No.148『裸の十九才』

公開年:1970年
監督:新藤兼人
脚本:関功、松田昭三
ジャンル:昭和の連続殺人鬼・永山則夫の生涯ダイジェスト

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ただ今絶賛夏バテ中。
あっつー。
だりい。しんどい。寝れねえ。食欲ねえ。

でも夏を乗り越えるならスタミナ補給しなきゃね!と昼休みにスリランカカレーを食べてきた。うまかったー。
そして寝れない夜は冷房効いた部屋でぐーたら映画鑑賞w今回はパンチのきいた新藤兼人監督作品で攻めてみる。
誰もがなんとなく名前を聞いた事があると思う、19歳の連続殺人犯・永山則夫の生い立ちをモデルに描いた社会派系映画です。

「凶悪殺人犯の心の闇を追った問題作」は社会派系監督のお得意ネタだが、しかし逮捕されたのが1969年4月で→映画公開が1970年10月って。撮ってすぐ出しなスピード感が凄い。いくら自前レーベル製作のインディペンデント映画といえ、1年半でちゃっちゃと作っちゃったのか!
にしては、きっちり面白い仕上がりにびっくり。
モノクロ画面&社会派映画でありがちな「殺人の裏に潜んだ社会の不条理を問う!」的な意識高い雰囲気も無く、脚本が適度に下世話を狙ってていい。
演出もスピーディだし、ほどよく前衛サブカル風味をまぶしてあって観やすいです。
俳優もうめめち好みの「いつもの昭和前衛脇役メンバー」が揃ってますし、もちろん新藤兼人作品の定番ヒロイン・乙羽信子もみどころです。今回は意外なところで演技力?化け力?にびっくり。

しかし原田大二郎が私のイメージの原田大二郎と全然違う。
うるさくないし熱血キャラじゃないw

まあ私の原田大二郎イメージってほぼ100%「天才・たけしの元気が出るテレビ」の学園コント由来なんだが。
思えば松方弘樹・的場浩司・XJAPAN・山本太郎・志垣太郎・浪越徳治郎もそうか。「元気が出るテレビ」の刷り込み能力恐るべし。

★予告編



内容より「赤貧的十九歳」って中国語タイトルの直球な意訳っぷりがインパクト強い予告編。
踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

物語は19歳無職の山田道夫君(原田大二郎)がいきなり子犬を足で蹴るところから始まる。
わっかりやすく心のすさんだ青年な描写であるw

道夫君は横須賀米軍基地の家族住宅に盗みに入り、偶然ピストル一丁をゲットする。
さて彼はピストルで何をするでしょう?
なんて事は誰にもわかりきってますが、話はひとまずピストルから離れ「19歳の彼は何故米軍基地に盗みに入るほど落ちぶれちゃったのか」を語りだす。

★フルーツパーラーのイケメン少年から保護観察へ

道夫君は青森のド田舎出身。中学卒業後すぐに集団就職で東京へやって来た。
就職先は渋谷のフルーツパーラー(西村総本店らしいです)。おしゃれな職場ですな。15歳の道夫君は同期の仲間達と一緒に会社の寮に住み込み、普通に新入社員研修を受ける。

最初のキャラは意外と優等生系。
原田大二郎ってスタイル良かったんだねー。昭和体型の同年代青少年に混じるとあかぬけてる。顔も東出昌大似のイケメンルックスで、「こりゃすぐ女が出来て遊ぶよな」な匂いがします。
しかしまぁ根は青森の田舎っ子なので、とりあえずチャラチャラせず真面目に働く。週末も中学の友達と会って初任給でスーツ買って、東京見物でぶらぶらして学生運動のデモを見物したり、と真面目に過ごす。田舎のかーちゃんに仕送りもちゃんとする。
友達の新入社員が仕事で失敗したり、とっとと会社辞めていくのを横目で見ながら、自分は職場で理不尽に怒られても我慢したり、ちょっと良い子発言して上司にアピールしたりする。
今どきの新入社員とまぁ全然変わりません。

