No.147『とべない沈黙』

公開年:1966年
監督: 黒木和雄
脚本: 松川八洲雄、岩佐寿彌、黒木和雄
ジャンル:蝶にとっては命がけ。ロードムービーな前衛オムニバス映画

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仕事の出張以外に旅する暇無いんで映画の中でだけ旅する企画、日本縦断(一部海外)の旅。
といっても旅するのは蝶々だけなんだがw

久しぶりに当ブログ王道のATG系。
東宝製作で作ったものの試写で「き○がい映画」と酷評され(ストレートやなw)お蔵入りになりATGに流れてきたという、いわくつきの映像詩系前衛映画。

蝶が旅する
登場人物に名前が無い
加賀まりこが1人7役(しかも役どころは全部「謎の女」設定)
ポスターのデザインがコレ
いかほど難解か想像がつくってもんですね。
しかしさすが元東宝、脇の役者陣がやたら豪華だ。蜷川幸雄氏もチョイ役で出てまして、遅ればせながら追悼も兼ねて。

話の展開なんか全然グダグダわけわかめなのに、観てると不思議なオーラを感じる映画。うめめちご贔屓・鈴木達夫撮影作品の中でもかなりお気に入りの一本です。
映画館で観るより断然DVDがおすすめ。蒸し暑い夏の午後に、冷房きかせた部屋で寝っころがって観ると良いクールダウンになりますよ。
ただし30分以内に爆睡しますがw
不眠解消にガチで効きます。

★予告編

Vimeoしか予告編置いてなかった。

どんだけ奇妙奇天烈支離滅裂な内容でも強引に解釈する煽り文句業界ですら、歯が立たなかったらしいw
全く意味わかんないが問題作ってのはビシビシ感じる予告編。
お気にいればどうぞ。

あと虫嫌いは要注意。蝶々より芋虫の登場時間がはるかに長い。

★あらすじ(青字はネタバレあり

あらすじなんかあって無いようなものだけど、まあ一応説明する。

始まりは北海道の草原。
蝶マニアの少年(平中実)が偶然珍しい蝶々を捕まえる。調べたらナガサキアゲハという種類らしい。
けれど学校の先生(小沢昭一)に「自分で見つけたなんて嘘言え」と信じてもらえず、鑑定した大学教授の先生(戸浦六宏)は「熱帯に生息する品種だから北海道にいるはずがない」と全否定。

少年は落胆して蝶々を草原で捨てようとする。
すると目の前に白いワンピの美少女(加賀まりこ。かわいー!!)が現れる。

美少女は森の中のボロい小屋で木こりの偏屈ジジイ(山茶花究)と住んでいた。でもジジイは蝶々が死んじゃってたのを見て「何故蝶を殺したのか?蝶は死んだら蝶じゃねえ。蝶は飛んでナンボじゃ」と子供相手に意地悪な事を言う。
なんか踏んだり蹴ったりな感じなので、少年は蝶々の屍骸を川に捨ててしまう。

さて北海道にいるはずのないナガサキアゲハは、一体どこからどうやって北海道に来たんでしょう?
そこで映画はナガサキアゲハが旅した足跡を追っていく…という筋立て。

★まだ物語が成立してる気がする前半戦

ナガサキアゲハだから旅のルートは長崎スタート。

蝶々になる前の芋虫(アップは正直きもい)は、日当たりの良い果樹園でザボンの木の葉っぱを食べていた。するとザボンの実が虫ごと収穫されて売られてしまう。
買ったのは観光客のおっさん。汽車に乗り、さてお土産のザボンを食べよっかと取り出すと、葉っぱに芋虫がついていた。うっわーキモい!とおっさんは驚いて窓から放り投げる。
ここはどこ。私はどうしたらよろしいの?
芋虫が線路をのたくってると、再び不思議女子(加賀まりこその2)が現れて拾ってくれた。

という事で不思議女子に連れられて着いた先は山口県萩市。

旧家のお屋敷の塀の上に置かれた芋虫。すると芋虫目線から見たお屋敷の中で、男と女が昼下がりから一発やってるという仕掛け。
女は当家の未亡人(木村俊恵)、男は広島出身のわけあり青年(長門裕之)。ふたりは事後に切羽詰まった感じで駆け落ち話をする。未亡人の気怠い姿が何ともエロスだけど、結局青年はふられたらしく、芋虫を連れて故郷の広島へ戻る。
平和記念公園で芋虫を置いて姿を消した青年の正体は「旧家の未亡人と共謀して旦那を殺した指名手配犯」でした。と公園で誰かが読んでる新聞記事でネタばらしして、サクッと萩編終了。

という事で広島編。予想通り舞台は8月6日。

記念式典の後平和運動デモに参加する人の群れにまぎれて、普通の青年役で蜷川先生がご登場。
わー若い!
最初誰だかわからないくらいフツーに若者!
灰皿は投げそうになさげなルックスだw
蜷川先生は広島出身の美女(加賀まりこその3)と東京でラブラブ同棲生活してたが、突然別れて、というか一方的に美女が行方不明になったらしい。
未練たらしく彼女を追っかけて広島市内を探し回る蜷川先生は、下町のあやしすぎるバラック小屋でそれらしき女の姿を見かけて後を追う。

