No.146『暗殺の森』

公開年:1970年
原作:アルベルト・モラヴィア『孤独な青年』
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
ジャンル:ヘタレ旦那とおバカ嫁のドキドキ暗殺新婚旅行

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全国の働く皆様いかがお過ごしでしたか。
繁忙期でバリバリ働く、もしくは帰省という名のタダ働きの2択ではなかったでしたか。
先週はたまった仕事をバリバリさばきましたか。
あー疲れた。たまには何も考えずのんびり1か月くらいバカンス旅行してえ。

って事でテーマは「旅する映画」、今回は新婚旅行。
今さら私の拙い文章でレビューする必要性はみじんも無いくらい、めくるめく前衛映像美派の総本山な作品。

すばらしい!
すばらしい!
ブラボーーーー!!!
と、何度観てもスタンディングオベーションしたくなる名画なのは間違いないんですが、名画だからって見過ごしちゃーいけない欠点はある。

大体前衛映画の登場人物なんて、有名作品をひと通り観たらダメ人間図鑑が1冊出来るくらい、まっとうな人間が出てこないもんである。が、それにしても『暗殺の森』の主人公はダメだ。どーしようもねえモラトリアムなダメ人間だ。
お前が蜂の巣になってしまえ、このヘタレ旦那!
主人公さえ目をつぶれば傑作です。あーホント良い映画だ。あいつのアレさえなければ。
★予告編



予告編にはあいつのアレは匂わす程度しか出てきません。
安心してめくるめく世界の一端をお楽しみください。

★はじめに

哀愁たっぷりメロディのザ・イタリア!な映画音楽と、アールデコの白黒フォントでシックに決めるオープニングを皮切りに、序盤から自慢のカメラワークを駆使した美麗シーンを出しまくり。
「どうだ美しいか!これが俺の美学だ!」と吠えんばかりに俺様映像美全開で、私のメケメケハートは画面に釘付けなんだが、画面が美しすぎてあらすじがちっとも頭に入らないwので要注意。
前衛映画にありがちな「過去と現在が交差するフラッシュバックの嵐」攻撃のせいもあるが。
まぁ途中までわけわかめでもニコラス・ローグ作品よりは若干親切設計に出来てます。主人公のトラウマ告白シーン辺りから一本筋にまとまってくるので、それまでは映像美をぼーっと眺めるだけで全然大丈夫です。

★あらすじ(青字はネタバレあり

舞台は第二次世界大戦直前。
世界のあちこちでファシズムが台頭してる時代。
やたらモダンで広大な政府の執務室で、黒スーツのセクシーなおねーちゃんがデスクでファシスト党のお偉いさんとうっふんする程度に、世は頽廃し腐っております。

花の都パリ(またかよ)へ新婚旅行に若いイタリア人夫婦の旦那の方、マルチェロ・クレリチ(ジャン=ルイ・トランティニャン。岡田准一を渋ーーくしたような美形兄さん)は、旅行中に嫁の目を盗んであやしい活動を行っていた。
実は彼はファシスト党の情報部員。新婚旅行は世を忍ぶ仮の姿で、手下のマンガニエーロ(ガストーネ・モスキン)と共に、パリに潜伏する反ファシスト活動家の親玉・クアドリ教授(エンツォ・タラシオ)をシメる計画を実行しようとしてるんである。
話はマルチェロが工作活動中に自分の過去を思い浮かべるフラッシュバック形式で進みます。

マルチェロの表の顔は大学の哲学科講師。食えなさそうな哲学科専攻で博士号を取ってる経歴からして、彼は貴族出身のお坊ちゃま。しかしとある事情で実家は頼りにならず、立身出世の資金源の為にブルジョワ出身のご令嬢、ジュリア(ステファニア・サンドレッリ)と婚約している。
ジュリアは親も居る真っ昼間の家で婚約者に「あなたがいいなら今床の上でもやっちゃうわ」とぬかすバカねーちゃんだが、若いし可愛いしバカだが素直だし、彼女のご両親にも結婚を歓迎されてないし、一見普通の幸せな男に見える。