ところが会社辞めした友達が「横須賀のバーでバーテンダーして稼いでるぜ」とふかした途端、速攻で影響受けて「こんなちっせえ会社員暮らしはやめるー!俺はアメリカ行って一旗揚げるぜー!」と暴走するのが15歳少年らしいw
会社には「田舎の親が病気で介護する」と嘘をついて退職。
かーちゃんには「大手会社に転職する」とだます。
で、実際は密航目的で外国行きの船に潜り込み逮捕w
バカですねー。
まぁ初犯で未成年だから保護観察処分になり、先に上京してタクシー運転手してたお兄さんの家に引き取られる。

★白石加代子似の嬢で脱童貞

しかし一度やらかした途端にタガが外れるのが真性バカの性。たちまち道夫君は転職スパイラルに陥ります。

お兄さんの家で居候しながら肉屋で働くが、すぐ逃亡する。というか逃亡せざるを得ない事情になる。
だってお兄さんは新婚でやりたい盛りですからw
嫁のそっち的欲求不満が原因で夫婦喧嘩も始まったので、仕方なく道夫君は出て行く。嫁のパンプスをドブに捨てて嫌がらせするのがいいねw

その頃田舎のかーちゃん(乙羽信子)が息子を案じて上京する。
出ました乙羽信子!今回も裏主役ですが、初登場はまぁ普通に田舎もんのかーちゃんです。
道夫君はかーちゃんに「大阪の自動車メーカーに就職が決まった」とサラッと嘘をつく。本当は働き口なんて何も決まっちゃいなかったんだが、ラッキーな事に高度成長期は超売り手市場で、「大阪行けば何とかなるだろ」と大阪に行ったら、さっくり米屋に就職が決まる。

という訳で道夫君は保護観察など何事も無かったようにまた普通に働き始める。
が、その前に10代の青少年といえば!やっとかなきゃいけないイベントがありますね

大阪で民宿のババアにだまされて女を買うハメになった道夫君。でも来た嬢はなんとスゲー態度がでかい、白石加代子似のオカマ顔のおばちゃんだったwww
オカマ顔白石嬢相手におどおどびくびくしながら、道夫君は脱童貞。散々な初体験でしたw

さて米屋で真面目に働き、更生しかけたに見えた道夫君。だが今回は思っても無いところで挫折する。
なんと戸籍謄本には青森生まれじゃなく、「網走刑務所生まれ」と書いてあるらしいのだ。
刑務所生まれなんてあやしい子だ、正社員にしようと思ってたがどうしよう、と夫婦のヒソヒソ話を聞いていたたまれなくなり、夜逃げ同然で退職。その後東京へ戻り職を転々とするがまともに続かない。
とうとう道夫君は食い詰めて青森の実家へ帰り、かーちゃんのお世話になりつつ「自衛隊に入ろう!」と願書を出す。

ところが身上調査で不合格。
道夫君は自衛隊の事務所に詰め寄り「誰かが僕を落したんだ!僕のどこが悪いんだ!」と叫ぶ。けれど不合格は覆らない。

で、話は一旦冒頭に戻る。
ピストルを手にした道夫君はホテルのプールの警備員を射殺。それからあっという間に各地を転々として殺人を犯し、最後は逮捕される。
逮捕後青森の実家は詰めかけた報道陣で大混乱。記者軍団に貧乏ボロ屋の家の中まで押し入られ怒涛の取材攻撃をかまされて、乙羽信子かーちゃんがパニック起こして失神する。

道夫君が連続殺人を犯すに至った心の闇とは?
自衛隊を不合格になった生い立ちの秘密とは?
網走刑務所生まれとは?
乙羽信子かーちゃんの正体は?
ときていよいよ種明かし編が始まる訳ですが、これが予想以上になんともまーひどかった。

★りんご園の乙女がチョイ悪に恋して地獄の網走編

舞台は一転して青森のりんご園。
出稼ぎでりんご園で働く北海道生まれの乙女・タケちゃんは、同じく出稼ぎ職人のチョイ悪青年・半次郎(草野大悟)と出会い恋をする。
りんごの木の下で半次郎を見つけると、瞳をキラキラさせて走り寄るタケちゃん。
うーんいじらしい。かわいい。

