No.159『剣』

公開年:1964年
原作:三島由紀夫
監督:三隅研次
脚本:舟橋和郎
ジャンル:青年心は闇鍋な文芸映画

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「剣」はすごく変わったスポ根映画であります。

当ブログで「すごく変わった」と書くと「トンデモB級スポ根エロ映画だろ」と思われそうですが、謎の超スポーツ理論やエロ特訓や変な必殺技は出てきません。スポーツ描写は精神論・根性論に相当傾いてますが一応オーソドックスです。
原作は三島由紀夫ですが、『憂国』みたく俺様前衛シーンが出るでもなく、三島先生がチョイ役で出てチンピラごっこや筋肉自慢もしませんwちょっと残念w

では何が「すごく変わった」スポ根なのか。それは「主人公のメンタルが闇鍋」なのであります。
なんだありがちな荒れる青少年の心の闇かよ、じゃなくて「闇鍋」。
そのこころは、鍋の中に半端なくやばいもんが入ってると薄々感じるけど、ちょっとはっきり見たくないし食ってみたくもないw
なぞかけみたいですが映画観ればわかる。まぁ観てみてください。

★あらすじ(青字はネタバレあり

まずタイトルが出ますが、デザインがかなりシンプルかつアヴァンギャルドですてきー。
右半分が黒地に「剣」。左半分が白字に「KEN」。何故にアルファベットなのだwはともかく、画面がど真ん中で斬られたような構図が潔くていいですね。60年代前衛映画はタイトルデザインがいいの多いなあ。

舞台はエリート名門校で剣道の強豪、東和大学。
主人公は剣道部主将の国分次郎(市川雷蔵)。ルックスは大学生にとても見えないがw、腕前はバリ強い上に品行方正!清廉潔白!な非の打ちどころの無い模範生。顧問の木内先生(河野秋武)やOBの信頼も厚い。
一方ライバルの賀川(川津裕介)は、腕前は「陰がある。強いのにふっと隙ができる」弱点があり(いかにも川津裕介的だw)、主将争いに敗れて副主将すらなれなかったヒラの4回生部員。

と書くと「賀川が心に闇を抱えるキャラなのかな」と普通は思う。
ところが実は誰もが認める強く正しい模範生、国分さんはとんでもないメンタル闇鍋の持ち主だったのです。

★清く正しいアルカイックスマイル、なんかこわい

すっきり清潔な道場には、全国大会優勝を目指して猛特訓に励む剣道男子の掛け声、にじむ汗、てかる肌、三島くさいセリフでむんむんです。
うーんその筋好みの男女が萌えそうなシチュエーション。
もちろん稽古の後は風呂場の裸サービスシーンも忘れません
入学式で剣道部にスカウトされたサブキャラ2人組、壬生君(長谷川明男)と多田君(高見国一)も部員たちと一緒に汗を流してます。純粋で子供っぽいまっすぐさがある壬生君は、国分主将に憧れ国分絶対主義に走るキャラ。多田君はちょっと斜に構えがちなヘタレキャラの立ち位置です。

するといきなり部員の4回生が学生寮で死ぬ。
警察は死因を「ビワの毒飲んで自殺」と断定。国分も「あいつは気が弱いヤツだった」とさっくり片づける。いいのかそれで。
そんな少々腑に落ちない事件もあって、次第に国分主将の方針についてけない部員がちらほら現れます。

何しろ国分さんは剣道命!剣道こそ我がすべて!剣道に120%打ちこむあまり女も麻雀もボウリングも遊び事は一切しないしテレビすら見ない生活を送ってらっしゃる。
しかも特訓はひたすら基礎練!基礎練!基礎が大事だよって原理主義は分かっちゃいるが単調すぎる。
そして国分さんは松岡修造ばりの単純熱血キャラではない。常に「太陽のようだ(by壬生君)」と言われるアルカイックスマイルをたたえ、周りに本心を見せない不思議キャラだったりする。