だが一方で彼は友人イタロ(ホセ・クアリロ)の紹介で、自ら進んでファシスト党に入党する。
しかもクアドリ教授は大学のゼミの恩師だというに「僕、教授をシメるの協力しまっせ」と自己アピールする鬼畜っぷりである。
マルチェロは党の指示でマンガニエーロとコンビ組んでお仕事を始める。モラトリアム全開のボンボン気質なマルチェロに対して、マンガニエーロはいかにも「その道のプロ」って感じの渋ーいしゃがれ声のおっさん。工作活動の実行担当、兼お目付役をやってます。
2人が向かった先はマルチェロの実家。
由緒ありそうなお屋敷なんだが、手入れもされずに荒れている。
家にはマルチェロのママがいるが、いい年して昼間からマッパにふりふりケープ着て犬だらけの家でだらしなく暮らしてる姿は、「うわー。こいつはヤバそな物件」w
事実ママはヤク中で、しかも病気の旦那を放置して「入院費がかさむからとっとと死ねばいいのに」と毒吐くし、運転手の愛人と同棲してるダメビッチだった。で、ママの顔見て「頽廃に吐き気がする」とうんざりしたマルチェロは、マンガニエーロに命令して運転手愛人をサックリ殺させる。

は?反ファシスト関係無く完全に私情ですやん。
しかも自分で殺ってませんやん。
という「見ながらふと感じた小さなツッコミ」がこの映画では後々重要だったりする。めくるめく映像美の洪水に惑わされて見逃しがちですが。

★僕、普通の男になりたいんです

お次に精神病院を訪ねるマルチェロ。
ここにはパパが入院してて、一応「僕、結婚しようと思ってるんですが」と報告に来たのだった。まあパパはそんなのどーでも良さげな様子だが。
パパは昔ドイツに居た頃に、ナチスと何かトラブルがあって精神を病んだらしく、以来ずっと病院暮らし。
精神病の原因は明らかなんだが、しかし何故かジュリアの実家に「お前の婚約者の父親は梅毒だ、遺伝性の精神病だ」と怪文書が届く。そんな事実は無くジュリアの家族もまるで相手にしてないのに、「無実です!梅毒検査を受けます!」とかたくなに弁解を言い張る主人公。
実はマルチェロは両親の問題の他にもうひとつトラウマがあり、そのせいでジュリアと結婚一歩手前でうだうだ苦悩していた。

そのトラウマとは、まだセーラー服があどけないいじめられっ子美少年だった13歳の頃に、当時のお抱え運転手にやられちゃったんである。
しかもその場にあったピストルでそいつを殺しちゃったんである。
殺人はバレなかったか貴族の権力で揉み消したか知らないが、その後マルチェロは特におとがめも無く成長する。でも両親がアレで実家が没落した事情もあり、「僕の本性はホモの変態で殺人鬼でパパ由来の精神病者なんじゃなかろうか?」と自分で自分に怯えているんである。

そんな疑惑を払拭する為、成人したマルチェロがやる事はただひとつ。
「僕は世間様に必要とされてる、普通の大人の男になりたいんです」と自己アピールにいそしむ事だ。

まず18歳で風俗で筆おろし。それなりに遊びの女関係を作り、俺は女でも勃つ!をアピール。マルチェロ的にここ重要。
ちゃんと大学出て、世の人々に尊敬される先生業で働く。そうだよねー今ドキ貴族の看板だけじゃ食えないし、尊敬されないし。
それだけじゃ足らず「僕はアナーキストなんてバカげた反体制思想は持ってません。体制側のまともな人間ですよ」とアピールしたいがためにファシスト党に入党。
うーん…いわゆるキョロ充の香りがします…

