No.014『怪談/KWAIDAN』

製作年:1965年
原作:小泉八雲『耳なし芳一の話』ほか
監督:小林正樹
脚本:水木洋子
ジャンル:歴史お芸術ホラー映画オムニバス

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なんで大河ドラマ『平清盛』最終回の壇ノ浦はあんなにしょぼいんだー!
楽しみにしてたのにー!
義経の最期とか武士の世とかどーでもいいだろ!平家物語の見せ場つったら何が無くても壇ノ浦だろが!45分丸々壇ノ浦スペシャルでもいいよ自分は!
最後だけでもビシッと決めてくれよNHK!

という事で、欲求不満なので「耳なし芳一の話」でも見て壇ノ浦成分を補充する事にしました。

『怪談』は60年代の時代劇には珍しい総天然カラー映画であります。
当時の日本映画美術の威信をかけ、多額の製作費と豪華キャストを投じて制作されたらしい。

この作品は60年代の他作品と異なる、言葉に表しがたい不思議な美しさがあります。
当時ATG系とかで流行っていたアングラ映画っぽさも、リアル時代劇な成分も無い。小林正樹監督作品は『切腹』等のリアル時代劇が有名だったので、リアルテイストぽくないのは想定外だった。
だからってクラシック時代劇の様式美も感じない。音楽も映像もとびぬけてモダンでアヴァンギャルド。

例えば武満徹のミニマムミュージックをBGMに、水にインクを落としてゆらゆら流れる粟津潔デザインのタイトルバック。
ヴェネツィア・ビエンナーレの出品作じゃないですよ、と注釈入れたくなるほど抽象芸術なデザインで、これが昭和の時代劇のオープニング?信じられないほどモダンです。

昔は良かったとあんまり言いたくないんですが、これほどすばらしく挑戦的で尖った映像美と出遭うと、昭和の日本映画美術って凄いなあと驚く。
動く美術品だ。
★予告編



ホラーシーンはほぼ無いので観ても安心ですが、各話が入り混じった編集で、これじゃオムニバス映画とはわからない不思議な予告編w
踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

『怪談』は小泉八雲の有名な掌編4つから構成されるオムニバス映画であります。
メインは第3話「耳なし芳一の話」ですが、まず他の話から紹介。

第1話「黒髪(原作タイトルは『和解』)」

主人公は京の都の貧しい下っ端役人(三国連太郎)。
糟糠の妻(新珠美千代)を捨てて逆玉の輿に乗り、コネで地方の官僚職を得て赴任する。
だが新しい金持妻は美人だが我儘で夫婦仲が悪くて、優しい元妻の方が良かったと後悔しきりな日々を過ごしてた。

数年の赴任を終えて京へ戻った男は、真っ先に元妻の家へ直行する。
すると荒れ果てた屋敷の奥に元妻の姿が!
彼女は捨てられる前とまったく同じ優しい姿で元旦那を待ち続けていたのだ。うーん男のドリームですな。
役人は「やっぱりお前と一生一緒だ」と永遠の愛を誓い、一夜を過ごしたんだが、さて次の朝。

目覚めるとそこは朽ちたあばら家だった。
横で寝る妻はなんと白骨死体!

男はあわてて脱出を試みるが、家の中は時空を超えたホラーハウス化していた。
あちこち迷ってやっと門を出た頃、男は白髪の老人になっていた。
男は軒先で息絶えた。


第2話「雪女」

主人公は木こりの巳之吉(仲代達矢)。
ある夜雪山で遭難し雪女(岸恵子)に殺されかかるが、彼は雪女好みの若いイケメンだったので「この事を決して誰にも話すな」と条件付きで命を助けられる。
そんな事件も忘れかけてた数年後、巳之吉は謎の美女・お雪(岸恵子の二役)と出会って結婚し、幸せな夫婦生活を営んだ。