かように極端なキャラは心棒者を生む一方で「なんかこわい、うさんくさい」と感じる人もいるもんだ。
不満分子は次第に「剣が強けりゃ多少のお遊びOK」な賀川に共感しはじめ、賀川と一緒に国分のグチで盛り上がるようになる。多田君もその仲間に加わる。
で、とうとう壬生君と多田君は国分さんをめぐり風呂場でケンカして、正座40分の刑を命じられる。
壬生君は耐えるが多田君は足つって「こんなバカバカしい事やってられっかー」と文句を言う。でも加勢してくれるはずの賀川に土壇場でシラーッと傍観され裏切られてwむかついた多田君は退部する。

★汚れた大人になるのがいやだ病

相方のストッパーも無くなりますます国分主将スゲー()モードに走る壬生君だが、一方国分さん本人は心にモヤッとするものがあったようで、休憩中にキャンパスでひとり悩んでいた。
するとチンピラ学生が鳩をいじめてるのを発見!
国分はただちにチンピラを成敗して鳩を救うが、鳩さんは傷ついて息も絶え絶えな様子。

そしたら国分は何と!助けた鳩の首ひねって殺そうとする!
あらまー、立派な心の闇じゃないですかー。

そこへ東和大No.1美女と名高い伊丹真理(藤由紀子)が現れて鳩を助ける。ついでに通りすがりの用務員のじーさんが国分の頬に鳩の血がついてるのを見て、手に持った白百合の花びらで血をぬぐう。
おいおい意味深な行為ですなw白百合の花言葉は「無垢」とか「純潔」ですからなんともチェリーw三島先生テイスト全開なチョイスですw

国分次郎君は開業医の息子のお坊ちゃま。
でも院長パパは女好きの俗キャラで、ママは昼間から男はべらせて麻雀ばかりな自堕落セレブ妻。仮面夫婦な国分一家は金はあるけど愛は冷えてる設定。
ある日次郎君は剣道部の活動費を寄付してくれとパパに直談判するが、パパは息子の剣道漬けな毎日と超潔癖な性格が不満な様子。「お前もいい加減『汚れた大人になるのがいやだ病』やめて少し実社会に染まったらどないやねん」と諭すが、次郎君は

「汚れた大人から施される金なぞいるかー!」

という態度で寄付の話も断固拒否。
うーんますますチェリーw

と言っても全国大会優勝に活動費はマストなので、国分さんはみんなでバイトして資金調達しようと考える。
って計画を喫茶店で部員と話してたら、女子をいじめるバカ男子発見!もちろん国分さんは正義の主将モードでこらしめて女子を救う。
でもこらしめ方がまるでDQN返しだぞ自分?それに正義のヒーローぶり過ぎてないか自分?とシメた後から国分さんがまたまた独りでセルフ嫌悪感を抱いてたら、真理に声を掛けられる。
真理は鳩殺し未遂事件を口にして軽~く脅したかと思うと一転、「ねぇダンパに行こうよ」と誘いをかける。もちろん剣道120%生活の国分主将にはダンパなど論外!なんだが。

とまぁ何かとモヤる出来事続きな国分さんに、壬生君の存在は次第に心のオアシスになっていた。
ある日壬生君は会話中にふと「国分さんの将来」について尋ねてみた。大学生の時点でこんなに凄い人は将来何を目指すんだろう?と。でも国分さんは謎のアルカイックスマイルを浮かべるばかり。
「だって国分さんだって結婚して家庭持つでしょ?」と壬生君に明るく問われても、「将来の事など考えるのはくだらない」と即答する。

「全国大会で勝つこと。それ以外を今考えるのはくだらない」

なんと「すべてを剣道に捧げる100%ピュアな自分」以外の姿を見るのがイヤなばかりに自分の未来を全否定www
何というノーフューチャーw大人いやだ病全開MAXw
予想外な返答に壬生君は口ポカーン。なんか見ちゃダメなものを見ちゃった気がするけど、純粋だけど空気が読める壬生君は「凄いなあ。今に全力投球なんだ」と良い方に解釈して受け流したのだった。

