No.136『少年』

公開年:1969年
監督:大島渚
脚本:田村孟
ジャンル:風雪DQN流れ旅なブラック子供映画

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大島渚作品は謎ファッションの宝島である。
見るたびに驚きを与えてくれる。
おしゃれとかださいとかを超越して、未知のセンスが光る謎アイテムが見つかる。

こないだの連休、うめめちはセーターを探しに服屋をぶらぶら回ってたんである。
『暗殺の森』のドミニク・サンダみたいなシックで可愛いセーター&ワイドパンツを探してたんだが、どこかの店に置いてあった多分マーカス・ルーファーあたりのポップな柄のお高いセーターをふと見たら、脳天に衝撃が走ったんである。

「こっ…これはっ!ペガサス柄のセーター!!

そりゃデザインの細かい所は全然違うし、ラメやスパンコールでデコってあったんだけど、『少年』を見て余りに余りなデザインに
「これぞ昭和のしまむらセンス」と溜息が漏れた凄い模様のペガサス柄セーターと21世紀のインポート系セレクトショップで合いまみえるとはまさか思わなかった。
流行りってこわいわあ。
★予告編



踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

どうにもこうにも情けない昭和40年代のクソッタレ極まりないDQN犯罪家族が日本列島を当たって旅するロードムービーです。

元傷痍軍人で住所不定無職のパパ(渡辺文雄)。
若くて美人だがふてぶてしい表情の時の顔が友近に見える、元キャバ嬢の茶髪ママ(小山明子)。
小学生で棒読みの声はあどけないが眼光鋭いイイ面してるお兄ちゃん(阿部哲夫)。
ペガサス柄セーター着た幼児の弟(木下剛志)。

何も知らない人には平凡な一家に見えるが、実はパパとママは未入籍(いわゆる内縁関係)。
お兄ちゃんはパパの先妻の子供で、パパの故郷の高知でおばあちゃん家に住んでたが最近両親に引き取られたらしく、パパママへの態度がぎこちない。
パパママ実子の弟とも血がつながってない。
お兄ちゃんは小学校すら行ってない。
こんな因果者の4人家族は、日本のあちこちを転々として暮らしてた。

収入源は当たり屋詐欺。
お兄ちゃんが自動車に体当たりして「いたーい、ケガしたー」と小芝居して、示談金せしめて遊んで暮らす自転車操業。
当たり屋って昭和の時代はよくいたらしい。うめめちの実家の近所にもいた記憶がある。「あいつらの家の周囲30mは徐行で走れ」ってのが町内のドライバーのお約束だった。

★中で出したがおろす金は無い

パパに当たり屋仕事を命じられたお兄ちゃんはママにコツを習い仕事を始めるが、旅も早々の広島県尾道で一大事が発生する。
ママが妊娠しちゃいました

まー!ガキ連れ住所不定安宿暮らしの癖にやる事やって中で出したのかよあんた達!
っていうか今でも生活が自転車稼業なのに3人目のガキを育てる金は無い。でも堕ろす金も無いw
当たり屋で堕胎費用を稼ぐハメになる。

一家は日本海へ移り、島根県松江で仕事して、兵庫県の城崎温泉にたどり着くが、大事な堕胎資金をパパがとち狂って豪華宿で蟹食って芸者遊びして使ってしまう。
そりゃ城崎なら蟹だよね。
じゃなくてさー。だらしねーなー。

行き当たりばったりにも程があるバカ親を見て俺の人生は未来ナッシングだと絶望に駆られ、ではなくバカパパに叱られて「おばあちゃんに会いたいよう」と思ったお兄ちゃんは、小遣い握りしめ家出する。
でも高知に行くには金が足りない。
仕方なく天橋立行きの電車に揺られ、夜中にどこかの田舎駅に着き海辺で野宿。「おばあちゃん家に帰省したごっこ」しながらひとり子供の男泣き。
哀しいねえ…。