って感じに大人の階段を着実に昇ったマルチェロだったが、どうしても心に巣食うトラウマは消えなかったので、大人階段の最後のシメとして教会に行き(悪い思想持ってないキリスト教信者ですよとアピール。ここ重要)、司祭に過去の過ちを告白して「普通の男になりたいんです。どうすればなれますか」と相談する。
司祭の返事は明快だった。
「遊びの女じゃなくてとっとと結婚しなはれ。妻子持ってこそ大人の男」
司祭のお言葉に後押しされてマルチェロはようやく結婚を決める。その割にはお悩み相談の合間にバカだのケチだのプチブルは嫌だの嫁実家の愚痴を言ってるが(ああ、ほんとにこいつヤな奴だ)。

マルチェロとジュリアは結婚してイタロや仲間達にささやかなお祝いパーティーを開いてもらい、満を持して「花の都パリを満喫!新婚ラブラブツアー」に出かける。
もちろんそれはマルチェロ的には隠れ蓑で、実際は「クアドリ教授と仲間達をシメる旅」なんだからうかれてられないんだが、意外にも幸せ一杯なはずのジュリアがマリッジブルーになっていた。
パリ行きの寝台列車の中で慰めようとしたマルチェロに、嫁は「あたし、あなたにふさわしい女じゃないの」といきなりトラウマを告白する。それはなんと「自分は生娘じゃない。少女時代に親の友人の60歳ジジイにレイプされて愛人させられてた」という、旦那とタメ張るくらい激重な内容だった。

うーん、どうしようか。
新婚旅行の初っ端でこんなヘビーな告白されてもー。
普通の旦那ならウッと詰まるシーンだが、嫁実家の「健全に幸せなプチブルオーラ」に辟易してたマルチェロは、「ああ!健全で幸せなバカ女子だと思ってたこいつも、後ろ暗いトラウマを持つ汚れたビッチなんだ!僕と同じタイプの人間なんだ!今までなんか敷居高かったけどもう大丈夫!こいつならヤレる!」と思い至り

「僕は君の過去なんか全然気にしないよ」と心広い男を装いつつ欲情して速攻押し倒して一発やる。

……。
思考回路のクソ加減にあごの骨が1本外れます。
だめだこいつ。

★教授の嫁はセクシーすぎる美人若妻

ま、経緯はともかく晴れて夫婦になった2人はラブラブパリ旅行を満喫しますが、マリッジブルーが解決して陽気なバカ女に戻ったジュリアのおかげで困った事態が発生する。
ジュリアが詮索大好き束縛タイプで、マンガニエーロへ電話するのもアレコレ聞かれてままならないんである。
まぁ傍から見たらオノロケなんだがw工作活動には由々しき問題。しかし偽装新婚旅行は予想外の展開を見せる。
「新婚旅行のついでに、お世話になった恩師に嫁を紹介する」を口実にクアドリ教授の潜伏先を訪問したマルチェロは、逆に教授からも新婚の嫁を紹介される。
なんとクアドリ教授はインテリおやじの癖に、ぴっちぴちに若いブロンド美人嫁・アンナ(ドミニク・サンダ)がいたんである。

アンナはパンツスーツにくわえ煙草で客を出迎える自由奔放な今ドキ女子で、成金田舎娘のジュリアは「キャー素敵なおねえさまー」と宝塚ノリな憧れのまなざしを向ける。
「パリ案内ならあたしがしたげるわよ」
「まあ!ぜひお願いしたいわ!」
2人は女子トークで盛り上がり、夫婦でパリ観光の予定がいつの間にか「パリジェンヌと行くおしゃれツアー!お買い物してエステして女子力アップ!」に変わってたw
でもおかげでマルチェロは嫁の詮索から解放されて任務に励めるし結果オーライなんだが、困った事にアンナにはもうひとつ秘密があった。なんと彼女の正体は、映画の初めにファシスト党の執務室でお偉いさんとうっふんしてた黒スーツの愛人おねーちゃんだったのだ!