★やっぱチェリー原理主義を変えるのは女ですね

さて剣道部全員は、木内先生紹介のデパートの物流センターで仕分けバイトを黙々とやるが、「勤務中に禁煙エリアで煙草を吸った奴がいる」とデパート担当者に叱られて、国分主将激オコ。
「せっかくのご紹介なのに木内先生の面子を潰す奴は許せん!」と犯人探ししたらやっぱり犯人は賀川。もちろん正座40分の刑に処せられるw
賀川は後輩全員の見てる前で40分正座に耐えたものの、遂にブチギレ。「あいつの正義ぶった上から目線の微笑みに我慢できねー。童貞くさいピューリニズム無駄なスパルタ、余裕な振りした余裕の無さ、みんなむかつくもうヤダ。このままあいつが変わんないなら剣道部やめる」と木内先生に直訴する。
厨二くさいけどまぁ正論だ。結局賀川は「まーまーあいつに注意しとくからお前も我慢しろ」と先生になだめられるが、「でも、国分は先生から叱られると反発するのでは…」と疑い、かねてから仕込んどいた作戦を実行する。

作戦っても単純に「童貞に女の味を教えちゃう」なんだが

ある晩「相談がある」と呼び出された国分さんが賀川のアパートへ行くと、いたのは真理だった
わっかりやっすい色仕掛けやなだが、実は賀川とデキてた真理は「あの剣道バカを落とせるか」で賭けをして、国分さんにアタックしてたんである。
国分さんは話が違うと帰ろうとするが真理に靴を隠して「帰さない」、ジャズの曲かけて強引にダンパ
直球エロ攻勢で押されて少しいい気になった国分さんは…

翌日真理とドライブした賀川は成果を聞くが、「キスしてスカートに手入れられたわ彼もやっぱり男ね~」とあっさり勝利宣言かまされる。
ライバルの脱チェリーを確信した賀川は「これで俺はあいつに勝てる!」とほくそえむが、それはどーかなw

★壬生君の空気読み能力が絶妙な真夏のプチ事件

とかしてるうちにバイト資金をゲットした剣道部は、夏休みに伊豆・田子の浦のお寺で合宿する。
山もあるしビーチもあるしヤッホー青春☆な場所だが、国分主将は到着早々「水泳するべからず」の鬼命令w
部員達は海を見ながら、朝から晩まで地味だが自衛隊員もひるみそうなスパルタ特訓漬けになる。

照りつける太陽!
汗で光る男の肉体!
砂の地面に吸い込まれる男の汗ポタ!
ファイトぉ一発ぅ!!と叫びたくなるシーンが続く。

稽古の合間はカレー・卵・牛乳(小学生かよw)な食事を喰らい、ご飯の後は即消灯。国分イズムが徹底された清く正しくストイックに己をいじめる合宿生活に、部員達はついていけず疲労でバタバタ吐いて倒れる。
国分主将は「3日目が一番きついからな。そのうち食べれる」と平然と言い、ダウンしても構わず鬼特訓を続けるが、おいおい大丈夫かよw食中毒じゃねえのかよw
しかし徐々に体が馴れた部員達は最後は食欲復活して体力もついていくのだった。

ひとまわり成長した部員達の姿に瞳キラキラして微笑む国分主将と対照的に、賀川は「なんであいつ変わらねーんだよ」とイラッとくる。
で、真理を伊豆へ呼び動揺させようとするが、オープンカーに乗り女優ドレスで「はーい」と色目使う真理を「邪魔だからすぐ帰れ」と冷たくあしらう国分さん。
それ見て「やっぱり何も無かったんでは」と疑う賀川。完璧超人国分主将を打ち崩せる切り札も効かず、うーんと困ってた時に事件が起きる。

合宿8日目、木内先生を迎えに国分主将が外出した束の間の昼さがり。
暑くてグッタリな部員達に「なー、あいついねーし泳がねえ?」と煽ってみた賀川は、「でも主将がダメって」とためらう彼等につい「あいつだって陰で遊んどるわwこないだ真理とキスしてスカートに手ぇ突っ込んだんだぜー」としゃべってしまう。
清廉潔白な国分さんのエロ話に初耳びっくり、「なーんだ主将もただの男かぁ…」と幻滅した部員達は「主将が帰るまで、ちょっとだけならばれねーよな」と煽りに乗り、服脱いでパンツフンドシ一丁で海へGO!
でも優等生の壬生君は「やっぱルールは守らなきゃ」と寺に残る。