灯篭流しとか広島らしい風景をバックに彼女を捕まえた蜷川先生。加賀まりこにプロポーズするも断られる。
原因はどうも赤ん坊の頃に被爆した過去にあるらしい。彼女のように被爆した一家は周りに差別され、住む所も変えなくてはならず、結婚したくてもままならず、という厳しい現実を突きつけられていた。
そんな事僕は構わないさ、一緒に東京に帰ろう!と男らしく彼女を抱きしめキスする蜷川先生ですが(いい役じゃないか)、その時背後から車のヘッドライトの灯りが!
強烈な光にうめき声をあげる加賀まりこ。
ピカドンの記憶がフラッシュバックして錯乱する彼女を前にして、蜷川先生はなすすべもないのでした。…という悲恋を暗示して広島編エンド。

芋虫は中国地方を横断してお次は京都編。

下品でエッチな中年のおっさん(小松方正)は広島出張帰りにお土産(&芋虫)片手に、可愛いキャバ嬢(加賀まりこその4)と同伴デート
動物園でいちゃついて、三十三間堂でラブラブして、お墓でしっぽりと
広島編のから急におバカになっちゃったが、おっさんが暗い過去を語りだし、一転哀しみモードに逆戻り。元軍人のおっさんは南方戦線に配属されてた頃、現地妻をゲリラ戦で殺してしまったトラウマがあるらしい。
すると上空に空飛ぶ飛行機が現れる。
飛行機と南方戦線の軍用飛行機を重ね、「俺だけ生き残って何が悪いんだー」と錯乱する小松方正のトラウマ一人芝居劇場を眺めていた加賀まりこキャバ嬢。
どれだけ新しい恋を上書きしても、昔の壊れた恋の記憶は消えてくれないのね。と何故か傘を振り回し1人ミュージカルで主題歌を歌い始めるのでした。

ここまでが映画の前半戦。
「そうか、芋虫は戦後の悲しい記憶を引きずる人々を巡りながら成長し、蝶々になるんだな」とメランコリックな解釈をしてました。展開が変わり種だがセンチメンタルな社会派オムニバス映画ではないですかと。
しかし予想は次の大阪編から見事に外れるんだがw

★何故にこうなる。前衛名物・わけわかめ連打の後半戦

御堂筋線に乗った芋虫が着いた所は大阪の繁華街。

モデル美女(加賀まりこその5)の巨大ポスターが貼られた街の雑踏に、中年の色気たっぷりなリーマンのおっさん(渡辺文雄)がいます。おっさんは毎日御堂筋線で出勤し、普通に仕事して普通に家に帰る。会社の女子社員いわく「曲がり角の無いつまんない人生」を送ってらっしゃる。
そんなおっさんが帰り道にバーにより、ふと魔が差してゆきずりのねーちゃんとラブホで一発
翌日やっちまった感たっぷりに街を歩くおっさんは、ふと女子社員の言葉を思い出し、何か気持ち悪くなりゲロを吐いてしまうのでした。

え、大阪編ってこれで終わり?
渡辺文雄のトラウマは?戦争の記憶は?加賀まりこってポスターだけ?
ていうかこの話のオチはどこ?
と混乱してる間に芋虫は麻薬の運び屋のスーツケースに入り込み、東に…行かず、なんと香港に行っちゃった。

香港マフィアのボス(水島弘)が手下にコンピューター解析させたところ、芋虫は「虫が蝶になるまでに横浜行きの船に乗り、20億の取引を行うべし」との暗号らしいwいつから芋虫が暗号になったよw
早速ボスは芋虫を入れたスーツケースを横浜港へ出発させる。という訳で香港編あっという間に終了。
おいおいw香港編てマフィアの家しか出てへんやないかー!
しかも横浜港で待っていたのは、

白いスーツ姿の田中邦衛。
なんでやねん。

何故か謎の台詞をキザにしゃべる田中邦衛。傍らにでけーグラサンの釣り人(加賀まりこその6)。
一体なにゆえ?しかも田中邦衛は速攻殺されるし。
それを皮切りに横浜と東京で、芋虫争奪戦が起こり血の雨が降る。運び屋?が殺し屋に狙撃され、ヤクザが工事現場で殺される。合間にホテルのラウンジで千田是也と東野英治郎がワイン飲みながら「ふっふっふっ、おぬしもワルよのう」みたいな会話してるし、坂本スミ子が映画の主題歌をジャズバージョンで歌ってるし、合間に日米安保の記録映像がコラージュされるし、謎展開の畳み掛けでわけわかめ。
最後は殺し屋(日下武史)が路上芋虫拾おうとした大学生を撃ち、芋虫は学生と一緒に死んでしまいました。おしまい。

芋虫は蝶々になれなったのね。残念でした。
って最初の北海道のナガサキアゲハはどこへいったよ!!

