No.150 『裸の島』

公開年:1960年
監督:新藤兼人
脚本:新藤兼人
ジャンル:太陽と海と不条理の夫婦SM日記


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真夏に新藤兼人監督作品を観よう企画、記念の150作目レビュー。

田舎に寄生して久しぶりにナンシー関の本を読んでたら、夫婦どつき漫才の正司敏江・玲児夫妻にSMプレイを感じるというコラムがありました。
子供の頃に漫才を観た事ありますが、いやーその意見は正しいと思いますw
ちょっと触れたら怖い香りがしますよね、夫婦漫才の中であの人達だけは。

さて昭和漫才界の公開SMプレイが敏江・玲児夫妻のどつき漫才なら、昭和映画界の公開SMプレイは、誰が何と言っても新藤兼人・乙羽信子夫妻の自主制作映画でしょうw
たとえ画面に新藤監督本人はいなくとも、映画は常に夫婦のSMプレイを覗き見するような背徳の緊張感がありますが、その中でも本作は、SMプレイ度では一番だと思います。

画面の最初に「文科省推薦」とテロップが出そうなくらい、クソ真面目な苦労話の社会派映画です。
登場人物は非常に少ない。セリフも無い。シンプルで淡々とした展開。まるでNHK地方局制作の地味なドキュメンタリー映画を観てるよう。
なのにハラハラして目が離せない。画面は常に謎の緊張感と不幸の香りに満ちています。
そして観た後は妙にぐったりして何もかもやる気を失くします。
映画の感想すらなかなか書く気にならんw
要は鬱映画って事ですが、鬱々した中にもじわじわと背徳のマゾヒスティックな味わいがして、えもいわれぬ後ろめたい余韻を残します。

日本映画ベストテンでよく挙げられる名作ですが、「こういう『いかにも日本映画の名作』って苦手」なイカモノ趣味のあなたにも実はおすすめです。
あと、土曜6時にテレビで『人生の楽園』見たり「田舎の村に移住してロハスな生活」なんてブログ読んだりして、「アーリーリタイアして田舎暮らしっていいよねー」なんてドリーム抱きがちな意識高い都会のおっさんおばさんに、頭から冷や水をぶっかけるのにも適してますw
よければどうぞ。
★予告編

http://http://www.dailymotion.com/video/x7fvo9_l-ile-nue-kaneto-shindo-trailer_shortfilms

こちらもDailymotion予告編。踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり)

舞台は広島県、因島の近くにぽつんと浮かぶ小島・宿禰島。
マップで見たら、意外と因島から泳いで渡れるくらいめっちゃ近い!しまなみ海道のすぐそばじゃん!
別に絶海の孤島でもなんでもないって訳ですね。

古いこじゃれたサスペンス洋画みたいなテーマ曲が流れて、映画はのどかに始まります。
まるでこれから『二十四の瞳』的なお話でも始まりそうな雰囲気です。
のどかな瀬戸内海の風景に、新藤監督作品お馴染みの手書きポエム文字が重なります。

「乾いた土。限られた土地。耕して天に至る」

いやー、冒頭から並々ならぬ暗雲がたちこめてます。
画面は晴れてるけど。

時は戦後高度成長期の1960年。
電気・ガス・水道無し、もちろん電話もネットもありゃしねえ無人島の宿禰島で、1家族4人が自給自足の生活を送っている。
家族構成は旦那(殿山泰司)、嫁(乙羽信子)、小学2年生の長男(田中伸二)、未就学児の次男(堀本正紀)、ヤギやアヒルが少々。島の片隅に掘っ立て小屋建てて暮らしてる。
カメラは一家の暮らしを淡々と追います。

★朝は手漕ぎ船と水泥棒から始まる

早朝。ていうかまだ真夜中から、夫婦は手漕ぎ船で海を渡っている。
いくら貧乏田舎でもポンポン船くらいあると思うが手漕ぎ船。
行き先は隣の島。港で手漕ぎ船を降りて、田園の中を無言でひたひたと歩く。
そして農道の途中で立ち止まり、用水路の水をくみ始める。井戸でも貯水池でも水道の蛇口からジャーでもなく、田んぼの用水路の水を木桶にくんでます。
のっけから水泥棒じゃないですか。いいんでしょうか。

