No.125『しとやかな獣』

公開年:1962年
監督:川島雄三
脚本:新藤兼人
ジャンル:クレクレ団地一家のシニカルコメディ

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あっつー。
ジメジメくそあっつー。
今は一年で一番嫌な暑さの季節。普通に過ごしててもイラッとくる日は破滅まっしぐらなバカ一家の話を観て、心を黒い溜飲で満たしたいものですね☆

「ひと皮むけば男も女もこんなもの」
身も蓋も無いキャッチコピーがステキぃ。

昔の映画なのでブラック度も下品度も控え目ですが、日本映画の名作と呼ばれる作品なのに、演出が前衛バリバリで狂ってる。
コメディの隙間に日本の戦後の闇がどろっと見えていい感じに後味悪いし、当ブログ的にもおすすめ。

偏見だが若尾文子様の公式イメージってこの映画の文子様だと思いますがいかがでしょう。
前髪を片側たらして白ブラウス&黒タイトスカート、煙草をくゆらせてうっふーん
ステキだわー。
★予告編



山岡久乃のお肌がつるつるで若い!
当時36歳だそうで。
でも雰囲気はすでに日本のお母さんですが。

★あらすじ(青字はネタバレあり

時は昔なつかし昭和30年代。
「団地」が今のタワーマンション並みに一般庶民あこがれ物件だった頃のお話。

晴海団地の一室に住む前田一家。
元海軍中佐だが詐欺事件に引っ掛かりおちぶれ、今はひきこもりニートの時造パパ(伊藤雄之助)。
専業主婦のよしのママ(山岡久乃)。
芸能プロダクション社員の息子、実(川畑愛光)。
家事手伝いの娘、友子(浜田ゆう子)。
一見普通の家族だが、大黒柱がニートの割に分不相応に贅沢な暮らしをしてる。
その金はどこから?

★金目はパクるが返せねえ

って事情で映画は、実の勤める芸能プロ社長(高松英郎)と、おそ松くんのイヤミに金髪のヅラを被せたような芸人さん(小沢昭一)が、「お宅の息子に事務所の金100万円パクられたザンス!返してザンス!」と怒鳴り込みに来るエピソードから始まる。
パパとママは「大変申し訳無い事した」と謝り倒すが、その場では金コマ貧乏一家の振りして金は1円たりとも返さないw

お次は友子が「愛人と別れたい」と言い出し大騒動。
友子は人気小説家の友沢先生(山茶花究)の愛人で、お手当だプレゼントだ何だかんだとATMにしてたが、あたしも年だしジジイの相手も飽きたし愛人稼業から足洗おうかしらー、ってとこである。
勿論パパとママは友子を説得して気まぐれをたしなめ、友沢先生も友子に未練ありありな態度なのを利用してうまーくなだめ、元サヤに納める。

実は前田一家は息子の横領と&娘の援交マネーで生計立ててるセコケチクレクレ寄生虫一家。
両親は子供がせしめたブラックマネーを巻き上げて、優雅にニート暮らしてるのである。
いやな一家だなー。

★しかしさらに上を行く悩殺ラスボスが登場

金づるをなだめてホッとする前田一家だが束の間、芸能プロの会計係の幸枝(若尾文子)が冒頭にも述べた白ブラウス&黒タイトスカートのお色気だだ漏れ悩殺スマイルで現れびっくり仰天。

幸枝という女はタダ者じゃなかった。
じつは実クンは幸枝とデキており、会社からパクった貴重な生活資金の大半を幸枝に貢いでいたのである。
とんだ横取り寄生虫の登場に憤る銭ゲバ一家だが、ママが「この女を敵に回してはまずい」と感づき、「幸枝が横取りでがめた分は不問に処す」という判断をする。
で、一家は幸枝とは不可侵条約を結びつつ、社長や作家、実がバーで飲みまくって作った借金の取り立てに来る強欲ママ(ミヤコ蝶々)などなど、次々と家を訪れる「招かれざる客」を撃退し、パクった金でこしらえた贅沢生活をあの手この手で守り抜こうとするんである。

★生き血を吸われた船越英二、疫病神と化す

だけどパパとママがパクり銭ゲバにいそしんだり子供達が能天気にゴーゴーを踊り狂ってたりする間に、事態はどんどん悪い方向へ流れていく。
友沢先生は遂にキレて友子と援交をやめるし、前田一家の前に最悪の疫病神が訪れる。

疫病神の名は税務署員の神谷さん(船越英二)。
芸能プロ社長に抱きこまれて脱税を見逃してたが、バレて税務署をクビになる。
神谷さんルートで税務署が強制捜査に乗り出せば芸能プロの帳簿は炎上、実は横領罪で逮捕、そこに巣食ってた前田一家の悪行も表に出る。

しかも神谷さん、女問題でも切羽詰まってた。じつは幸枝は、実クンだけじゃなく神谷さんともデキていた
神谷さんは社長からの賄賂マネーを資金源に相当幸枝に貢いでたが、クビになった途端に音信不通にされ、困って幸枝を捜し歩いてたのだ。
そしてさらに幸枝は芸能プロ社長ともデキていたのが発覚

