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No.021『召使』

製作年:1963年
原作:ロビン・モーム
監督:ジョゼフ・ロージー
脚本:ハロルド・ピンター
ジャンル:英国式こわ~い下剋上心理サスペンス

021.jpg

60年代のイギリス映画は面白い作品が多い。
英国演劇の手堅い脚本&演技の土台の上に、ヌーベルヴァーグな尖った演出が乗っている。
古き良き大英帝国の紳士の文化とビートルズやローリングストーンズが交錯する。
なにより屈折して薄気味悪くて頽廃してる。漂う空気はフィルムノワールよりドス黒い。

『召使』もまた英国伝統文化が熟れて爛れた香りがプンプンと漂う映画だ。
貴族の坊ちゃまと召使の日常描写?漫画の『エマ』みたいな召使バックステージもの?と思って観たら全然違った。
上流階級もの映画ではモブ脇役に過ぎない、たかが一介の召使。
でも「たかが召使」っていう置物みたいな存在がリアルで付き合うとどんなに怖い物体Xか、懇切丁寧に教えてくれる話だ。
たまんないわぁー。
★予告編


いかにもクラシック洋画な若干手抜き予告。
本編は面白いですが。

★あらすじ(青字はネタバレあり

貴族の息子の金髪イケメン青年トニー(ジェームズ・フォックス)は親の遺産を継ぐために、ブラジルから久しぶりにロンドンへ帰ってきた。
ブラジルで「新規事業を手掛けた」とか言ってるけど、世界旅行を兼ねたボンボンの道楽仕事って感じか。

もっとも彼が遺産を相続するには、イギリスで腰落ち着けて婚約者スーザン(ウェンディ・クレーグ)と結婚するのが条件だった。
幸い彼女も貴族令嬢で価値観は合うし性格の相性も良いし、床に寝転がりセックスしちゃうサバけた小娘だ。
帰国後さっそくトニーは高級住宅街に新居を購入し、召使バレット(ダーク・ボガード)を雇った。

トニーはバレットの完璧な仕事に大満足だが、スーザンはどうも彼が気に入らない。
そこで「未来の女主人スーザンVS実行支配者バレット」の嫁姑ばりの陰湿バトルが展開される。

理由のひとつはお決まりの「価値観の違い」。今どきの奔放な娘趣味と古典的な召使趣味が合う訳ない。
もうひとつは女のカン。バレットはどうも素性がうさんくさい。
さらにひとつ理由があるが、前半は曖昧にぼかされる。

で、バトル中のトニーは悲しいかな、まるで嫁姑の間に立ってオロオロする夫の立場だったりする。
というか自分じゃ「中立的立場で両方をなだめて」いるはずが、無意識のうちにバレット寄りになっていく。日常365日の衣食住を支配する召使の意見に圧されてずるずる流されるのだ。

★うさんくささ満点なエロ娘にほだされて

しばらく経ちバレットは「妹」の雇用を願いに出る。
トニーは二つ返事で引き受けるが、やってきたヴェラ(サラ・マイルズ)は若く可愛くロリ声のバカ娘。仕事はまーものの見事に役立たずだが、兄ちゃんが「初めての召使仕事ですみません」と弁解するのでトニーは許す。
しかしある日バレットが「親の病気」で急に里帰りした晩、バカ娘の誘惑に負けてデキる訳ですな。

実はバレット、リアルで悪人でした。
ヴェラは妹どころか恋人でした。
トニーが居る時は完璧な召使の仕事をしてても、トニーが外出すると途端に本性を出し、勝手に主人の酒を飲み主人のベッドでヴェラとエッチ三昧。
もちろんトニーとヴェラの情事の黒幕もバレット。ヴェラは主人の弱みを握るための肉弾刺客なのだ。
やっだ~!お下賤な展開でわくわくぅ~
と盛り上がるが、ところが中盤で召使コンビの悪事があっさりばれる。

ある晩トニーとスーザンがデートから帰ると、なんと主人の寝室でバレットとヴェラが交尾中!
トニーはキレて修羅場スタート。しかしどう見ても100%劣勢のバレットだが急に逆切れし、スーザンの前で持ち球「ヴェラとトニーの情事」を暴露し、その場は炎上する。
最後はバレットが「こんなとこ辞めてやらあ」と啖呵を切ってヴェラと出ていく。
スーザンも当然怒って帰り、トニーは独りぼっち。

あらまートニー可哀想にぃ。
でもバレットが逆切れ毒吐き炎上中、さらっと「俺はご主人と関係がある」と言ってなかったか。
それを全員さらっと受け流してなかったか。
言ったよね?にしては全員反応いまいち?メインバトルの浮気問題に夢中で聞こえてなかったか?

しかしさらっと流された一言が、後半の怒涛の展開の引き金になるのです。


★召使に何もかも吸い尽くされる底なしの堕落沼

完璧な召使も恋人も親の遺産も失ったトニーは、独りじゃ家事も何も出来ないただのバカぼん。あっという間に荒れ荒んだ家で酒に浸ってばかり。
そんなおちぶれたトニーが偶然バレットと再会する。
バレットもその後ヴェラと別れ新主人に仕えたが、そいつに毎日ひどい仕打ちを受けてると語り、「もう一度俺を雇ってくれ」とお願いする。

え、なんでーバレット?遺産入らないじゃんか。金も無いヤツの家でまた雇われるのー?
でも啖呵切って別れた姿はどこへやら、バレットは嬉々として一文無しトニーの召使に返り咲く。

実はバレットの目当ては金じゃなかった。
貴族の主人にとり憑いて、心体財布を吸いつくし、マインドコントロール下に置くことだった。
彼の企み通りトニーは自分じゃ何もできない子なので、プロの召使様に無償で家事をしていただく負い目があるがために、たちまち召使様の言いなり奴隷に転落する。