水をゲットした夫婦は船漕いで宿禰島に戻る。
宿禰島は港も無く、わずかな砂浜がある他は切り立った崖だらけ。住人は細く険しい坂道を登り、島のてっぺんにあるわずかな平地へ行かなければならない。
という訳で朝イチから手漕ぎ船の次は崖登り。舗装なんかしてない土の坂道をひたすら登る。
陽が昇る前からもう脚はガタガタです。

崖を登るとようやく朝が来て、掘っ立て小屋のおうちで子供と動物と朝ごはん。木陰に作った木のテーブルでテキパキ準備してさっさと食べる。会話は無いけどなごやかな空気が流れます。
ご飯が終われば長男は小学生だから、制服に着替えて学校へ行く。
学校はどこかってもちろん隣の島。嫁は長男を乗せて隣の島まで1人で舟漕いで登校させて、帰り道はまた用水路で水泥棒。
オケに目一杯水詰めて、船を漕ぎ漕ぎ島へ戻る。夏の陽射しがガンガン船に降り注ぎ、体力をさらに消耗させます。

★乾いた土にみるみる吸われる水は、こけた嫁より貴重な水

さて隣の島から苦労して集めた水は生活用水の他に農業用にも使われます。
崖を切り開いて作った段々畑に植えたサツマイモに、夫婦はひしゃくで1個1個かける。
すると乾いた黒い土やサツマイモの葉に潤いが…出るはずもなくみるみる水は土に吸われて、次の瞬間には乾いた土とひからびた葉に逆戻り。
この島は地下にも真水が全然無いし、地形に水に溜めどころが無いので、土は乾ききってるんである。

でも夫婦はめげずに、水を汲んでは水をやる。
島の畑の畝全部にひとつひとつ水をやる。

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といっても畑って、こんなにあるんですけどー!!
段々畑の傾斜度が半端ない。なかなか悲愴な画である。

すでに映画開始から30分。
朝食・登校・子供がふんどし一丁で魚取りとかほのぼのシーンを挟みはするが、基本は殿山泰司と乙羽信子が必死で水運ぶ場面ばかり。
画面は単調だが心の暗雲は広がるばかりなところへ、案の定事件が起こる。

乙羽信子、こけて貴重な水こぼす。

やっちゃったー、と立ちぼうけな嫁に近づく旦那。大丈夫か?と気遣いなどせず無言で一発平手打ち。
こけた嫁よりこぼれた水の方が貴重かよ。ひでえw
でも嫁は抗議もせず立ちあがり、また水を運ぶ。

日々夫婦は水を汲んでは運び崖を登り、畑に水をやって地味に作物を育てる。
朝昼はひたすら働き、夕べはメシ食ってドラム缶風呂に入り(乙羽信子含めて全員野外でマッパ風呂)、夜は寝る。
家族で畑を耕し、サツマイモを植え、麦を植え、収穫して隣の島へ売りに行き、金を得て生活用品を買う。
1年それの繰り返しである。

★淡々とした日常に不幸は粛々とやって来る

こんな調子で前半は淡々と一家の農業生活を描くが、一応商業映画ですから後半はそれなりにドラマチックなイベントが発生する。

まず隣の島でお祭りがあり、一家もそれなりにちゃんとした格好で見物に行く。
しかし一家がちゃんと洋服持ってた事がここでやっと判明w
ちなみに島の日常着は甚平・モンペ・マッパにふんどしとか、いつの時代やねん過ぎるw1960年って『勝手にしやがれ』や『サイコ』と同じ年なのにw

次に子どもたちが釣りでご立派な鯛をゲットする。不幸を一身に背負った苦虫顔の殿山泰司も、「でかしたぞー」と子供とじゃれあって大笑い。
で、一家はレジャーも兼ねて尾道へ鯛を売りに行く。食堂でごはん食べて洋品店で服買ってロープウェーに乗って観光する。子どもたちはテレビに映るねーちゃんのダンスに夢中w街並みも一家の洋服姿も、それなりに文明生活な昭和の風景である。

ささやかな幸せで一家が笑顔なシーンでも、鯛の売り先がなかなか決まらない辺りにやっぱり不幸の香りがビシビシ漂うわーと思ったら、その通り急転直下で事件が起こる。
尾道から帰った一家は元の自給自足生活に戻り、晴れた日はひたすら畑に水をやり、雨の日は海でひたすら肥料用の海藻を採り畑に撒いていた。
夫婦が働く姿をビミョーな表情で見てる長男。
そりゃなー、隣の島は普通に文明生活送ってるのにうちの親はなんでこんな生活やってんだろとか、思うところがあるだろう。毎日小学校通ってるならとりわけ。さては、長男の反抗フラグか?
と思ったら長男が倒れる。
父ちゃんは隣の島まで超特急で船を漕ぎ、島のお医者様を探して回るが、甲斐も無く長男はあっさり死んじゃった。

