合に正夫が一言。
「2人がこうなるのが一番自然なんや」
どこに近親相姦が自然な世界があるかよ!!


バカな言い訳する正夫だが、若い性欲に抗えず、姉弟は家人の目を忍んで近所の森で青カンする。
でも森は荻野の寺の敷地で、まぁ見られちゃう訳です。
荻野は激しくショックな一方で煩悩200%増しになり、夜な夜な観音菩薩を撫で回して悶々と苦悩する。

さて避妊せずやりまくってたら間もなく百合が妊娠。
困ったどうしよう。って時に正夫がいい事思いつく。百合の風呂場を覗いては雑誌グラビアのお色気写真の股間に鉛筆突き立てて悶々苦悩する片思い野郎の鼻デカ兄さん、岩下クンを利用すればいいのだ。
托卵ってやつですな。
百合は岩下クンの部屋に夜這いして体を抱かせ、「あなたの子がデキたの」と嘘ついてデキ婚する。
憧れの女と子供と日野家の跡継ぎの座をゲット!とぬか喜びする岩下クン。
ひっでー。

★インポの仏師と嫁とバカボンの異常な関係

姉と書生旦那が出産子育てしてる間に、正夫は趣味を極めるため、荻野の紹介でダンディ仏師・森康高(岡田英次)のアトリエに住み込みで弟子入りしてみた。

森仏師にはセックスレスで欲求不満な嫁がいて、さっそく正夫は嫁と不倫エッチしまくる。
だが森仏師は怒るどころかエッチ現場を覗いてた。
ダンディなんだが実はインポの仏師は、嫁と他人が営む情事を見て悶々と芽生える煩悩を創作パワーに変換して仏像を造ってたのだ。
えーと、あんた仏師だよ?いいのかよ!『ガラスの仮面』の市役所勤務の仏師さんは沐浴して清らかな心で仏像彫ってたのにー!

まぁともかく仏師はさらに煩悩パワーを得ようと「私の代わりに寝室で嫁と寝たまえ」と勧めが、しかし正夫は3人川の字で寝ようと逆提案する。
「私は奥さんを間にして先生と交わりたい。女は好奇心の動物、すぐに慣れますよ
正夫のひとでなしな暴言に森仏師は「こいつわかってるねえ」とニンマリ。
それから毎晩、正夫は仏師の隣で嫁とやりまくる。

そんな森夫婦&正夫の異常な肉体関係を知って森家の息子・康弘(ささきいさお)は懊悩する。
本人同士は納得ずくでも子供はイヤだわねえ。

★鼻デカ兄さん、文字通り絶望にうちひしがれる

仏師の嫁とやってる一方で正夫は、たまに実家に帰っては姉と青カンでやりまくった。
でも場所がご近所だけにいずれバレます。
ある日岩下クンが百合を探して寺を歩いてたら、どえらい現場を目撃してしまう。

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自分が近親相姦のダミー托卵旦那だったと知り文字通り絶望にうちひしがれて号泣する岩下クン!
その足で新幹線にダイブして自殺する!
うおおメロドラマ!可哀想すぎるよ鼻デカ兄さん!!


遂に犠牲者まで出て憤る荻野は、もう黙ってらんねーぞと正夫を寺へ呼び出し「お前は行く先々で地獄を作る人間なんや!あらゆる人間・土地・一切の縁を絶て!」と迫るが、正夫の返答は予想の斜め上をいくものだった。

★ボンクラキングのスーパー逆切れタイム発動

俺はあいつらを地獄に落としてねーよ所詮俺ってあいつらが元々持ってた願望を引き出しただけだしあいつらは俺を通して自分の宿命を実現してるに過ぎねーんだよわかる?大体お前地獄地獄って言うけどさー地獄ってなんだよ極楽ってなんだよ?ガキの頃に地獄絵図見たけど理屈わかんなくてさー極楽いいとこって言うけどそこに快楽はねーだろ?快楽は人が欲望を満たす時に生まれるもんだろ?でも欲望を満たすのは悪だろ?仏教の理屈じゃこの宇宙に極楽も地獄もねーんだよ無しかねーよ人は死んだら無になるんだよ?俺や人には今ここの現実しかねーんだよみんななんか人は命つないで永遠に存続するって妄想に囚われてるが俺は認めねーよそんなもん

ああ、うぜー!!!

とまあ、仏教だの仏像の美だのインドがどうだの果ては宇宙まで広がる壮大さだが要約すると「俺は全然悪くねえ」の一言で済むw厨二病の開き直り屁理屈を仁王立ちで演説するのを荻野は時々真面目にツッコミつつ、実相寺映画らしく謎にワープしたりwいきなり立ったりしゃがんだり走ったりwしながら辛抱強く聞いてたが、とうとう心折れてギブアップ。
「君は狂ってる」
追い打ちを掛けて正夫が荻野を百合とくっつけて托卵旦那2号にしよっかなーと考え始めたため、荻野は君子危うきに近寄らずの思いでCOする。

★なんでお前が死なねーんだよ!