だがしかし待て。
推定10代の乙女タケちゃんを演じてるの、当時40代の乙羽信子なんだが。

でも凄いよ!相当無茶してるのにパッと見違和感なし!
さっきまでくたびれた田舎ババアだったのに、一瞬であどけない清純乙女に化けてるよ!
さすが元宝塚で元百万ドルのえくぼ。びっくり。

一方半次郎は草野大悟だからチョイ悪レベルじゃないのは見え見えだが、初めての男に夢中なタケちゃんはあっという間にデキ婚。そこで半次郎の「親方」と名乗る人の所へ、2人で結婚の挨拶に行く。
しかし親方はほんまもんのヤクザ(殿山泰司)とケバいゲス愛人だったwもういやーな予感しかしない。

もちろん結婚生活は苦労の連続だった。
半次郎はバクチ漬けで遊びまくりの極道者で家に金入れず、強姦未遂で逮捕されるわ、よそで女を作り子供を産ませるわ、一方でたまにふらりと帰っては避妊無しでやりまくり。
タケちゃんは金稼ぐために青森から北海道へ移住して、網走番外地ならぬ街の外れの無番地のボロ屋に住み、女手ひとつで働き、お金稼いでは半次郎に取られ、一発やられてはボコボコ子供を産み、子沢山の極貧生活を送っていた。

そんなこんなで道夫君が7番目に生まれた時、長男長女はすでに高校生。長女(吉岡ゆり)はあきれて「もう病院で避妊手術してもらえば?」と言い放つ始末w
さらに半次郎が他所の女に産ませた赤ちゃんを引き取って育てちゃうし、山田一家は8人兄弟(しかも末っ子は腹違い)+ごくつぶし親父をかーちゃんが背負う状態になる。地獄のビッグダディ状態である。

金は無いわ子供は増えるわで切羽詰まったタケかーちゃんは、「金借りて来い」と長女と幼い道夫君を親方の所へ行かせる。
はじめてのおつかいがヤクザに金の無心て…。
親方の家に着いたら親方夫妻は不在で、出てきたのは代理の悪いヤクザ・小松方正。
長女は借金のカタに、道夫君の見てる前で小松方正ヤクザにレイプされてしまう。
ひいい。

その上長女は、貧乏ビッグダディ一家の噂を聞いた野次馬のクズ学生達に集団でマワされる。
お股から血を流して帰宅する長女の姿に一家びっくり。
ひいいいー。

ショックの余り長女は発狂して精神病院へ収容され、一家は街のさらしもの。金もリアルで底を突き、タケかーちゃんはとうとう「旦那捨てて青森へ出稼ぎ行こう」と決断する。
「金を稼いだら必ず帰って来るからね」
と子供達に言い聞かせるかーちゃん。
なんと!子供は足手まといだから全員網走に残して出稼ぎに行きやがった!
えー!児童と幼児しかいないのに!

父は行方不明。
母に捨てられ姉は発狂。
周囲は村八分。
食べ物も与えられず家(というか小屋)に置き去りにされた道夫君兄弟は、マキとか食って生き延びようとするが飢餓は止まらない。兄弟はバタバタ倒れて寝たきり続出になる。
空腹に耐えかねて近くの雑木林や道端で食えるものを探す道夫君と末っ子妹。せつねえ。

最後はリアルで死にかけ状態を村の民生委員に発見され、山田兄弟は危機一髪で命が助かる。
かーちゃんも金稼いで無事網走に帰宅する。
一家は青森に渡り、貧乏ボロ屋で(マキ食ってた頃よりは)人間らしい生活を送る。かーちゃんは魚の行商で生計を立て、子沢山兄弟を女手ひとつで育て上げる。
ちなみにDQN父は一度だけ青森の家を訪れるが追い出されてまた家出。そのままのたれ死にしたらしい。

★原田大二郎、網走の海で絶叫し函館の林を走る

そして時が経ち道夫君は15歳。
兄弟は義務教育を終えて次々に上京。残された道夫君はタケかーちゃんに甘やかされてすくすく育ち(末っ子妹もまぁそれなりに育ち)、新聞配達のバイトしながら勉強する日々。
真面目でスポーツ出来て同級生のお嬢様に初恋、なんてそれなりに満たされた中学時代を送る。
そして中3の三者面談で高校進学か就職か決める日が来る。
タケかーちゃんは「出てった子供達は全然連絡してくれねえし。この子はそばにいてほしい」と進学希望だったが、担任先生(戸浦六宏。ほんとに田舎のインテリ教師がハマリ役だ)から就職しろと説得されて、道夫君は東京行きを決める。