結局一家の元へ戻ったお兄ちゃんは、ママの故郷の福井県へ当たり屋の出稼ぎに行く。

★パパがとにかくダメでダメで

お金が貯まりママが中絶する日が来た。
でも土壇場でママの様子に不審を抱いたパパはお兄ちゃんを病院に同行させて見張らせる。
手術の間はどっか行ってらっしゃい、と病院に着いたら外に出されるお兄ちゃん。でもグズグズして病院の周りをうろついてたらママが鬼の形相で病院から出てくるw
やっぱり中絶やめる!と気が変わったママは、病院の外で待ってるお兄ちゃんを見てキチ化。「あんたパパに言いつける気っ!どうせあんた継母のアタシが憎いのねっ!」と容赦なくブッ叩き首絞める。八つ当たりもいいとこだが怒りがおさまると、お水嬢ドラマ定番ネタの『実はアタシも子供の頃継母にいじめられてグレた』トラウマが発動し、「同じ境遇なのねアタシ達」とシンパシーを抱く。

少し目が覚めたママは「こんな暮らしやめてパパママ兄弟(そしてお腹の中の子供)とちゃんとした家に住んで小学校に行かせたい」と言うが、そこでパパが主張する。
「それならもっとお金稼がなきゃなー」
渡辺文雄パパ、なんという鬼畜。
そもそもお前が人並みに正業で稼いで無駄遣いしなきゃいい話だろうが!


そこで意地になったママとお兄ちゃんは、過激な当たり屋(マジ怪我して示談金釣り上げ)で荒稼ぎするがある時、運悪くターゲット相手が整備士で、詐欺だと警察呼ばれて事情聴取を受ける。その場は凌いだが過去の悪事がバレるかも、と考えたパパはしばらく仕事やめて潜伏すると決断し、パパママ兄弟は散り散りに逃げる。
ママ&兄弟は変装して貧乏宿に身をひそめ、山形で一発逆転の当たり屋に成功してお金持ちそうな夫人から大金ゲットする。
これでパパと合流して遠くへ逃げれるね!と喜ぶのも束の間、パパは息子が稼いだ金で1人で高級ホテルに泊まってたw
…ダメだこのパパ。

ぶちぎれたママは秋田で夫婦喧嘩して、お腹にまだ子供がいる事をバラしてしまう。
今更子供おろすタイミングも金も無い一家は津軽海峡を渡り、冬の北海道で鬼の勢いでガンガン当たり屋やって、生まれる子の生活資金を溜めまくる。
そして遂に列島縦断当たり屋の旅ファイナル!
最北端・宗谷岬に到達しちゃった。
やったわアナタ!よくやったお前!おめでとうパパ!
じゃなくて。

「いい加減こんな暮らしやめてちゃんと家借りてまともな仕事して暮らそう」とママは正論で訴えるが、パパがやっぱり煮え切らない態度だったので北の大地で夫婦喧嘩突入。
しかもお兄ちゃんにまで火の粉が回ってくる。
「お前はパパとママどっちにつくんだ」と聞かれて「ママ」と普通に答えたお兄ちゃんは、パパに殴られる。

ほんとだめだこのパパ。

★美少女の血は旅の終わりのサクリファイス

なんて一家がグダグダもめてる隙にペガサスセーター弟が飽きて雪道で遊んでたら、通りかかったトラックとあわや接触!
トラックはギリギリ弟を避けたはずみで傍の電柱にぶつかり事故ってしまった。
当たり屋一家が逆に加害者になって大ピンチ、パパママはあわてて弟連れて逃げる。

残されたお兄ちゃんが見たものは、車から投げ出されて雪の上に転がる少女。
それもかなり美少女ちゃん。
額から流れ落ちる血を見て心動いたか、お兄ちゃんは美少女の足から脱げた長靴を持って帰ってしまう。


お兄ちゃんが宿に帰るとパパがいて、お前が悪いんだと理不尽な説教される。
なんで10歳の少年が悪いんだ。
おめーが全部悪いんだろパパ。
いい加減我慢しきれなかったお兄ちゃんは生まれてはじめてパパに反抗してみるが、パパに殴り返される。

しかし映画観ながら「この映画ロケ中心だから、戸田重昌のモダンアート美術が無いんだねえ…」と薄々感じてきて、それ目当てなら少々残念な展開なんだが、最後の最後でお待たせしました!
お兄ちゃんが殴られたのにキレてママが参戦、家族三つ巴の大喧嘩になったはずみで宿のふすまを開けてしまうと!