男を三股掛けて全員ATM化。
つまり芸能プロ資金は3人の男ルートを通じて幸枝の懐にがばがば入ってたって事か。
やるなあ魔性の女。
「あたし直接横領とか脱税とかしてないよ?あんた達は逮捕されるけどあたしは罪にならないの。みんなからの貢ぎマネーで旅館開いて女将になるわ。じゃ、後はみなさんでせいぜいよろしくね
とのたまい、幸枝はうっふーんと悩殺振りまきながら華麗に逃げる。


一応不可侵条約を結んだワル仲間だと思ってたクソ悪女に、土壇場でトンズラこかれて唖然とする前田一家。
せめて神谷をどうにか処置して、芸能プロ炎上から一家延焼を食い止めなきゃー!と動き出そうとしたら

金も名誉も女も失い絶望した神谷が晴海団地の屋上からダイビング自殺

なんて地獄エンドで幕を閉じましたとさ。

★感想

ざっくりあらすじを説明しましたが、私の拙い筆力じゃ映画の面白さを5%も伝えれてません。
うー残念。

団地の一室でアットホームな家族が『渡る世間は鬼ばかり』ばりにしゃべりまくる室内劇映画。
ジャンルは社会派コメディ。
しかもキネマ旬報ベストテン。
本来は私の嫌いな要素だらけなのに、魔がさして一度観たら虜になっちゃいましたよ。思ってたイメージと全然違ってて。

★前衛バリバリ演出&音楽に狂え!

まずは「団地の一室(と部屋の前の廊下)のみ」というパッと見手抜きな舞台なのに撮影が凄い!
外から中から上から下から、階段の下から欄間の上から風呂場から覗き窓から、カメラが自由自在にぐるぐる動きまくる。
実相寺式覗き見アングル満載で飽きません。

しかも団地の窓が常に全開なので、バックに東京の空が広がって解放感たっぷり。室内劇の狭苦しさゼロ。
昼の青空、夜空、雨嵐と天気も移り変わるし、ライティングもいちいち凝っててステキぃ。
さらに天国への階段みたいな真っ白な階段を登場人物が上り下りするシュールなショットもあって、バリバリ前衛でいい感じ

一番お気に入りは夜中に息子と娘がゴーゴーダンスを踊り狂うシーン。やかましいゴーゴーダンスミュージックにこれまたやかましいお囃子がイヨー!と重なった狂乱状態のBGMをバックに、男と女が暗闇でクレイジーに踊りまくるw『薔薇の葬列』の実験映像並みのトリップ感です。
そんなゴーゴーダンスの隣で前田パパママが平然とざるそばすすってる姿がまたいいw

★殺傷能力抜群の山岡久乃マシンガントーク

登場人物はどいつも腹に一物&顔に一癖ある曲者だらけでうれしくなりますが、
とりわけ伊藤雄之助パパ&山岡久乃ママの存在がうさんくささマキシマムでたまらないw

伊藤雄之助は顔からしてダメパパにぴったり。
上手い話に乗せられては金をとられる才覚の無さ、息子娘から金を搾取して何とも思わない鉄面皮、でも内心プライドがごっつ高い元海軍中佐様。もうダメの三重苦。でも憎めないw

そんなダメパパを表では立てる貞淑な妻、実際は前田家の悪の司令塔の山岡久乃ママ。パパや息子娘のやらかしに氷の視線を向けつつ、お上品だが毒盛り高速トークで場を仕切る。
その喋り方が小気味よいリアルマシンガントークで、タ、タ、タ、タ、と片っ端から周りを撃ちまくる。
胸をすくセリフ回しが気持ちいい!
『渡鬼』は嫌いだが山岡久乃だけは好きだったなー。
あと、ラストシーンで団地のベランダから1人で最後の顛末を見下ろす長回しシーンの諸行無常がよぎる表情。凄みがあってしびれました。
山岡久乃のベスト名演技でした。

★若尾文子の秘書ファッションは永遠のオヤジ殺し

そして映画ファッションで忘れちゃならんのが若尾文子の白ブラウス&黒タイトスカートの悩殺ファッション。
秘書ファッションの王道だがエロくて素敵ぃ。
ブラウスのフリルとゴツいアクセのバランスがいい!

昔に、どうしてもこの文子様ファッションが着たくて似た感じのを一式そろえた事がありました。
文子様の美貌もスタイルも持って無いけど、会社のオヤジさん達が喜んでくれたよw
秘書ファッションのオヤジ殺し能力を再認識したw
あれは永遠に男に効くぞ。特にオヤジは。

★苦労の中身はわからないけれど

最期に少々重い話。
前田一家が何故クレクレ一家になったのか?といういきさつが、作中でさらっと説明されている。
一家がみんなで話し合ってる最中にパパが「あんな暮らしに戻りたいのか」と言う。すると全員が黙るのだ。

一家は戦後にひどい極貧生活を送り、「ああっ、金が欲しい!」と心から願ったらしい。(作中でこのセリフ言うのは文子様だが)
でも実際に一家がどんなに貧乏な生活だったか全く説明されてない。

映画が公開された1962年の観客はみんな、説明しなくてもリアルに思い浮かべれたんだろう。戦後にあったらしいドロドロの極貧の闇を。
残念ながら私は何も浮かばなかった。
すごく怖い事なんだろうと背筋が凍る思いはあるけれど。

戦後70年って遠いなあ。
距離の遠さがせつなくなる。
せつないからどうという訳じゃないけれど。

(了)
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