そんなこんなで19歳。
最初にプールで警備員殺したあと、北へ逃げようと上野発の列車に乗った道夫君は、フルーツパーラーの同僚とバッタリ出会う。彼も会社やめて職を転々として結局田舎へ帰るらしい。
彼の話を聞いて何となくルーツの網走に帰ってみた道夫君は衝撃の事実を知る。

なんと発狂長女はまだ精神病院にいた。
死にかけて民生委員に助けられてタケかーちゃんが迎えに来て、一家全員で青森に渡った時、道夫君はまだ子供だから記憶に残ってなかったが、実はそこに長女はいなかった。
長女は1人だけかーちゃんに完全に見捨てられていた。誰も会いにも迎えにも来ないまま20年も精神病院で狂ってたんである。
キチ○イなど貧乏ビッグダディ一家にすらいらんって事か。
ひでえー。

タケかーちゃんと山田一家の貧乏の闇の成れの果てを見せられた道夫君は、絶望して網走の海を絶叫しながら走る。
こんな自分なんかいらねー!と自殺を試みる。
でも死にきれず、こんなダメな運命に生まれた自分だけど、せめて二十歳までは生きてみようと思い直す。

ここまで来れば残りの展開はお察しの通り。
「未成年殺人犯が殺して旅して恋をする、束の間の青春ロードムービー」になりますね。

網走を出て北海道を横断し、金が尽きたら函館でタクシー運転手を強盗殺人して資金ゲット。林の中の一本道を全力疾走する原田大二郎が若さはじけてます。
青森の実家に戻るとタケかーちゃんから「末っ子妹が名古屋で働いてる」と情報を仕入れて、妹に会いたくなり名古屋へ行く。
でも彼女が暮らしてる様子を覗くが、急にへたれて会う勇気は無い。で、やる事なくなっちゃった道夫君は資金稼ぎに何人か殺して、ついでに立ちんぼのねーちゃん(太地喜和子)と一発やる。
もちろん太地喜和子ですから、彼女はアンニュイで人生無軌道に生きてるいい女
すぐに意気投合した2人は上京。道夫君は新宿のゴーゴー喫茶で働き、彼女はお水で稼ぎながら、都会の貧乏アパートでラブラブ同棲生活を送る。
…が、やはり太地喜和子ですから甘い生活も長続きせず、昔の男と二股かけられてた挙句あっさり夜逃げされてしまう。

傷心の道夫君はゴーゴー喫茶の客のあばずれねーちゃん2人組をナンパして、3Pで遊びつつオヤジ狩りで金を稼ぐようになる。
ところがしたたかでしっかり者の太地喜和子と違い、あばずれねーちゃん達は本気で人生ノーフューチャー系なヤバいギャルで、色々やらかし過ぎてヤクザに誘拐される。
道夫君は無謀にもヤクザを襲撃してねーちゃんを奪還したが、彼女は酷いケガしてた。しかし治療費が無い。
そこで資金稼ぎにピストル強盗するが、警備員と揉み合い自分も負傷。さらに警官の職質に引っ掛かり、とうとう逮捕される。

★最後でみんなひどいわ

「19歳の連続殺人鬼逮捕」で世間は大騒ぎして、報道記者は関係者の所へ押しかけてインタビューする。
中学時代の先生や同級生、元同僚とか、ちょろっと登場した人たちが次々と答えるんだが、みんな何気にひどいw
まぁ「連続殺人犯は普段どういう人でしたか?」とマイク向けられて「いい人でした」と答える人はレアケースだと思うが、迷惑半分・物見高さ半分な事件関係者インタビューあるあるで面白い。

元同僚が「社会がいけないんだ」とマスコミ受け良さそうなまとめしたり、初恋のお嬢様が「彼は弱かったんだと思う」と何様目線な優等生発言したりするが、一番ひどいのが担任の戸浦六宏先生w
「中学はさぼりまくってた」「スポーツがんばったのは見栄っ張りだから」「内申書が悪いから高校進学なんて無理」とボロクソwなら三者面談で言ってやれよw