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隣の部屋はやっぱり亜空間でした。
北海道の安宿のどこにこんな仕掛けがw

キレて半裸で妻子を殴る中年男の背後に日の丸と骨壺ピラミッドの祭壇というブラックな地獄絵図に絶望したお兄ちゃんは、「死のうと」決意して宿を飛び出すが、ペガサスセーター弟が無邪気について来たので死ぬに死にきれず、雪の野原で兄弟2人で遊ぶ。

雪のピラミッドに美少女の長靴をお供えして、ひとりで宇宙人ごっこするお兄ちゃん。
宇宙人は正義の味方。悪い怪獣をやっつける。
宇宙人は車にぶつかっても怖くないし、ケガもしないし泣かない。
危ない時は星から助けに来る。
そういう宇宙人にぼくはなろうとした。
が、ぼくはふつうのこどもだ。

怒りとも悲しみともつかない感情が溢れて、お兄ちゃんは寒空に向かって叫ぶ。
「宇宙人のバカヤロー!」
おお、大島渚の決めゼリフだw
でも子供が叫ぶと無性に哀しい。

その日を境に当たり屋をやめた一家は大阪で文化住宅を借りて暮らし始めるが、間もなくパパママは逮捕される。でも一番苦労したはずのお兄ちゃんがパパママを必至でかばうんだなー。けなげだなー。
最後は刑事さんと一緒に電車乗った時に「飛行機に乗ったんだってな」と話を向けられ、お兄ちゃんは唐突に美少女の顔を思い出して涙流しながらポツポツと告白する…
という、何とももの哀しく苦い叙情を胸に残しながらのジ・エンド。


★感想

まずどうでもいい訂正。
冒頭の話のマーカス・ルーファーのセーターはペガサス柄ではなくユニコーン柄だった。
まぁそんなに変わらんかw

それはともかく映画の感想。
いい映画です。
こんな趣味の私が言うのも何だが、前衛とか芸術とか抜きにしていい映画です。

いかにも「お涙頂戴!泣かせます!可哀想で健気な子供です!」エピソード満載なのに、お涙頂戴映画にありがちな「さあ泣け感動しろ」な押しつけがましく湿り気たっぷりなある種の圧力が、いい塩梅で抜けている。
社会派ブラックな描写も加減良く控え目。

あとこの手のセンチメンタル感動系映画って私は最初の数回は感動するけど、リピするうちに「お腹一杯もういいや」と飽きてしまいますが、(逆に奇妙奇天烈な前衛難解映画系はなぜかリピしても全然飽きない体質だw)『少年』はどこかアメリカンインディ映画に似たゆるく乾いた味わいのあるロードムービーで、何度リピートしても不思議と飽きません。

原因のひとつはお兄ちゃん役の阿部哲夫。
あらゆる意味で演技(非演技?)が絶妙。
しっかり者長男気質と未成熟さのバランスが絶妙。
子供らしい無邪気さと暗さのバランスが絶妙。
そして絶妙に下手だ。

「大島渚作品といえば素人演技」と言われるくらい、演技力度外視の当たり外れが凄く大きい博打みたいな配役する人ですが
(『戦メリ』の坂本教授のテクノメイクで棒読みとかw初めて観た時ベタにのどがむせるくらい笑ったw)
『少年』の子役は評判通りに大島渚作品で一番の当たり配役でありました。子役演技嫌いな人でも見やすいです。

★大島セレクション・昭和プチプラコーデは必見

しかしやはり服バカうめめちの見どころとして熱く語るべきは!ペガサス柄セーターに始まる昭和のしまむらファッションセンスでしょう。しかし誰がどこで血迷ってペガサス柄なんて作ったんだろう。昭和の子供服メーカーは謎が多い。