翌日お寺の坊さんと長男の同級生御一行が、ポンポン船にわんさか乗って島に来る。それを憔悴した顔で迎える一家。旦那は小さっぱりしたシャツ姿、次男はまぁ子供だから普段着のTシャツ半ズボン。
しかし乙羽信子嫁は寝間着な浴衣姿なんですけど。
えーっ。
心に余裕が無いってもこれはー。喪服が無くてもせめて洋服着ればいいのに、浴衣にボサ髪ってー。
掘っ立て小屋で葬式した後、嫁は旦那と棺を担いで島の天辺にのぼり、畑の隅でセルフ火葬する。
ていうか埋葬まで島でやるのね。隣の島周辺に一族の墓が無い身の上だとわかる。

★そして遂に嫁の反抗期が!

次の日、夫婦はまた淡々と農作業生活に戻る。
まあねー。子供が死のうが農業は休めませんし、芋は水やらないとすぐ枯れますし。
って事でいつものように夫婦は黙々と水をやっていたが、感情をこらえきれなくなった嫁は許されざる暴挙に出る。

なんと、桶の水をぶちまける!
さつま芋の蔓をひっこ抜く!

嫁、遂に反抗期かっ!
平手打ちどころかグーで10発殴られる級の所業だが、地面に突っ伏して号泣する嫁を、旦那はやるせない顔で見つめるばかりだった。

しかし旦那はしばらくすると。
「俺が悪かった、こんな暮らしは無理」と反省するでもなく、「嫁すまねえ…」と慰めもせず、まして「命の水がーこのボケ」としばきもせず、泣く嫁を放置して作業に戻る。
そして嫁も「こんな島出て行ってやる」と荷物まとめるでもなく、旦那に想いをぶちまけもせず、いつもの必死の無表情に戻り黙々と作業するのだった。

嫁の反抗期、数分で終了。

こうして一家は毎日終わりなく自給自足生活を送るのでありました。
最後に空撮でハゲ山みたいな島の全景を映してジ・エンド。


★感想

しかしあらすじだけだとクソ面白くない映画である。
私の文章が下手なせいもあるが。
ドラマチックでもなく茶化すポイントも無く、本当に丁寧だがひたすら地味な社会派映画です。パッと見は。
でもハラハラして息が詰まるし、触れたら危ない後ろめたさが全開なんですよね。
この後ろめたい雰囲気は観ないとわからないです。
1960年代のお芸術映画界は「不毛の愛」が流行ってたらしく、大人の男女の実りなさそうな恋愛関係を描いた映画が一杯ありますが、『裸の島』こそ不毛業界じゃ極め付けの不毛でしょうねw

★宿禰島をロケ地に選んだ時点で勝っている

新藤兼人監督の脚本はいつもながらに上手い。
エピソードひとつひとつは余分な贅肉を削ぎ落とされ、単調に見えて飽きない。そして着実に嫌~な雰囲気を積み重ねてゆきますw
あからさまに衣装と美術に金かけてませんが(金かける必要も無い内容ですけど)w、黒田清己撮影監督の撮り方は凝ってます。特に前半の不毛な農作業シーンはカット割りもきめ細やかで素晴らしく、ただ水を運ぶだけのシーンでも息をのんでしまいます。

それにしても宿禰島のヴィジュアルは凄い。
島の全景が映った時のハゲ山のインパクトが凄すぎる。空撮の腕がいいおかげもあるけど、絶景すぎて唖然となる。
もうこの島をロケ地に選んだ時点で大勝利というかw
撮影前は草ぼうぼうだったのを撮影用に草刈って作物植えまくったそうですが、断崖絶壁の崖っぺりまで見事に開墾されてます。スタッフさん地味に頑張り過ぎだろw

★想像するほど憂鬱になる謎の一家

さて本作の真骨頂である「えもいわれぬ後ろめたい余韻」について。
『裸の島』の脚本はとても用心深くある描写を一切避けている。まるでそれを避けたいがために無声映画にしたような感じに見受ける。
何かっつうと観たらおわかりの通りだが、殿山泰司・乙羽信子夫妻が何者でどうして過酷な孤島生活してるのかが描かれないのである。