さて仏像修行を終えて正夫は実家へ帰り、甥(と偽装した自分の息子)の後見人になる。
跡は継がないが裏で糸引く気満々。サイテーだな。

残された森一家は家族崩壊が止まらなかった。
若いつばめが消えた嫁は康弘を襲ってエッチ。ダンディ仏師は久しぶりに嫁とやってて腹上死。
心が追い詰められた康弘は「オヤジはあんたが殺したんだー」と正夫に詰め寄るが、謝るどころかヘラヘラ笑って挑発する正夫に、康弘はブチ切れ懐から彫刻刀を出して一突き!

…揉み合ったはずみで自分の腹に。
ささきいさお無念の死亡を見届ける正夫だった。


なんでお前が死なねーんだよ!
と理不尽な展開に観客の心の声が届いたか、急に三途の川っぽい幻想世界にトリップする。
正夫が大好きだったおばあちゃん(菅井きん)と河原で砂をざくざく掘ってたら、何か出てきた。

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わーいおっきな白い鯉をゲットしたよー!
だが腹を切り裂くと中から小石がざくざく出てきた。
どの小石にも死者達の戒名が書かれてた…

そんな不気味なトリップから醒めてラストシーン。
荻野が観音様の前で経を詠んでると百合と子供がお寺を訪れる。見た目ほのぼのだが内情は逃げて荻野ー!な状況でジ・エンド。


★感想

いやな話だなー。
『曼荼羅』みたいにユートピアだの超理論だのトンデモ満開では無いが後味がクソ悪いw
ひとでなしな脚本である。

でも中堀正夫撮影のパースききすぎアングルで気品があるが緊張感に満ちたモノクロ画面が、物語の負のエネルギーとぴったりマッチ。メロドラマ度数を否応なく盛り上げます。
鼻デカ兄さん絶望シーンはマジで泣けます。
もちろん仏像・暗闇・背中越し煽りショット・流麗な移動撮影・和風家屋のモダンな陰影・クラシック・時計チクタク・効果音シャキーンwなど、実相寺ガジェットはフル装備ですよ。
ベストショットは登場人物の背後で新幹線が走る、鼻デカ兄さん事件のフラグ立てになるシーン。
寂れた在来線と交差して走り抜ける新幹線。ザ・実相寺!な構図です。

★ダメになるほど魅力が増す田村亮

今回の気になる俳優は素直に主役の田村亮。
野島伸司ドラマの演説係がいしだ壱成なら、実相寺映画の演説係は田村亮にお任せ例えが古くてすみません。それくらい逆切れ・屁理屈・厨二病演説が上手い。
すがすがしくダメな役だが、中途半端に良い子な『曼荼羅』より魅力がキラキラしてる。後半ダメになるほど地雷になるほどいい。
見た目は松山ケンイチを70年代学生にした感じ。声が正和兄さんに似てる。繊細で拗ねてて甘い。それで実相寺男ヒロインらしい堕落頽廃ボンボンでさらに無軌道ワイルドまで板についてるってどんな人だよ?
だけど映画観ればわかる。好きだ。
でも田村亮じゃなきゃ画面に水ぶっかけたくなるキャラではありますw

百合姉さん司美智子は珍しく肉感的でゆるくて男関係豊富そうなルックスだけど、白ソックスはいてるのがいい。
ちなみに仏師嫁はいつもの実相寺好みの貧乳でわき毛生えてる。マニアックやな。

★実験映画系統にありがちな、音楽気になる木

メイン音楽は格調高いクラシックなのに、時々わざと変なBGMでハズしたがる。
でも不倫エロシーンでラジオ体操第1はともかく(朝からエロ風情かよ!良いではないか)
ささきいさおが苦悩を打ち明けるシーンで♪ひとーつ積んでは父のため~♪はダメだろw
気の効いたスパイスにもなりやしない。ハズすセンスはもうちょい選んでほしかった。

★おまけ 菅井きんをさがせ!

前衛映画から必殺仕事人のムコ殿まで、ちょっと気になる菅井きんチェック。
今回は幻想シーンで鯉を彫るおばあちゃん。
なんと当時44歳!
中山美穂と同じ歳でガッチリばーちゃん!
TOKIO城島と同じか。そんなもんかなw
しかしなんでこの歳でオバハンではなくばーちゃん役女優に起用されたのか。ちょっと気になる。

(了)
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