有名な話ですがこの映画はATG映画名物の「予算は1本1000万円」という縛りで日本縦断ロケを無理やり敢行するために(実際は若干足が出たらしいが)、「衣装は現地調達(しかもチープな洋品店)」なる無謀な作戦を打ち、ロケ中に野次馬の奥様に「小山明子ったら女優なのに随分ひどい服着てるのねー」とヒソヒソされて小山明子が泣いたそうだ。
そりゃ嫌でしょー、昭和の美人女優様が全身しまらーコーデで野次馬にディスられるってw
旦那が監督でなきゃできないわこんな仕打ちw
「どんなに汚れ役でもいいから衣装だけは誂え物にしてぇぇ」と心中お叫びになったでしょうw

ほんと、昭和の洋品店なのに見事にしまむらセンスで笑う。
「全身5000円でプチプラコーデ☆」
「レッドonピンクで元気ママコーデ☆」
「ターコイズブルージャケットで上品若奥様風☆」
「ダテメガネで教育ママ風シックコーデ☆」
いかにもそれ風に頑張って小技もきかせてて、でもトータルで見ると凄いチープセンスなのがリアル。髪がまた絶妙なヤンママ仕様のプリン&ゆる巻きw
渡辺文雄パパがほんとどーでもいい格好で、地方の小チンピラ風ファッションなのもお似合いw
悪意があっていいわー。

★大島渚の美形観はわっかりやすくて逆に不思議

逆に映画の最重要ターニングポイントである「北海道の雪の上で血を流す美少女」は当たり屋一家のプチプラファッションと対照的に、着てるコートが渋い色合いでシック上品で可愛い。
「ちゃんとした家のお嬢さんの美少女」だと一瞬で分かるよう、おしゃれポイントがきっちり計算されてるのも心憎い。
そしてお人形みたいな顔の美少女ちゃんで、凄いインパクトがありました。

しかし大島渚監督は不思議な感性の人です。
先に「博打みたいな配役」と書きましたが、起用する役者に独特のパターンがある。
目立つ位置に素人を起用して脇はお仲間曲者役者で固める前衛映画監督らしい「ヒネた」配役が基本だが、そこになぜか「わっかりやすい美形」がワンポイントでひょいと混ざるんである。
「大島渚の美形枠」と勝手に呼んでいるw
端的な例が田村正和。
「これは美形が演じる役だ」と決めたら、なんつうか「山は富士山、花は桜」的なわっかりやすい美形を選びたがる。そして極めて真っ当にきれいに撮る。

『戦場のメリー・クリスマス』で坂本教授にキスする美貌の英国軍人役をロバート・レッドフォードにオファー。
最終的にデヴィッド・ボウイなのは分かるとして、何故にレッドフォード。わっかりやっすい。
21世紀なら絶対ブラピにオファーですねw

『御法度』の新鮮組のモテモテ美少年剣士は、当初の構想では木村拓哉。
わっかりやっすーいw全然ヒネてなーいw
むしろ賛否両論分かれる容姿の松田龍平を最終的にチョイスしたのがむしろ謎なくらいだ、

『夏の妹』の栗田ひろみ&りりィ。
ルックスは若干癖あるが必殺アイドル撮りだw

元々は美形・かわいい子がお好きなのねー。と思いますが、他の前衛系監督だと美形を起用しても癖のある美形にするとか、わざと役柄をヒネったり汚れさせたりしますが、大島渚はヒネった素人&曲者配役の中で、美形だけ真っ当に扱うのが逆に面白いです。

★最後はやっぱり渡辺文雄で締める

さて気になる曲者脇役はもちろんこの人。
女にだらしないクズ役の渡辺文雄は絶品。
今回は「女に食わせてもらってるチンピラ」という女にだらしないクズ役者界では最高の役柄で、「スケこまし」「金銭面でルーズ」「DV野郎」と三拍子そろったクズっぷりで魅せてくれます。

しかしこの人は東大卒・電通勤めのエリートの出でテレビじゃ知性派俳優のカテゴリーだったのに、だらしないスケこましクズ男の色香はどこから湧き出るのか。
いつもながらに不思議な人だ。

(了)
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