一方タケかーちゃんは拘置所で息子と面会する。
道夫君は初めて母親に「なんで網走で俺達を置き去りにしたんだ」と怨みをぶちまける。
おっこれは親子演技バトル大会か?と思ったが、かーちゃんが「だって、貧乏だったから、ごめんね、ごめんね」とウルウル涙で謝りさっくり終わる。
最後は独房でうずくまる道夫君の姿に、夢だ希望だと白々しい中学校校歌が皮肉っぽく流れてジ・エンド。


★感想

終盤はあっさり無難にまとめたなー、ってのが第一印象。
当時はバリバリ裁判中だったし、「永山則夫の殺意の真相は、犯行の背景はコレだ!」と明確に結論描きづらい事情もあるけれど。

連続殺人事件の映画化作品でも、前にレビューした『復讐するは我にあり』みたいな凄惨なドロドロ人間ドラマがパッと見無い。同じく『白昼の通り魔』の峠の釜めし最強伝説みたいなムチャクチャなネタ展開も無いw
「みんな貧乏が悪いんや」的な昭和社会派的には通りの良い「悪」「闇」の部分は描かれますが、そこから連続殺人に至る動機は、良くも悪くも押しが弱い。「凶悪殺人事件の心の闇の真相を知る」意味ではちょっと肩すかし、カタルシスはあんまりない。展開は十分分かり易い面白いけど、昭和ドラマチックな人間模様が観たいんだー!な気分の時は不満かも。

と思っていたんだが。
けれど後から少しずつ、すんなりのみこみ難いリアルな憂鬱がやって来る。
観てる間は気付かないんだけど。
この妙にリアルな後味の憂鬱さが、他の昭和映画ドラマに無い味わいを醸し出しています。

★乙羽信子の「無垢だけどバカな女」の毒が怖い

その憂鬱の源はもちろん、裏ヒロイン・乙羽信子のタケかーちゃんの毒親バカオンナと、翻弄される子供達の関係性にあります。

私のチョイスが特殊なのかもしれませんが、私が観た新藤監督作品に登場する乙羽信子の役は、男関係において「バカだけど無垢な女」、「無垢だけどバカな女」、「浅知恵は働くがバカな女」の3パターンにきれいに分かれます。
代表作で言うと「バカだけど無垢な女」が『裸の島』、「無垢だけどバカな女」が本作、「浅知恵は働くがバカな女」が『鬼婆』でしょうか。
で、新藤監督の描く乙羽信子の3バカ女の描き方が毎回意地悪で秀逸であります。とりわけ「無垢だけどバカな女」パターンは切れ味素晴らしくて好きだw
また旦那の造り上げたバカオンナ像を忠実に演じる乙羽信子の演技もたまらないwまるで夫婦のSM公開プレイを観てる気になりますがw

本作のバカオンナ・タケかーちゃんはパッと見「バカだけど無垢な女」に見える。
確かに男運が悪い。DQN旦那が悪い。でも一途に旦那を愛し、子供を愛したかーちゃんは無垢な女だ。
貧乏が悪い。でも健気に女1人で稼いで子供8人を育てたかーちゃんはクソマジメな女だ。

けれど「男運無いけど、貧乏だけど、自分なりに一生懸命正直に生きてて、旦那を愛し子供を愛し家族に尽くしてる無垢な私」と本気で信じ込んでる。そんな自省の無いヒロイン思考が怖い。
自分はあくまで不運なだけで、貧乏なのも旦那が悪いだけで、子沢山なのも本能のままに避妊もしない旦那が悪いだけで、親を見捨てたり犯罪やらかした子供が悪いだけで、自分もちょっとは子供に迷惑掛けた?子供を1人くらい捨てた?かもしれないけど事情があって仕方なかっただけで、自分のスタンスは常に善なんだよね。
彼女の自分=善の意識は映画の頭からラストまで変わらない。りんご園の乙女から拘置所の息子に会いに行くまでゆるぎない。
気持ち悪いわー。