金が無くて遊べない。
金の切れたヤツの家に来る客は無い。
する事がないので1日中ふたりで居る。
トニーは1日中バレットが決めたルールのゲームを遊ばされる。
バレットが何か命じればその通りやる。バレットに勧められるがまま深酒に浸り、バレットが作ったアヘン入りドリンクを飲み干す。

前半でさらっと流してた秘密の関係が、主従関係逆転で一気にお日様のもとに現れる。
もう家はホモホモ&精神DV空気が全開だ。

トニーはバレットに何もかも吸い尽くされ、おちぶれて、おちぶれて、心の底なし沼をどこまでもおちぶれる。

映画は別れたけどやっぱり未練のあるスーザンが、ある夜意を決して家を訪れるシーンで終わる。

そこは薄汚い部屋のあちこちで商売女が愉しみに浸る、気怠く腐ったパーティー会場になり果てていた。
バレットは家の新しい主人として振舞っていた。
別れたはずのヴェラがいて邪悪に笑ってた。
かつて主人だったトニーは、まともに歩けもしないアヘン中毒の廃人になっていた。スーザンを見てかろうじて残ってた愛情から「帰ってくれ」とつぶやく姿が哀しい。
バレットにわざとらしくうやうやしく見送られ、スーザンが絶望にひしがれながら家を後にするところでジ・エンド。


★感想

いやぁおもしれー。
悪意だらけのドロドロドラマ。
実に腹黒、腹黒。

これだけ計算づくの心理戦でストーリーを進めるには俳優の演技がしっかりはまってなきゃ話にならないが、陰のあるルックスで腹黒な立ち振る舞いが上手いダーク・ボガードがはまり役である。
対照的に金髪イケメンなジェームズ・フォックスの品はあるが中身空っぽなバカ息子ぶりも素晴らしい。
サラ・マイルズの、下品マインドで生きてる天然邪悪な娘っぷりもまた良かった。まだ20代の無名新人女優だったらしいが見事な演技であります。

撮影もいちいち凝っている。
室内の調度品に物語の伏線が散りばめられてて、リピート視聴でそれを見つけて回るのもまた楽しい。

★へぇーなるほど!英国式ご主人と召使の関係性

ベタな日本人の庶民うめめちには英国の召使システムの紹介がとても面白かったです。

まず導入部でトニーが新居を購入してバレットを雇い新居で暮らし始める様子を丁寧に描写して、イギリスの召使とはどういう職業か見せてくれる。

・召使は職業斡旋所で紹介してもらえる。
・召使は主人と雇用契約を結ぶ時に、主人側と雇用条件をかなり細かく交渉する。
・たとえ新婚若夫婦の気軽な生活であっても、ある程度以上の階級なら召使は雇って当然だ。
(まぁあんだけ自分で何もしない人達だったら召使必須でしょうねー)
・原則「召使」と飯炊き担当の使用人は別々に雇う。
(トニーがバレットに「飯炊きもやってほしい」とわざわざ頼むシーンで推測される)

・召使は主人の新居のレイアウトを差配する能力がある。
(バレットは新居の工事中から新居を訪れ、工事業者へあれこれ注文をつけている)

へーそうなんだ。
ちょっとしたシーンのひとつひとつが興味津々。

そして後半でバレットが家を出てトニーの身辺が荒んでいくシーン。
「さすがに金が無いなら自分で家事をする気にならんのか?」
と思ってしまいますが、しかしこれは一般庶民の考えなんでしょうね。

この映画の肝は主人と召使の、想像以上に依存性の高い奇妙な間柄でした。
家事全般はもちろん、家の管理から箸の上げ下ろしレベルまで主人にしてさしあげる。朝起きてから夜寝るまで尽くしまくる。
ご主人は自分でなーんにもしない。
召使に指示を出しこそすれ、実際は衣・食・住全部されるがまま状態。
召使という他人との付き合いなのに、関係があまりに密着、無防備、丸裸。
こわー。


しかもトニーの家は飯炊き担当が不在で、第三者の眼で物事をジャッジする人間がいない。視聴者も観てて「いいのかこれで」と心配になるくらい濃ゆーい男2人の日常描写がある。
映画の前半でラブラブなトニーとスーザンがレストランでで食事するシーンがあって、周りの席が主人&召使の気持ち悪いペアだらけだったシーンの気味悪さが印象に残った。
どいつもこいつもまるでマザコンニート息子とママの危険な密着関係みたいだ。

マザコンニート息子がママに数十年と依存したあげくママが死んだのを隠して年金を不正に受け取ってた、なんてニュースが時々報道される今の日本ですが、これって60年代英国貴族と通じる話だなあと思う。
尽くされるのが当然で生きてきた人間には「自分で家事をする」って言葉が頭の辞書に載ってないんでしょうねえ。

あとバレット逆切れシーンで面白かったのが、ご主人との関係をさらっと暴露して、修羅場なのに全員がさらっと受け流してたところ。
特に激怒してしかるべきスーザンが「え?ああー」って鷹揚な態度なのが英国だねー。
あらやだあ…でもこのひとだったらそーいうこともあるでしょ…な感じで。
バイセクシャル黙認だったのかいw
やっぱり飯炊き担当を置かずに男召使に飯の用意まで世話させるってのは、そういう可能性を想定しろってことなのか。

でもだからって身分をわきまえず調子こいて未来のアタシの家のレイアウトをお前流にいじったり、召使の妹とデキるのは全然許せないのねー。
なかなかに複雑で滋味深い英国貴族女の心の綾でした。

(了)
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