彼女はクアドリ教授一味のスパイ?それともファシスト党が送り込んだ逆スパイ?
得体の知れない妖しい美女にマルチェロは一目惚れ。新婚旅行中でありながら、嫁のおしゃれ買い物ツアーの隙間を見計らってアンナに近づき

一発おやりになる。

おい。
重い腰上げて結婚決めたばかりじゃねーのかよ。
嫁は一発やるのに随分うだうだした癖に、金髪ぴちぴち人妻ねーちゃんは速攻食うのかよ。
でもこのアホ旦那はピチピチの肉体と不倫のスリルと興奮にメロメロで、出会ってまもない間柄だっつーのに「嫁も教授も何もかも捨てて2人で北アフリカへ逃げないか」と脳味噌プリンな世迷言をほざく始末だ。

普通の大人の男になるんじゃなかったのかよ。
結婚して大人の階段登るんじゃねえのかよ。
てめーもっかいローマに戻って信仰告白からやり直せ。
ていうか不倫の前に仕事しろよ仕事!
党の指令がクアドリ教授と仲間達の情報収集から暗殺指令に変わってんだろーが!!
と私が上司なら一発張り倒すわ。ほんとだめだこいつ。

★タンゴと中華料理とオヤジの説教で暮れるパリのナイトライフ

暗殺指令というトラウマ不倫だのふぬけた寝言ほざいてるどころじゃない状況を迎え、マルチェロは目が醒めるどころか、俄然ヘタレ全開になる。
「教授を殺すってのは、ちょっと…」
とぐだぐだ迷い始める煮え切らない態度に神経ブチッときたマンガニエーロは、マルチェロを裏へ呼び出し説教する。

そりゃまあ自分から進んでファシスト党情報部に入って恩師売った癖に、細かい事は全部マンガニエーロたち部下任せ、肝心のヘッドは嫁と新婚旅行でやりまくってパリ観光して、さらに(ファシスト党とつながりがある女といえ)素性の知れないターゲットのガールフレンドと不倫までしくさった挙句、暗殺なんて聞いてないーとか手を汚したくないーとか甘っちょろい事をぬかすバカには、「ぐだぐだごねてねーでとっととお仕事進めろよ」と説教したくなる気持ちは十分わかる。
そりゃ頭きて当然だわ。ご苦労様です。

一方でクアドリ教授もマルチェロの不穏な動きを察してか、「君もいつか自分の信念を捨てる日が来るよ」とか意味深な言葉で揺さぶってくるし、でもマンガニエーロたち部下の動きも止めれない。止めたら即ファシスト党の吊し上げ喰らいそうだし。
楽しい観光旅行も上の空で、右に左にぐーらぐーら揺れるバカ旦那。

そんな旦那の裏側を全く知らない嫁ジュリアは、アンナのお見立てで最新パリモードをお買い上げ
アンナとプチエステで女子力アップして、ついでにプチレズごっこしてうふふ
夜は最先端アールデコなゴージャスドレス&キメッキメなヘアメイクでおしゃれして、クアドリ教授夫妻とダブルデート
当時パリでいけてる中華料理屋で食べて飲んでアフターディナーはダンスホール
とパリライフを満喫していた。

しかも彼女は旦那の前で、ローマの貞淑なプチブル子女はまずやらないだろう「旅の恥はかき捨て」なプチ冒険をする。
アンナと女同志で官能のタンゴを踊っちゃう
これがかの有名な「女ふたりタンゴシーン」であります。



タンゴシーンからダンスホールの客全員でお手手つないで踊りまくるシークエンスが映像美のハイライト。ヨーロピアンお芸術映画ファンが泣いて喜ぶめくるめくりまくりの宴であります。
美しい!艶めかしい!素晴らしい!
ヴィットリオ・ストラーロ撮影の映像魔術に酔いしれる至福のひと時です。
ああうっとりー。

まぁ映像美にうっとり酔いしれた気分も、以降のオチでスットーンと落とされる訳ですが。

★ラストは腰も砕ける問題の三段オチ

実はクアドリ教授夫妻は翌日からサヴォアの別荘で休暇を取る予定だったので、「君たちも一緒に行かないか?」とマルチェロ夫妻を誘ってみた。
しかしジュリアが急に言葉を濁す。
「えー、明日はダーリンと観光する予定なの…」
おおどうした。浮かれすぎて腹でも下したか?またはさすがに旦那放ったらかし状態が毎日続くのはまずいので方向転換か?
アンナも「じゃあ私もパリに残るわ」と言葉を合わせる。
結局教授とマルチェロが男2人で別荘に行く事になり、絶好のチャンスが転がり込んだ。マルチェロとマンガニエーロはサヴォアで暗殺を決行すると決める。

