No.141『雁の寺』

公開年:1962年
原作:水上勉
監督:川島雄三
脚本:舟橋和郎、川島雄三
ジャンル:小坊主が後家によろめき炎上な文芸サスペンス

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寒~い冬に暗くて寒~い日本映画。
京都の陰険な寒さが五臓六腑に沁みる、昭和お文芸サスペンス映画はいかがでしょう。

原作はDVDのパッケージ写真そのまんまで、エロタコ坊主と後家の女盛り若尾文子と住み込み奉公の小坊主少年との危ない関係という、何ともげっすいドロドロ文芸小説。
子供時代に京都の名寺でこき使われたという水上勉の恨みつらみがじっとり籠ってますが、川島雄三監督のシニカルでひとひねりある描写でブラックだけど観やすい映画になってます。

でもまぁ、本作のラストシーンは私が観た中で「なんやねんこれ!唖然茫然な謎オチ映画」の三本の指に入る出来栄えだw
未見の方はどうぞお楽しみくださいw
★予告編



巷で話題の「直木賞受賞の文芸小説、実は下種いドロドロ話を格調高い映画にまとめました!」な感じの予告編。
いかにも大映映画らしいセンスですね。

★あらすじ(青字はネタバレあり

舞台は昭和初期の京都・洛北。
京都の金持ち旦那で高名な日本画家の岸本南嶽先生(中村鴈治郎)はお病気で、親しい住職・慈海(三島雅夫)たっての依頼で
雁の襖絵を描いてあげる代わりに、死後にいわゆる小指の女の面倒を見てくれと頼む。

ほどなく南嶽先生はお亡くなりになり、葬儀は住職の寺・孤峯庵で執り行われたが、しばらくして喪服姿の美女・里子(若尾文子)が
「焼香を上げさせてほしい」と寺を訪れる。
頼み事を聞いてた住職は喜んで招き入れるが、喪服姿のお色気に鼻の下がびろんびろん
速攻で「ワシの妾にならへんか」と押し倒し、2人はあーれー帯くるくるの関係になる。

★エロタコ坊主はダブルベッドで燃え燃え

里子は南嶽先生みたいなお大尽じゃなくてケチって噂もある住職の妾は本当はイヤだが、のっぴきならない事情があった。
実家も貧乏で自分の居場所はないしー、オカンに「さっさと次の金づる見つけろ」と言われるしー、でも32歳の(お水方面では)ババアが大物狙いのハントに打って出るのはキツイしー、って訳でしょうがなく孤峯庵に転がり込む。

里子を手に入れた住職はもう大はしゃぎw
ケチなのにダブルベッドを買っちゃって毎晩しっぽり2人風呂そしてダブルベッドでハッスルハッスル
ハッスルしすぎてベッドの底抜けるw
どんだけ頑張るんだよお前らw

そんな調子でバリバリ肉食エロ坊主全開!な慈海住職なんだが実は、孤峯庵は妻帯NGな禅宗の寺。
コラー!だめじゃん。
後ろめたい事情により本山の勤めはさぼりがちで、友達のカメラ大好きモダンインテリ坊主・雪州住職(山茶花究)に、「お前ハメ外し過ぎ」とたしなめられる。
でもそういう雪州さんにも女がいるんだがw
雪州さんいわく「俺のは愛人じゃなくマジ惚れだし。本山に咎められたら坊主やめて結婚するし」らしいが、どっちもどっちだよwダメだこいつら。

★文子様の色気が小坊主の暗いリビドーに火をつける

さて無事旦那が見つかった里子のお寺生活だが、正直すごくヒマだった。
ケチ坊主が家計も檀家管理もがっちりやってるし、家事は住み込みの小坊主・慈念クン(高見国一)に全部お任せ状態だったからだ。

慈念クンは貧しい寺大工の息子の中学生。
住職は頭の良い慈念クンを就学させる代わりに家事全般や寺の用事に思いっきりこき使ってた。
しかしこの子、頭は良いし真面目によく働くが、少々要領が悪いし、寝坊癖があるし、思春期少年特有のお年頃ゆでぶっきらぼうで愛想が無い。