ある夜巳之吉はお雪の顔を見て、「なんかお前さ、昔雪山で会った雪女に似てるなあ」とうっかり話してしまう。

するとお雪は「実は私は雪女です」と正体を明かし、巳之吉と子供を置いて雪山に消えてしまった。


第4話「茶碗の中」

主人公は佐渡守の家臣・関内(中村翫右衛門)。
お屋敷の庭先で茶を飲もうとすると、茶碗の中に謎の男(仲谷昇)が映っていた。
周りを見ても誰もいない。茶を捨てて新しい茶を入れてもまた映る。
気味悪く茶を飲みほした関内だが、その夜お屋敷の警備当番してると、茶碗の男とそっくりな狼藉者が現れて斬り合いになる。
関内は男を斬った…はずなんだが、なんと男は壁の向こうへ消えてしまった。

その次の夜半、関内邸を3人の男が訪れるた。
「茶碗の男の仇討ちに来た」と名乗る男どもと関内は大立ち回りになるが、斬っても斬っても男どもは復活し、最後は壁を乗り越えて去ってしまった…

ってところでいきなり時は進んで明治の頃。

「…という話は未完にである」
そんな不思議な話を書き留めていた作家(滝沢修)のお家を、編集者(中村鴈治郎)が原稿取りに訪れる。
しかし部屋に誰もいない。
変に思ってふと水瓶を覗いたところ、瓶の中の水面に作家がゆらゆらと映っていた。


★1、2、4話の感想

まず映画ご自慢のすごーい美術から。
第1話の朽ちた寝殿造のお屋敷がすごーい!門から入るとどこまでも廊下、廊下、廊下。どんだけ巨大なセットを組んだんだ!迷宮みたい。
第2話の空に雲の風景のホリゾント。よく見ると目玉や唇が浮かんでるじゃないですか。こんなところもいちいちアヴァンギャルド。
第4話は他に比べればまだ普通なセットだが、しんと空気の澄んだ静けさがやけに怖い。

どの話も、役者は当時のスター・演技派揃いで超豪華。演技面でいらいらせずに見れます。

特に印象に残ったのが第1話の新珠美千代。
美人だ…
朽ちた屋敷をどこまでも歩いていくと、奥の部屋で新珠美千代が独りで旦那の帰りを待っている。
廃墟で男を迎える女のこの世ならぬ美しさ、艶めかしさ、たおやかさ、情念を秘めた物腰。なんてファンタスティックな美貌なんだ。
いやーこれはやられました。魅入りました。

しかし各話の美術・音楽・演出・役者、パーツはどれも凄いんですが、「動く美術品」鑑賞映画にありがちな弱点もある。
見てるとすんごい眠くなる。

美術は確かにこだわりまくってるが、こだわりをじーっくりと見せられるたびにストーリーが止まる。
昔の映画なので演技は上手いがタメが長い。で、名優の演技を損なってはならんのか、カット割りのテンポが落ちる。で、ますますストーリーが停滞する。

それに武満徹の音楽がこれまたミニマムミュージックすぎて、眠気を誘うこと誘うこと…


気づくと半分くらい寝てたりする。

ミニマルアヴァンギャルド映画を延々3時間も見れるかよ!

公開当時は興行面で惨敗したのも納得できる。お芸術映画は眠気との戦いである。
あと怪談ですが、うすら寒ーい静けさはあるものの全く怖くない。ホラー映画として見ると失敗します。

★第3話「耳なし芳一の話」あらすじ

という事でメインの紹介。日本人なら大抵知ってる「耳なし芳一」のアヴァンギャルド映画版とはこれいかに?

主人公は皆様ご存じ、琵琶が超上手い盲目の小坊主・芳一(中村嘉津雄)。安徳帝と平家一門を祀る名門寺で居候している。
普段は真面目な性格の芳一だが、しかし夜な夜な寺を抜け出しどこかへ赴いて朝帰りする事がある。しかも不思議な事に、朝帰りするとどんどん体の具合が悪くなる。

寺の住職(志村喬)は芳一を叱責し「一体毎夜どこへ行くのか?」と問い詰めるが、芳一は頑として答えない。
しかも雨の日も風の日も嵐の日も、どこかへすごい勢いで出かける。
住職はますます不審に思い、寺の下男(田中邦衛・花沢徳衛)に命じて後をつけさせる。

芳一の行先は、ご存知海の都でありました。
壮麗な御所に呼ばれた芳一が平家物語の一節を琵琶で奏でると、貴人達は深く聞き入り涙する。
正体はもちろん平家一門の怨霊。芳一は霊に憑かれていたんである。