という訳で話は映画冒頭、暗殺実行日の朝に戻る。
早朝パリを出発する教授をマンガニエーロたち部下が尾行すると、なんと気が変わったアンナが一緒に車に乗っていた。
ホテルで朝の支度しながら(嫁は昨日の疲れでマッパで爆睡中w)マンガニエーロからの報告を聞いたマルチェロは、「えっやばい!アンナが巻き添え食うじゃん!」と思ったが止めようが無い。
マルチェロは嫁をパリに残して教授夫妻の後を追いかけた。

車はパリを離れて順調にサヴォアへと走り、雪の降る森の中の一本道に差し掛かった。
すると前方でダミーですよと言わんばかりにw謎の車が立往生してるのを発見。
いつものお取り巻きと離れて警戒心の緩んだクアドリ教授は、「危ないわ」と止めるアンナをさえぎり、ドライバーを手助けしようと近づいたところ、予想通りファシスト党の暗殺部隊が襲いかかる。
教授はメッタ刺しで即死。
一部始終を見てしまったアンナは、気が動転して暗殺部隊が待ち構えるど真ん中で車から降り、マルチェロの乗る後部車両に走り寄り「助けてー!」と叫ぶ。

だがマルチェロはこの期に及んで、暗殺に手を染めはしなかった。
かと言ってアンナを助けもしなかった。
アンナが叫び、あきらめ、雪の森を走り回り、暗殺部隊に射殺されるまで一部始終を、車の後部座席にじっと座って眺める…事すらしやがらないw
車のお外でやってる野蛮な出来事は全部僕ちゃん知りませーん関係ありませーんとシャットアウト。

まさかの見ざる聞かざる言わざる大作戦。

え”え”え”---っ!!
予想を遥かに超えるあんまりなどヘタレぶりに、マンガニエーロも思わず怒鳴る。
「何てヤツだ!こんな卑怯者と相棒組むのはもうごめんだ!撃ち殺してやりてえ!」
その通りだよマンガニエーロさん。良く言った。

マルチェロは何事も無かったかのように嫁の元へ帰り2人で帰国。
そして数年後。
第2位次世界大戦が終わりファシスト政権は崩壊、マルチェロは嫁と多分ハネムーンでデキた子供と3人で、ひっそりと普通の男の暮らししてた。するとめくるめくパリの日々から10歳以上老けたように見える、くたびれた主婦顔してだっさい服着たジュリアが、今更意外な告白をする。
実は旦那が何者でパリで何やってたか、全部知ってたんである。
いや最初は知らなかったが、パリジェンヌおしゃれツアーの合間にアンナから教えてもらったんである。だからサヴォアの別荘に行かなかったんである。そして教授とアンナが殺されて悟った彼女はその日以来無邪気な女子を封印して、貞淑だがどうしようもなく味気ない嫁として生きてきたのである。
しかしそんな重大な事を知りながら旦那の前で浮かれた顔してタンゴ踊りまくってたのか。女って怖いわ。

ジュリアを家に残し、マルチェロは友人イタロに呼ばれて街に出る。
街は戦後の混乱期で、あちこちにスラムが出来ていた。にしてはいかにもセットなお綺麗スラムでみんなメイクくさい浮浪者だがw
すると偶然、誰かに似てるきったねえオネエ浮浪者のオッサンと遭遇する。
オネエさんはおキニなタイプのイケメン浮浪者を口説いてた
のを見てにわかにマルチェロの記憶の扉が開く。