貧乏出身の里子は生い立ちに同情したのと、こき使われぶりが可哀想なのと、まぁヒマなのでw「ママと思って何でも相談してね」と気を配ってやるが、正直大根見ても白菜見ても反応しちゃうお年頃に文子様のメガセクシーはバイオハザードレベル
毎晩住職とやってるエロい愛人に接近されちゃ、青少年の暗いリビドーにガソリンかけられチャッカマンをパチパチやられたようなものw

慈念クンはいけない欲望に悶々と苦悩し、
行動がちょっとずつおかしくなっていく。

★少年の心と体にズケズケ踏み入る鈍い善意

まず慈念クンの寝坊癖が直らないお仕置きに、住職は手作りの目覚ましトラップを作り矯正を試みる。
これがまた上野樹里のダイワハウスのCMばりにめんどくさく強引なトラップ装置で、夜中に里子とエッチ中にうっかり誤爆してお騒がせw
だが誤爆騒動のおかげで、里子は「もしかしてあの子に、住職とのエッチを覗かれてるのかしら…!」と気付く。

さらに、慈念クンが学校サボってるのが発覚。
原因は運動オンチで軍事教練がイヤだから。
担任の宇田先生(木村功)から話を聞いた住職は「せっかく月謝払って学校に通わせたってるのに!」と激怒し、里子はまぁまぁとなだめる。

そして慈念クンは子供時代の事を頑なに隠す。
世間話の雑談レベルでも話しかけたらすぐ逃げる。彼が愛想無いのも学校サボるのもやたら隠すのも過去にトラウマ抱えてるからでは?と考えた里子は色々探ってみるが、逆に心を閉ざされる。

そこへ若狭出身の坊主・黙堂和尚(西村晃)が、獲物の鴨を一匹肩に担いでワイルドに上京してきたのでさあ大変。
ヤバい過去がバレる!とあわてた慈念クンは和尚に、「僕の生い立ちを話さないで」と懇願するが、久しぶりに京の都で鴨鍋食べて酒飲んで文子様見ていい気分♪な和尚は「別に悪い事じゃないし」と思って身の上話を速攻べらべらしゃべる。
名前が黙堂のくせに口軽っw

実は慈念クンは捨て子で本名は捨吉(直球ですな)。育ての親の寺大工嫁(菅井きん)は「こじき谷」出身で(これまた直球ネーミング。後の事情は察するべし)、「奉公先で絶対に出自を言うな」と言われてたのだ。

和尚にチクられたと知ってショックな慈念クンの許へ、秘密のトラウマを知ってしまった里子が慈念クンの部屋へズケズケ入って来る。「あんた可哀想に…っ」ともう同情心MAXでウルウル顔の里子は、「何でもしてあげる!うちのもの全部あげるっ!」と

半ば強引に押し倒して
童貞奪ってしまう。


ええええー?

この手の映画で青少年との禁断の愛シーンは100%あってしかるべきシーンだが、しかしさぁ、温くてひとりよがりな善意で未成年と一発やっちゃあいけないんじゃないの?
観てるこちらもオイオイな禁断行為に走ったせいで、心ならず禅宗の戒律違反を犯した慈念クンはとうとう壊れる。
檀家回りで「住職はどこか修行の旅に出たいらしい」とありもしない噂話を撒いてフラグ立てに勤しんだり、不気味ホラー話して里子を怯えさせたりする。

★黒い小坊主と熱いお経とブラックホールお棺

そして程無く事件が起こる。

住職がちょっと用事で外に出たきり行方不明になり、同時に檀家のじいさんが病気でお亡くなりになる。
葬式を仕切る坊さんがいないわ!困ったどうしよう!と慌てる里子の傍らで、冷静に仕事をこなす慈念クン。カメラ大好きインテリ雪州住職をピンチヒッターにしてじいさんの通夜をつつがなくこなす。

しかし雪州住職のお経が何気に胸熱w
飄々とした顔なのに何故に葬式で熱血w
しかもラストで謎の気合を入れるw何のためにw
対照的に慈念クンは妙に冷静を装った態度だが周囲にどす黒い冷気を振りまいてて、里子は「この子何を考えてるの」とますますおびえる。
さらに夜中に寺の本堂で不審な物音が響き、本葬でじいさん1体しか入ってないはずお棺が1日でなぜかブラックホール化して、「まるでもう1体おデブの遺体が入ってる」ように重くなって困るなど、色々奇妙な出来事が起こる。
もちろん住職は最後まで帰ってこない。

そりゃそうだ。
住職は慈念クンに殺されて、じいさんと抱き合わせで埋められちゃったんだからw
中学生があっさり完全犯罪達成w
いいよーブラック小坊主!