よく考えると、この手の社会派映画として禁じ手といえるくらいの冒険であります。
だって社会派映画って「この人達の過酷な境遇を社会に知らしめたい、訴えたい!」という想いで作る訳で、肝心の主人公が正体不明じゃ観る者に訴えて感動させる力が半減しますから。
しかし新藤監督はミニマムで観念的な構成の話に断片的な描写を巧みに織り込み、夫婦関係や隣島住民との関係や懐事情を匂わせる。

でも断片的な描写から想像すれば「深刻なワケアリで隣島(または周辺地域)を離れて島に逃げざるを得ず、村八分にされ、耕作放棄地で不毛な農業やって命つないでる。そして嫁は微妙にバカ。生きるためには単調で報われない毎日をひたすら頑張るしかないが、不幸から抜け出す出口は無い」ってノーフューチャーな答えにしか行きつかない訳で、考えるほど憂鬱になる仕組みになってます。

鬱映画定番の『ドッグウィル』『ファニーゲーム』みたいに攻撃的なえぐい展開は無く、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ミリオンダラー・ベイビー』みたいな悲惨な仕打ちも無いが、全体に張りつめた暗い空気がもうやるせないんですよー。虫がゆっくりと蟻地獄に落ちるさまを、手を出せずに観察してるような後ろめたさが味わえます。

★新藤監督夫妻のSMプレイが冴えわたる不毛の愛描写

特に「不幸な境遇だが嫁はバカ」って設定がたまらなく嫌ですねー。
まぁ「嫁はバカ」設定は新藤監督・乙羽信子コンビの十八番だが、今作はバカ描写がさりげなく手が込んでてえげつないなぁと思う。
「長男の葬式に浴衣」とか、嫌ですねー。
着こなし方、立ち方に「子供の突然の死に動揺する母」におさまらない黒いものが滲んでて嫌さ満点です。

バカ嫁を演じる乙羽信子の演技は『鬼婆』同様に必死のパッチで怖い。
今作は「乾いた土にひたすら水を遣る不毛な行為」に監督との煮詰まった不倫関係をなぞらえて演じてたそうで、「不毛の愛」の実在感が半端無い。
前半の農業シーンなんか演技ってより乙羽信子の農作業ドキュメンタリーだ。女優なのにノーメイクを太陽に晒して水オケかついで、「水をこぼして撮り直しにならないよう歩く」緊張感で役作りまで気が回らない様子。無表情なのにひたすら必死で息が詰まる。殿山泰司の達者な演技すら浮くほど切羽詰まってて凄いです。
そして新藤監督は嫁の挙動の余裕の無さ、30代女性の顔からだの疲れやたるみ、後ろめたい関係性の翳りを遠慮無くさらけだす。前半の公開SMプレイっぷりは最高です。

ただ後半は若干乙羽信子らしい女優演技を発揮できるシーンがあって、必死のパッチ具合は薄れますが、ほっとするけど物足りないようなw
個人的には「長男を亡くした嫁が尾道の花火を眺める」シーンを外して(あそこだけ甘目な女優演技で全体から浮いてる)、前半のドキュメンタリー演技で押し通させる、ドS鬼構成で観たかったかなwどうせいじめるなら徹底的にw
それをやったら絶対名作と呼ばれないけどなw

★どうでもいいが新藤監督作品の気になる効能

さて今年の夏は新藤兼人スペシャルで肝を冷やしてみた。
本当はもっと本数観たんだけど、なんか観てると体力やられてしまってレビュー3本しか書けなかったw
しかも感想ってまとめたら「新藤兼人監督はドSのいやなやつだ」しか書いてない気がするw
でも作品群を見ちゃうと、いやなやつだと思わざるを得ないw
ご本人に会った事も無いのになんですが。
まぁいやな面ばかり盛りすぎたかもしれませんけどw、本当にどれも面白いんですよ。新藤監督作品を社会派ヒューマニズム以外の面で注目してくれる人が増えたらいいなと思います。

しかも新藤監督を観てグッタリ過ごしたら素敵なおまけもついてました。
なんと3㎏も減量してしまった!
秋物ボトムを試着して「いつもよりスルッと入るなー」と思ったらこれですか!夏ばてでも冷房病でも体重が減らないこの私が!なんという事でしょう!新藤SMダイエットと命名しようw
とまぁ、心からどーでもいいことでした。

(了)
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