映画の中でかーちゃんのバカヒロインっぷりをずばり描いたシーンがあります。
例えば網走のド貧乏から助け出された後の青森時代、たまにかーちゃんが道夫君を連れてレクリエーションすると思えば行先が恐山wなけなしの金を払ってイタコに訊くのがDQN旦那の行方w
恐山の撮り方がまた意地悪で上手くて、霊場らしい神秘性まるで無しの胡散臭い観光地wイタコの周りに野次馬がガヤガヤいるしwそんな下世話な空気の中で、ひとりイタコの旦那語りを聞いて信じ込んでウルウルしてる。旦那まだ死んでもないのに。
この人どんだけバカなんだろう。網走で旦那にDVされて子供飢餓状態にさせたのに、まだ旦那に恋する女のままでいる。どんだけ恋するヒロインな自分に盲目?女心のバカの闇に深く絶望する瞬間です。

そんなバカオンナの毒を浴びて育った8人の子供達の立ち位置も的確に描かれます。
「愛人の子も育てる忍耐強い愛情を持つ私」に酔いつつ搾取子、放置子、愛玩子の選別はしっかりつけるし、本当に役立たずな子は捨てるwそりゃ子供も全員逃げるってもんです。
そんな毒親かーちゃんに愛玩子認定された道夫君の描写もリアルだなー。周りが見えてなくてズルズル落ちぶれてんのに、目先が助かれば「もう自分大丈夫」と思っちゃう自分に甘々加減、流されっぱなしのひ芯の弱さ、自分の為にしれっと嘘はつくが一方で中途半端に真面目で素直なところは、あるある過ぎて怖い。
同じ毒親境遇だった人は身につまされるんじゃなかろうか、ってくらい随所がびしびしリアルで憂鬱になる。

というバカオンナかーちゃんの本性を踏まえて観ると、第一印象は「えらくあっさり」なラストが凄まじく憂鬱になります。

毒親だった母親(&毒に甘やかされてた自分)の闇を見た道夫君は絶望するが、殺人ひとり旅して女と寝てちょっとは覚醒して、拘置所ではじめて毒の元凶に「お前が悪いんだ!」と言えるようになる。

でもバカオンナは凄く強い。殺人犯の息子の憎悪むきだしに動じない。
「だって、貧乏だったから、ごめんね、ごめんね」
だもんなー。

ヒロインぶってウルウルするだけのかーちゃんの姿を目の前にして、道夫君は「だめだこりゃ…」と深い深い絶望に叩き落されるのでありました。そりゃ『復讐するは我にあり』みたいに親子が憎悪をぶつけ合うドラマも起こらないね。かーちゃん自分しか見てないし、自分が罪とか悪とか全然思ってないもの。
うわー黒い。毒々しい。新藤監督のこういうどす黒い意地悪節、かなり凹むがグッときますね。


★原田大二郎はまさかこんなにイケメンだったなんて

乙羽信子毒にやられて夏バテが加速したw
あとは簡単に役者チェック。

原田大二郎はまじでびっくりした。私の『元気が出るテレビ』由来の固定観念壊れました。
モッズぽいスーツに前髪長髪が似合う、ぶっきらぼうだが繊細甘ったれなイケメン。ロきノン系バンドのボーカルみたいやないですか!
映画のスチールはやぼったいが、動くとシャープでかっこいい。脱ぎもいけるし、60年代前衛なモノクロ映像にも合ってる。唇はぶあついけどw

テレビやドラマや芸能ニュースを通じて、何となく独特に固定観念持ってるおっさん・おばさん芸能人の別の顔を発見するのは、古い日本映画観る楽しみのひとつですが、正直映画観るまで原田大二郎には全く期待してなかった。どーせうざく熱い若者だろうと思ってた。
すまんかった。ディスカバリー原田な気分だ。

殿山泰司・小松方正・渡辺文雄・佐藤慶はじめ、いつものご贔屓脇役俳優軍団も出てきてひと仕事してます。ナレーションからして宇野重吉だ。各俳優目当てで観るには、登場時間が少なすぎて物足りないが。太地喜和子をもうちょい観たかった。
関西弁のグラサンヤクザ役で清水紘治がちらっと登場するのがマイツボ。うさんくさいけどまろやかでセクシーでした。

(了)
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