主を失った孤峯庵はピンチに陥るが、本山は「どーせロクに勤めに来ねえバカ坊主だったし逃げたんだろ。ほっとけほっとけ」
と判断して警察にも届けず(いいのかよ)、代理住職を臨時で寺に派遣して幕引きする。
その代理人はインテリ住職でもワイルド和尚でもなく、何と実は元坊主だった担任の宇田先生だったw
何と強引な展開。まぁ木村功がただの中学教師役で終わるはずがないけどねー。

事情を知る先生が上司になって動揺した慈念クンは、自分の身の上の不幸をぶちまけて「人を殺すのは悪い事ですか」と先生に訴えるが、「修行を積めば人を殺す必要はない。悟りを開けば殺すことも生きることもどちらも空しいんだ」と、ご立派ではあるがうーん…な返事されて、なんか絶望して寺を出ようと決意。

一方で金づるのパパもいなくなったし可愛い慈念クンも去ると聞いてショックな里子は、「あんた住職にうちらの関係チクったやろ!
それが原因で住職さんが家出たんやろ!」と詰め寄ったところ、慈念クンは暗い瞳をして「ボクは住職さんの所へ逝くんです…」と自分が殺った証拠品を手渡す。
「あんた、ほんまにまさか…!」
衝撃を受ける里子。

★そして問題のラストシーンへ

ここまで来れば昭和映画ファンはお分かりの通り、ザ・昭和女優の十八番、キチ演技の見せどころです。

錯乱した里子が「雁が!雁が鳴いてる!」とわめきながらお寺中をふらふら歩き回ってると、ふとご自慢の雁の襖絵に穴が開いてるじゃありませんか。
しかも母子雁の絵の母の部分がピンスポットでちぎられてる。
「いいひん!おかあちゃんが!おかあちゃんの雁がいいひん!」と叫びながら、あああ~と人格崩壊する里子さん。

往年の昭和女優のド派手なキチ演技の中では若干華やかさと粘っこさに欠けますが、ソツなくまとめたキチシーンでありました。
あー堪能した。でもうーん、もうちょい木村功の慈念クンの追い詰め方にカタルシスが欲しかったなー。とか何とか感想を浮かべつつエンドロールを待ってたら
ラストがいきなりえらい事にw

シックなモノクロ映像が唐突にカラーにチェンジ。
何の前振りも無く現代に飛んでしまったw
孤峯庵はいつの間にか観光地化されてて、御堂にどかどか入る観光客軍団がいる。しかしガイド役の現住職さんは宇田先生じゃなくて、なんと本編で一切登場しなかった小沢「あやしいおっさん」昭一w
高田純次ばりのえー加減なガイドで昭一しゃべるしゃべる。さーみなさん、これが有名な母子雁の絵でっせーとガイド解説をかぶせて画面に映るのは、あからさまに修復跡が残る雁の絵。

宇田先生は?里子は?慈念クンのその後は?
話の結末を一切ほったらかしにしたまま、なんと昭一のしゃべりで映画が終わっちゃったよ。
昭和文芸映画の香りを片っ端からぶち壊した、ああなんというジ・エンド。


★感想

………。
なんやねんこれ。

別に鑑賞にかかった料金返せ!とはなりませんが、川島監督は名作『幕末太陽傳』など他の映画でも突然前衛炸裂する「驚きの仕掛け」がお好きな人ですし、「無茶なチェンジモードで映画の雰囲気台無し」には前衛お芸術映画で慣れてますけど、でもひどいw

かろうじて一瞬だけ、売店の売り子のババアが客放置で居眠りしてるシーンがあって、「里子は売店のババアに落ちぶれたのか」
ってちょいブラックな描写もチラ見えしますが、その他登場人物は言及全く無し。
格調高い文芸サスペンス映画な90分のひとときをこっぱ微塵に破壊、伏線棚上げ、オチつける気ゼロ、のないない尽くしエンディングには恐れ入りました。

★全くひどいが別の映画で似たようなシーン無かったか?