「このままじゃ芳一が魂を吸い取られて死んでしまう!」とあわてた住職は、芳一の体に般若心経を書き(怨霊から見て)透明人間する作戦を実行。お経パワーで芳一は、怨霊の都から迎えに来た使者の鎧武者(丹波哲郎wいやまじで)に姿を見られる事なく、無事にお誘いをやりすごしました。

と言いたいが、お約束通り住職がやらかす。

一億二千万人の日本国民のつっこみどころ、体の中でも相当目立つパーツの耳に、なぜかお経を書き忘れちゃっいました!

で、芳一は鎧武者に耳をもぎとられて危機一髪!でもなんとか命は助かった。
海の都を体験後、芳一の琵琶は一層腕前に磨きがかかり、琵琶聞きたさに貴人が続々とおとずれる人気のお寺になりましたとさ。めでたしめでたし。

★第3話感想

映画全体のハイライトとあって特に力が入っている。

まず冒頭の壇ノ浦合戦絵がすごい。
中村正義画伯が映画の為に描いた大作はじっくり見ると画の迫力が凄い。眼福だ。じっくり見せすぎて話のテンポが落ちるのが難点ですが。
日本画でも当時本流の画家じゃなくて、アヴァンギャルド系画家なところがこの映画らしい。

あと海の底の都で安徳幼帝を抱く二位の尼(夏川静江)と平氏一門集合のシーンが幻想的で壮麗
やっぱり二位の尼は貫禄がないとねぇ。大河ドラマの深キョンは可愛いけれど、演技と顔が幼すぎてちょっとねえ。
帝の御所の壮麗なセット、静かに燃える人魂。しんと静まり返って美しい。
やっぱりセットがでかくていいなあ。戸田繁昌の空間だだっ広いセットは大好きだ。

★そして耳なし芳一といえばアレでしょ

壇ノ浦絵でも海の都も素晴らしいけどやっぱりこれです、待ってましたメインイベント!
住職渾身の作、全身写経がとにかくすげー!

顔から背から腹から手から足から、全身くまなく字がきっちりみっしりびっしり!
これでこそ人間書道アートっ!すばらしいー。たまらねえー。
うめめちは人肌や米粒とかにみっちり字を書いてるのが大好きでして、映画やドラマで耳なし芳一プレイやってるとついリピートで見倒してしまうこちらの芳一さんはそんな耳なしマニアも納得の緻密度です。
お芸術系映画が苦手な方でも、写経シーンだけはぜひ観てほしいと思います。

しかし耳なし芳一プレイの映像化でいつも気になるんだが全身くまなくお経を書きました、というが毛の中ってお経書けるの?毛に埋もれた地肌に筆で書けなくないだろうか。
まぁ芳一は坊主だから上は書けると思うが(しかしこの映画の芳一は結構毛ボーボーである)下の毛は?
ふんどしの上から書けばオッケー?それともまさかブラジリアン?
気になるところである。

★田中邦衛のなんだか気になる木

さて何だか気になる木。
田中邦衛・花沢徳衛のパートがベタコントで、お芸術映画の流れから浮いててちょっと残念。
芳一は基本無口キャラだから、話を円滑に進めるキャラが住職だけじゃ心もとないんで、狂言回しを置くしかないけどね。

でも花沢徳衛はまだ良い。
しかし田中邦衛とは。キャラ濃すぎるだろ。寺の下男とかいう以前に120%田中邦衛。
いつ北の国からの五郎モードにシフトするか、「食べる前に飲む!」と叫ぶか、ハラハラしたよ。
他の映画でも田中邦衛っていつもこうなんだよなあ。表情やまとう空気が、田中邦衛は娯楽だろうがお芸術だろうが、主役だろうがほんの端役だろうが、いかなるシチュエーションでも登場した途端に揺るぎ無く田中で邦衛。俳優としていいのかうーん。でも余りに強力なキャラの確立っぷりにある意味感心いたしますです。

★おまけ 菅井きんを探せ!

「雪女」の村のおばはん役。
貧乏設定ならばいかなるアヴァンギャルド画面にもすんなり馴染む人であります。

(了)
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