すると話は一瞬で飛んで飛んで北海道の空港の滑走路。
芋虫の化身の女(加賀まりこその7)が喪服でザボンの葉っぱを食べながら、飛行機を降りて車に乗り換える。すると蝶マニア少年が虫取り網持って現れ、車にすっぽり網をかける。
少年の手で女は蝶々になる。
少年は捕えた蝶々を絞め殺すと、屍骸をそっと路上に置くのでした。
ジ・エンド。


★感想

感想その1。
なんで香港があって東北がないんだ。

感想その2。
ていうか冒頭の「北海道にいるはずない品種の蝶がなぜいたのか」
答え出てねーじゃねえか。

感想その3。
そりゃ「き○がい映画」と呼ばれるわ。

ちなみに黒木和雄監督の商業映画デビュー作だそうです。
後に70年代ATGを代表する名作を連発した監督だから、それなりに自分の腕前に自信があったんだろうが、しかし処女作なのに
「脚本書きながら同時に撮影」
「即興アドリブだらけの演出方法」
などという激ムズモードで勝負したのが見事に裏目に出ています。
前半のセンチメンタル反戦モードで淡々と進めればよかったのに、後半の前衛炸裂で前半の空気をぶっ壊したのが痛い。
ラストに蝶の女を登場させてきれいにオチつけようとしても、香港から後ろがあれだけグダグダじゃ意味ないw
「プロットをきっちり仕上げてから映画撮ろう」の基本のキがいかに大事か、よく判る反面教師っぷりです。

★昼寝しながら観るのにおすすめ映画

でもまともに物語を理解しようとしながら観ると腹が立ちますがw、寝ながらテキトーに観ると珠玉の作品に思えるから摩訶不思議。
「映画観ながら寝るなよ」と小言いわれそうですが。

実際『とべない沈黙』をわざわざ映画館行って観て、つまんなさに途中で寝ちゃった日にゃあ「料金返せクソ映画」と罵詈雑言でブログを埋め尽くしてたと思う。でも初めからDVDで寝ながら観たのが良かったんですね。何で寝ながら観てたのか自分でも理由が思い出せませんがw、これがものすごく気持ち良かったんですよ。

まず、映像がモノクロ。寝れるわーw
セリフが少ない。音楽もうるさくない。うとうとしてくる。
たまに鳴る主題歌が物哀しいメロディ。あかん耳が気持ちいい。
エピソードがつながってるようでつながってない、白昼夢のような物語。眼開けてても夢見てる気分になる。

でも寝れるだけだったら静かでつまんない映画なら大抵嫌でも寝れますが、寝ながら「心地良い」と感じるのは、ときどき眼に入る映像が夢見るようにセンチメンタルで美しいからですね。
最初に出てくる北海道の白樺林のきれいなことったら。澄んだ空気や若草の香りが画面の外へも漂ってきそう。
個人的に一番好きなのは広島編。広島の灯篭流しなんかニュース映像で毎年見慣れてる光景なのに、どこか新鮮で心打つものがありました。加賀まりこがピカドンの記憶をフラッシュバックさせるシーンもうーまーいー。ドキュメンタリー映像とドラマをつなげる部分がミステリアスで上手いです。
60年代ヌーベルバーグの影響が濃くバリバリ前衛ショットもいっぱいありますが、『薔薇の葬列』や『田園に死す』のような刺激的な映像は控え目で、端正で静かな映像の方が強く印象にのこります。そしてほのかにエロい。
鈴木達夫撮影作品の感想「エロい」ばっかり書いてますが、本当にこの人はエロそのものずばりは出さないのに、一瞬でドキッとさせる演出が上手いんですよ。フランス映画みたい。
まぁでも途中で寝ちゃうんですけどねw

六変化の加賀まりこは、七変化をこなす演技力…は無いんだがw、他の作品よりふんわりロマンティックな可愛さが強調されてて、不思議ちゃん美少女のバロメーター「吉川ひなの指数」がかなり高かったです。お肌の調子が安定してませんが、北海道編の白ワンピがひなの指数90くらいで可愛い。あと最後の蝶の化身もひなの指数高い。コートがバルーン風で可愛かった。あれ欲しい。
ちなみに「吉川ひなの指数」は伊勢丹の広告を100とします。どーでもいいですがw

★おまけ

ついでにDVDでだーらだーら見ながら心地良く寝れる作品を紹介すると、吉田喜重監督作品はよく寝れますよ。
海外なら有名ですがアンドレイ・タルコフスキー監督のはは断トツで寝れる。気持ち良過ぎて9割以上最後まで観れないwデレク・ジャーマンも下世話な話が無いやつは寝れます。
そして、こんな事言っちゃあ「映画ファン」な事すら疑われそうですが、『2001年宇宙の旅』も結構よく寝れる。昼下がりにDVDでだらだら観ると寝れます。一度試してみてくださいw

(了)
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