だがしかし。
小沢昭一と観光客軍団の唐突な登場シーンで、古い映画好きは思い浮かべたんじゃないでしょうか。
『雁の寺』から20年以上後に製作されたベルナルド・ベルトリッチ監督作品『ラストエンペラー』の名ラストシーンを。

正直うめめちは割と日本映画ファン歴が浅いんで、『雁の寺』観る前に『ラストエンペラー』を観たんですが、紫禁城に場違いな♪ぱらりらりら~な電子音が響いてけたたましい中国人ガイド嬢と観光客軍団が登場した時、おんなじように「えええ」とドン引きした訳ですよ。
そうか。あれは小沢昭一的衝撃の中国バージョンだったのかw

でも『ラストエンペラー』は有名な『雨月物語』オマージュのトリック技を出して、劇的演出な感動シーンからのひねり技でしたけど。映画の流れを木っ端微塵に破壊してなかったしなあ。しかし日本映画オチ2連発で締めるとはマニアですね。
『雁の寺』も小沢昭一登場の前後にまっとうなオチをつけとけば良かったかも。
あれじゃひねり技投げっぱなしだからなあ。

★高級ちょいエロ文芸映画は紳士のたしなみ

と、ついラストシーンばかり語ってしまう映画ですがw
「これが天下の大映製作のクラシック文芸映画なり」って感じの、しっとり端正な白黒の画面作りが美しい映画でした。
もちろん随所にブラックな川島監督節が冴えわたる前衛演出もありますし。でも謎の前衛階段セット飛び出狂ったゴーゴーとか、はっちゃけた前衛は今回はありませんがw冒頭のお屋敷シーンのラグジュアリー感と、お葬式シーンが良かったです。

しかし、クラシックな高級ちょいエロ文芸映画って、ご贔屓の美人女将とデートで観たいですわねw
ハイヤーで銀座へ乗り付け和光で待ち合わせて、映画みてハンドバッグでも買ってあげて、夜は料亭行って日本酒と八寸をたしなみつつ、「うーむ、若い僧侶を惑わす若尾文子は実にけしからん女だニヤニヤ」「まぁ頭取ったらウフフ」と紋切り型なおのろけトークしてみたいw
ってどんな感想だよw

しかしこういう文芸の衣をまとったエロスものって息の長いジャンルで、例年まぁ飽きもせず小説が出て、有名女優主演で速攻映画ドラマ化されますが、やっぱりお偉い紳士が女と鑑賞してアフタートークをたしなむ用に作ってんじゃないのか?と思いますけど。暴論ですが。
そういう目的で鑑賞するには、配役はバッチリ。文子様の和服エロスが目一杯堪能できますし。

脇役では三島雅夫の住職がイメージぴったり。
エロタコ坊主らしく恰幅良く福々しいお顔立ちで、紳士もイメージプレイしやすいだろうしw

慈念クン役の高見国一は演技も達者で不穏な暗さがあり、お経読む時のええ声~♪が良かったが、欲を言えば達者過ぎて不幸な中学生感に欠ける。
リアル中坊は無理でも、15歳に見える儚げな少年であれば…と思ったが、いくらフィクションの世界でも文子様が中学生の童貞奪うシーンにリアリティ持たせるのは犯罪かw
そんな事する不届きな奴は寺山修司だけですねw

★おまけ 菅井きんを探せ!

推定日本一トタン屋根の似合う女優、お久しぶりの菅井きんコーナー。
今回は雪のド田舎のボロ家のセットと見事に一体化しておられて、オカン役というよりババアに半分足突っ込んだ毎度ながらの老けっぷりですが、当時なんと広末涼子と同じくらいの36歳
いやー凄い。リスペクト。

(了)

追記:
『ラストエンペラー』のアレはコオロギの後だろ?とご指摘を受けまして一部修正しました。
そういえばそうだっけ。記憶がテキトーでごめんなさい。
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