「お前、お前は…俺が殺したはずの運転手じゃねーか!」

なんとホモ運転手は生きていた。
ていうか最初から殺されちゃいなかったw
マルチェロは男にケツ掘られたトラウマから運転手を殺す妄想に耽り、次第に「俺は本当にあいつを殺した」と思い込んでただけなのだ。

身も蓋も無い真実が出てきて錯乱したマルチェロは、さらにスラム街にアンチファシズムのデモ隊御一行が現れて「やばい、俺がファシスト党員だと知れたらリンチされる」と慌てふためき、盲目のイタロを身代わりにしてトンズラこく。
しかも「みなさーんここにファシストがいます!人殺しのクソ野郎もいます!こいつがクアドリ教授夫妻を殺したんです!」と指さして騒いでみんなの注意が自分から逸れた隙に逃げるっつう人でなしぶり。ひっでー。

終始一貫人に罪をなすりつけるどヘタレだったマルチェロは、逃げ回った末にスラム街の路地裏に座り込む。
すると背後でオネエな浮浪者兄さんがマッパで誘ってるじゃありませんかw雰囲気はあからさまに男娼ルームw
本性はゲイじゃねえのあんたwと誘いながら、兄さんが蓄音機で甘~いラブソングを聞かせます。
♪ねえあなた、何がしたかったのかしら~♪
ヨーロッパ前衛映画らしい頽廃の極みなオチでジ・エンド。


★感想

ほんと素晴らしいね、主人公がクズっぷりを除けば。

「前衛お芸術映画の主人公はダメ男」と頭に叩き込んでもやっぱひどいね。
今まで数多くの前衛映画を観てきまして、すなわち様々なパターンのダメ男を観てきた訳ですが、私の中でマルチェロ君は実相寺昭雄監督作品『無常』のスーパー逆切れボンクラ息子とタメを張るトップクラスのクズ野郎であります。
『無常』のボンクラがやらんでもいい事をやらかす能動的クズの極みなら、マルチェロは受動的クズの極み。キョロ充の事なかれ主義は犯罪者と同じくらい罪深い、と知らしめてくれる映画です。
わしゃあゲイだろうがトラウマがあろうがアダルトチルドレンだろうが別にいいけど、自分が手を汚すのが嫌だから代わりに他人を人身御供に出し人生を踏みにじる奴は嫌いだ。
と、たまにまっとうな事を言ってみる。

しかし『無常』のスーパー逆切れボンクラ息子は罪深いが田村亮に罪は無いように、クズ男を演じるジャン=ルイ・トランティニャンの渋い哀愁は見応えありました。
この人は眉間の二本の皺が味わい深い塩梅に出来ますねえ。なんか眉間のちょい上あたりのデコに「逡巡」とか「晦渋」とか筆ペンで描きたくなります。

★前衛お耽美系監督&撮影監督の美意識は天上天下唯我独尊俺様最高であるべきだ

さて、クズは置いといて素敵な映像美を力の限りほめほめする。

主人公のダメダメなキョロ充っぷりにイライラする話と正反対で、当時アラサーのベルナルド・ベルトルッチ監督&ヴィットリオ・ストラーロ撮影監督コンビの画面作りは、ゴリゴリの俺様お耽美ワールド全開です。
「俺を見ろ!俺を見ろ!俺すごい!俺天才!俺最高!俺の映像は世界一ィィィー!」
と叫ばんばかりに、すべてのショットでキメキメに凝りまくり攻めまくる。

たしかにきれい。凄い。すんばらしい。
数十年経った今でも色褪せない完璧ワールドにうっとり~。
でもあまりにナルシスティックにキメキメイケイケすぎるんだなー。
「いいか世界中の映画関係者よしかと観よ!これが頽廃美学というものだー!」と吠えんばかりに、息苦しいまでに完璧にキメまくった構図。パースの効いたヌーヴェルヴァーグ系カメラワークの連打。これでもかと陰影つけまくる光と影のページェント映像。映画で出てくる「クアドリ教授の電話番号」に実在のゴダール先生の電話番号を使うとかいう青臭いスノッブ全開っぷり。余りにみっちり濃厚で観てると疲れることこの上ないw
そりゃ日本の実相寺昭雄や鈴木清順だってナルシストな俺様全開映像でしたが、ヨーロッパのナルシストはなんか体力馬力が違うと感じました。坂本龍一が『ラストエンペラー』の音楽録音してた時、ベルトルッチ監督に本番中ずっと「エモーショナル!エモーショナル!」と背後から怒鳴られっぱなしでうんざりした気持ちがよくわかるw俺様美学にかけるテンションが異常に高い、バリバリ肉食系の香りがします。観る方も気合入れなきゃ食当たり起こしますw

