No.012『マタンゴ』

製作年:1963年
監督:本多猪四郎
脚本:馬淵薫
ジャンル:男女7人が孤島でドロドロレトロな特撮SF映画

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今回は昭和日本が誇る昭和モンド特撮映画の名作であります。

「マタンゴ」というタイトルの響きがいい。
一度聴いたらまず忘れがたいインパクト。たった4文字でB級モンドの香りがねっとり漂う語感が素晴らしい。なんか人生の世知辛さにやけっぱちになったとき人目を憚らず叫んでみたくなりますな。
あまりに響きが良すぎちゃって、ドラクエのキャラになったくらいである。

マタンゴ!
マタンゴ!
マタンゴ!
マタンゴ!
と4匹セットで現れるあいつらです。

wikipedeiaによると本作はあの慶応ボーイなお坊ちゃま、加山雄三主演『ハワイの若大将』と併映されたそうで(そして明らかにこちらがB面扱い)、若大将シリーズに対抗するがごとくお坊ちゃまとセレブなヨット仲間が海で遭難してエゴ丸出しの仲間割れを繰り広げるという、制作者側のどす黒い怨念に満ちた作品に仕上がっています。
こういう当てつけが昭和らしくていいねw
★予告編



ザ・怪奇映画なクラシックスタイル。
水野久美のお肌がてっかてか。
脚注が女子大生じゃなく「女子大学生」ってのが時代だなー。

★あらすじ(青字はネタバレあり

はじまりはいかにも昭和セレブだった。
ヨット愛好家のいけすかない青年社長(土屋嘉男、モデルは堤義明)は自慢の豪華ヨットコレクション「あほうどり号」を見せびらかすため、セレブなお仲間を連れてヨットクルーズしている。
メンツはイケメン心理学助教授(久保明)と、教え子のお嬢様・明子(八代美紀)。
お色気担当のクラブ歌手で社長の愛人・マミ(水野久美)。
流行の推理小説作家(太刀川寛、モデルは大藪春彦
社長の幼なじみ兼部下の頼れるヨットマン(小泉博、モデルは堀江謙一)。
そして下働きのちょっと下種いグラサン船員(佐原健二)もいた。

最初はのんきに甲板で歌ったりしてたご一行だが、まぁお約束通り嵐に遭う。
そこで社長は女にカッコいいところ見せようと嵐の真ん中にヨットを突っ込むw
大体映画の中で「女にカッコつけいけすかない奴はロクな死に目に遭いやしない」ってお約束通りに最新式ヨットが壊れてあっけなく航行不可能となり、何日も海を流されたあげく謎の無人島に漂着する。

無人島は霧とキノコに覆われた不気味な島だった。
食糧になる動物は棲まず、海亀の卵が転がるだけ。渡り鳥すら近づこうとしない。
島の謎を解く手がかりは岸辺にたたずむ難破船のみだが、船員が残したらしい航海日誌には「キノコを食うな」と警告が遺されていた…

★セレブ男女が本性むきだし生き残りゲーム

イケメン助教授は島を脱出しようと色々手を打つが、残りの奴らがもれなくクズ野郎化してお話にならない。
難破船に残った僅かなコンビーフ缶をめぐって横取り争奪戦が勃発するし、海亀の卵が見つければ隠蔽して独り占め、金持ってる社長に高値で売りつけてボロもうけ。
お色気担当のマミは男どもとやりまくり、自分の体を求めて醜く争う男の泥沼喧嘩を見て高笑い。
社長は役に立たないどころかワルい男たちに女は盗られ金をむしられてカモ化するだけ。

ノイローゼになった社長はヨットマンにすがりつき、「俺と二人で島を脱出しよう」と持ちかける。
しかし悪巧みに奔走するバカどものに交わらず、「壊れたヨットを直して島を出る」という正統な方法でコツコツ修理に勤しむヨットマンは、「何てバカな事を言うんだ!」と社長を一喝する。
ああ貴方は地味だけど、さすがヨットマン。頼れる海の男だったのね…

と思わせておいて、こいつが一番ワルだった。
島の食糧全部持ち出して直ったヨットで逃げちゃった。
ひっでー。
モデルは堀江謙一なのにいいのかよw

かくしてますますお腹も心も飢える元セレブがひとりずつ、島に潜む天本英世とキノコ人間の楽しい仲間達の餌食になる。

さすがにヒーローであるイケメン助教授は最後の1人になってもキノコを食べるのを拒み、きのこの森の仲間達を振り切り島を脱出。海をさまよう途中で通りかかった船に拾われ、運良く日本に帰ることができた。

あーめでたしめでたし。

と普通の映画ならここでエンドロールになるが、オチはとある病院の一室。
ネオンだらけの都会の夜景を見ながら、イケメン助教授が医者にキノコ島の顛末を語っていた。
どうやら彼は自分だけが島を脱出したのを後悔していたらしい。

なぜならキノコ島脱出記を医者にひとしきり話した後で、振り返ったイケメンの爽やかなはずの顔が、半分カビ化してたから。
実は助教授も最後の最後に、やっぱり誘惑に負けてキノコ食べちゃってたのでした。
ってきれいにオチをつけてジ・エンド。


★感想

もし『マタンゴ』がアメリカンホラーなら、キノコの大群がこれでもか~と人間を襲い、夏休み東映子供アニメなら悪のキノコ軍団に清く正しい少年少女達が立ち向かうアドベンチャーストーリーになるはずだ。
しかしそういう正統派キノコアドベンチャーを期待するなら、ちょっと期待外れである。
表向きの悪役はキノコ人間でも、あくまでもこの映画におけるメインテーマはドス黒いエゴに飲み込まれるバカな人間どもなのだ。

★なんで島の鏡は割れてるか?の設定が上手い

この映画が上手いなーと思ったところは「キノコが人間を次々襲う」ホラー展開でなくて、無人島に漂着した人間どもが、飢えて仲間割れして荒んで欲望丸出しになって理性が弱ったところをキノコが『誘ってオトす』設定にしたところであります。

セレブ達を惑わす謎のキノコの正体は、とある国の核実験の影響で突然変異した新種のマジックきのこ。
食べても死なないし甘くて美味しく楽しい幻覚も見れるハッピーマッシュルームなのだ。
だけど幻覚がもたらす幸福感と引き換えに、食べた人のカラダはカビに覆われグロいキノコ人間に変身する。
後の平成の世に現れたマジックマッシュルームを予言しているようだ。

でも、グロいキノコになったからって何?
渡り鳥も近づかない無人島で暮らしてて、自分の姿を見るのはキノコ仲間だけ。日本みたいに見た目気にしなくても全然OK!
ハッピーだよね。
たまに自分の姿をうっかり見ちゃって「そういや俺、昔人間だった」って我に返らなきゃ、世の中みんなハッピーハッピー!

という理由で島にある鏡は全部割られている。
ハッピーな夢が覚めてバッドトリップになっちゃうからねえ。
ちなみに天本英世キノコは先に難破船の元乗員で、漂着したセレブ達をハッピー仲間に迎えるために、島の奥のキノコの森から「勧誘」に来た役どころである。全然悪じゃないんである。

島を出たのにおそらく実験体として一生病院に収容されるだろう人生と、島でハッピーキノコとして暮らす人生。
本当はどっちが良かったんだろう?と問いを投げかけて映画は終わる。
昭和特撮映画らしい韜晦した味わいがありますな。特撮部分を円谷英二監督が担当したからでしょうか。いい設定だなあ~としみじみ思う。
こういう韜晦したバッドエンディング、うめめちはもちろん大好きです。

(了)
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