そこへお約束通り「予定より早く」国分主将と木内先生が戻る。そこへジャストタイミングで海から帰って来るパンイチ軍団w
間に立ってた壬生君はここで絶妙に空気を読む。
「みんなを止めれなかった僕も悪いんだし、一人でいい子ぶって仲間の場を悪くするのも何だかなー。そうだ、僕も泳いだフリして一緒に怒られよう」
と壬生君は土壇場でパンイチになり軍団に加わる。
ゴリゴリの優等生でもない壬生君の空気読み能力すげえwちょっと今どきっ子ぽいメンタリティだw

命令を破った部員全員は木内先生に説教され、国分主将と賀川は互いに「自分に責任がある」とわびるが、先生は「賀川は東京に帰れ。他は全員合宿を続ける」と命じる。
一件落着に思えたがしかし、国分さんはひとりでモヤっていた。
そこへ呼び出されてやって来た壬生君。「お前、本当に海に行ったのか?」と尋ねられ、一瞬迷うが初志貫徹で「はい」と嘘をつく。
返答を聞いた国分さんは「そうか…」といつもより力無く微笑むのだった。
その微笑みが完璧超人の心の中の何かをブチッと断ち切ってしまったと、壬生君は気付くはずもなかった。
その後木内先生と部員達はビールでお疲れ会を開き、剣道部の雰囲気が元に戻りかけてきたその夜。

★なんでこうなる?

なんと国分主将が寺から脱走する。
あわてて先生と部員達が探したら、海を見下ろす高台の草むらで、胴着着て竹刀もった正装の国分さんが倒れてた。
ていうか自殺してた。
なんでえ!!

ラストは道場に部員達が集められ、木内先生が国分さんの日記を読むシーンで締められる。
日記には特に自殺の直接の原因になりそうな記述は無かったが、「俺は統率者の資格が無い」と書いてあった。
すると「あたし嘘ついたんです!」と真理が泣きながら乱入する。お前どこからわいて出たよ。

そしたらみんな口々に謎の三島イズム全開の大反省会モード突入w

真理「あたしずっと国分さんが好きだったんです(だったか??)、でも彼はあたしなんか…」
木内先生「自殺する事で彼は自分の強さを永遠のものにしおうとしたのだ」(は?)
壬生君「自分が!恥ずかしい!」
賀川「俺はあいつに勝ちたかったんだ!でもあいつは死んでしまった。俺は永遠にあいつに負けたんだ(へ?)」
木内先生「何故私は彼を理解できなかったのか、それを恥じよう(はあー?)」
そのまま一同総懺悔でうなだれてジ・エンド。


★感想

どうっすか
すごく変わったスポ根だと思いませんか。
国分さんの心、ご理解いただけましたか。ラストの反省会、共感しましたか。
ぶっちゃけわたくしは全然気持ちがわかんねえしわかりたくもねえよ。これぞ闇鍋!

はるか昔に『ミシマ』の映画の感想で、映画で取り上げられる三島由紀夫小説の主人公が「全員自爆系な人だよね~」と書いた覚えがありますが、『剣』の主人公も同じくメンタルが闇鍋でめんどくさい性格の自爆系青年であります。

とはいえ「メンタルが闇鍋でめんどくさい性格の自爆系」ってのは純文学や前衛映画の主人公にはあるあるなパターンだが(青年が主人公だったら特に)、三島由紀夫作品の自爆系主人公にはなんか特有の闇鍋感があります。
何が特有の闇鍋なんだ?って言葉で言い表しづらいですが、闇鍋の具のくせにキラキラ発光しそうなイメージでしょうか。深海生物かよw
それが三島先生好みの美青年なら、何故か具のキラキラ感とめんどくささがさらに2倍w
純文学名物の「うじうじうだうだ悩んで紆余曲折する」ファクターが無く、「ええっ!」というスーパー理論で決然と自爆に走るメンタリティも特徴でしょうか。
小説や映画の中の人ならドラマチックだし彼等のめんどくさい心理に付き合って読んであげるけどさー、自分の周りにいたらひたすらうざいw私は壬生君や真理どころか賀川の心境すらなれませんw

しかしそんな謎の三島系闇鍋キャラに、市川雷蔵(ノー時代劇メイク時)の「地味で誠実そうなんだけどなんだか心の中に見えない沼がありそうな」得体の知れないルックスがぴったりはまってました。

(続きを更新中・・・)

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