でもこれでいいんです。
前衛お耽美系監督&撮影監督が天上天下唯我独尊俺様最高じゃなくてどうする!
視聴者やスポンサーや批評家周りに気を配ったアヴァンギャルド映画などつまんないですしね。

ルキノ・ヴィスコンティ監督作品や中期ベルトルッチ作品のようなヨーロッパお耽美系映画は、私は体力気力が充実したここぞって時に観ますwワインがぶ飲みしてローストビーフ丼とかバリバリ食って、さあ気合入れて耽美するぞ!って鼻息荒い気分で是非どうぞ。

★お仕事ファッションに行き詰ったらドミニク・サンダのパンツに戻れ

さてファッション。イタリア映画ですから当然ドレスはもちろん、帽子から靴までぬかりなくおっしゃれー。
ドミニク・サンダ&ステファニア・サンドレッリがアールデコファッションに、マルチェロの貴族ママの毛皮、マンガニエーロのイタリアンオヤジなコートの着こなしまで、映像同様細かい所まで凝ってて参考になります。
まぁ体のラインがバッチリ出るアールデコドレスをベタな日本人体型が着こなすのは厳しすぎますがw私が一番影響を受けたのはドミニク・サンダのグレーニット&パンツスーツであります。

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うーんかっこいい。
グレートーンの加減が絶妙でございます。
自分語りですが最近ファッション、とりわけ日々のお仕事ファッションに悩むようになりまして。程々いい年&いい役職のあるべきファッションとはなんなのかと。そこそこ品が良く相応にきちんと感があり、かつそこそこモードでこなれてて、若ぶったキツい女に見えないがパサパサに老けても見えないようにするにはどうするかと。
自分で書いてても欲張りすぎだろと笑っちゃいますがw
まぁそんな虫の良いおしゃれを目指して日々あれこれ頑張って考える訳ですが、その時にコーディネートの基調にしてるのが、このパンツとニットのマニッシュな着こなしであります。
上で挙げた虫の良い条件が全部そろってます。
これとジャケットかコートをさらっと合わせたら、秋冬の内勤ファッションは一丁上がりです。
「行き詰ったらドミニク・サンダのパンツに戻れ」と自分に言い聞かせてます。まぁ映画で着てるのは当時19歳のドミニク・サンダだという事実に目をつぶる必要はありますがwそれくらい完成度が高いコーディネートだということでご容赦ください。

さてグダグダ感想のラストはドミニク・サンダについて。
昔の女優さんの中には一定数「女の人生生き急ぎ過ぎだろ」といわんばかりに、10代、20代女子としてありえないある種の貫禄を備えた方がいらっしゃる。
『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』の「池玲子、18歳で全裸殺陣」
『思春の森』の「エヴァ・イオネスコ、12歳で女のプロ」
とかそういう筋の方ですね。
で、『暗殺の森』のドミニク・サンダ19歳。当然のごとくがっちり脱いでます。体はぴっちぴちムチムチ、顔は日本人好みの大人顔過ぎないアンニュイ美人さんですが、何ですかこの腰の据わった貫禄のいい女っぷりは!と驚いてたら理由がありました。
なんと16歳で結婚。18歳でバツイチ。
貫禄で煙草をくわえて登場し、黒スーツで執務室のデスクに横たわり濡れ場をこなすバツイチ19歳…。
女の人生早回し過ぎだろ。
女優の世界は凄いですね。これはちょっと真似不可能。

(了)
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