No.023『幻の湖』

製作年:1982年
監督:橋本忍
脚本:橋本忍
ジャンル:観光映画+サスペンス映画+時代劇+謎の何か

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カルト映画として後世に語り継がれる映画にはおおまかに分けて2つのタイプがある。
最初から問題作になると分かって作った映画と、万人を感動させるまともな名作になるはずが道を誤っちゃった映画だ。

うめめちが好んで観るのは圧倒的に前者で、『恐怖奇形人間』『薔薇の葬列』がそういうタイプ。
でも今回取り上げる『幻の湖』は後者のタイプ。しかもその筋を代表するカルト映画として、マニアに愛されているZ級映画です。
あの『シベリア超特急』や『北京原人Who you are?』『死霊の盆踊り』なんかと同列なんだから相当すごいです。
でも後者タイプのカルト映画って言い換えれば「万人を感動させようとスタンダード名作風に作ったが箸にも棒にもかからん出来栄えで万人に無視された駄作」ともなる訳で、噂を聞いて観たものの、ただのすごくつまんないものを無理に面白がってるんちゃう?と疑問に思えるものもある。

『幻の湖』も映画の肩書きだけはは凄い。
東宝創立50周年記念作品。芸術祭参加作品。制作総指揮は『砂の器』『八甲田山』を生んだ橋本プロダクション。
主役こそオーディションで選んだ新人女優だが、北大路欣也や大滝秀治が脇で出演するという。
前衛もメケメケもなさそうだし長いし食指が動かなくて、あまり積極的に観る気はなかったが先月ご縁があって遂に鑑賞した。

さすがZ級映画の横綱級。
そこらの駄作とはレベルの違う破壊的な駄作ぶりを見せつけてくれました。

久しぶりに唖然としたわ。
★予告編



予告くらいはまともかと思ったらやっぱり変な電波を発してましたw
予告編すらZ級の貫禄。踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

主人公の雄琴温泉のソープ嬢「お市」(南條玲子)は「戦国時代コスプレ風俗」なるマニアックなイメクラ勤め。No.1の「淀君」(かたせ梨乃)に次ぐ人気の嬢。

昼間は趣味のランニングに勤しんでいる。かなり本格的にトレーニングしてる様子だが、マラソン大会には出ない主義らしい。
愛犬シロと一緒に走っちゃダメなルールが納得できないからだそうだ。
当たり前だろ!

金も使わずランニング漬けで1800万の貯金があり、貯金目当てに足しげく通う担当銀行員の倉田(ショパン長谷川初範)を高飛車な態度でこき使う。バブル時代に流行った「アッシー君」ってやつだ。
かと思えば仲の良いソープ嬢に突然、「私1年後に倉田さんと結婚するわ」と宣言してみたりする。
同僚の外人嬢「キリシタンのローザ」(デビ・カムダ)に「倉田さんは理想の結婚相手です」とおだてられ勝手に悦に入ってたりする。

主人公がソープ嬢設定も凄いが、性格がいきなりメンヘラモード全開である。

★運命の人って何人いるんだコラ

そんなお市が近頃気になってるが、ランニングの最中に時折聞こえる笛の音。
物悲しい音色に運命的なものを勝手に感じるお市だが、ある秋の日、また笛の音が聞こえたと思うと突然シロが森の中へ駆け出した。
追っかけると謎の笛吹き青年・長尾(隆大介)がいた。
で、「あたしの運命の人!」と初対面で決めつける。
倉田銀行員はどうしたんだコラ。
「シロはあたしのキューピッドね♪」と犬をほめるお市。
シロ(セッター系の可愛いわんこ)は元々迷い犬で、ランニング中に小汚い犬が後ついて来るのをイヤそーに追っ払ってたくせに、なんかの拍子に帰りを待ってた姿を見るやいなや「あたしの帰りを待ってたなんて!」といきなり号泣して可愛がる、てのが飼いはじめたきっかけらしい。
万事こんなテンションで、電波ツンデレソープ嬢の情緒不安定な日常と琵琶湖畔のランニング風景(協力・滋賀県)がダラダラ続いてつまんなくなってきたところで、唐突に事件が発生する。

シロが何者かに殴り殺されたのだ。
ああシロちゃん。数少ないまともキャラが死亡とは。

愛犬の死にお市は半狂乱。「絶対犯人を見つけ出してやる」と警察へ乗り込む。
駆け付けた倉田銀行員は犬の葬式を手配し、滋賀県警はシロ殺犬事件の捜査に全面協力、ソープ仲間は「新しい犬を買ってあげよう」と相談する。
みんなお人よしなのかヒマなのか?「犬なんて自分で買えばいいじゃない」と冷静にあしらうかたせ梨乃だけがマトモかい。

★復讐ランニングデスマッチにCIAも登場する東京編

周りの暖かい心遣いを受けて、お市は心癒されるどころか電波エスカレート。
犯人が売れっ子作曲家・日夏(米田昌弘)と分かるとハンドバッグに出刃包丁を忍ばせ上京し、音楽事務所の受付嬢の眼前にダン!と出刃を置いて「日夏に会わせろ」と脅す。

これだけでも十分おかしな人なのだが、「まさか…あの運命の笛の人が日夏では…!?」とまた何の脈絡も無く電波に推理するわ、音楽事務所の玄関前で連日張り込み続けるわ、事務所の警備員につまみだされては「憎い…日夏が憎い…東京が憎い…!!!」と怨念たぎらせ丸の内をさまよう。
いや、だからなんでさ、東京まで憎むんだよ。東京関係ねえだろ。

そこへソープ辞めて故郷アメリカへ帰ったはずのキリシタンのローザと偶然に再会する。
ローザは元々琵琶湖上空を飛ぶ軍用機を眺めては、「あれはファントムではなくイーグルだ。イーグルは実践配備についている」などと世迷言を呟くいかれた軍オタ女だったが、正体はなんとCIA職員。
お市はローザが提供したCIA秘密情報をもとに、日夏の写真と自宅住所をゲットした。
もちろん笛吹き青年と赤の他人だった。
琵琶湖畔で笛吹いてただけなのに勝手に殺犬犯疑惑かけられる隆大介哀れなり。

ターゲットが見えた次の朝、お市はスポーツウェアに着替えて、趣味のランニングで自宅を出る日夏を尾行する。
人気の無い場所に出るまで後ろを走り続け、隙を見て出刃でブッ刺す作戦を立てたんだが
走って、
走って、
走って、
2人のマラソンシーンで15分経過。

駒沢オリンピック公園を一周して結局スタミナ切れで作戦失敗。
男と女が長距離走ってどっちが先にへばるか、ランナーなら普通わかるだろ!

★島の裏に家がある!と涙されてもさぁ

まぬけな作戦のせいで復讐を果たせず、すごすごと雄琴へ帰ったお市は倉田銀行員が川崎へ転勤する事を知る。
ソープ担当ですかこの人はw
で、「最後にあたしとドライブしなさいよ」とツンデレ誘いで琵琶湖をドライブデートする。

ドライブ中にお市は湖に浮かぶ沖ノ島という小さい島を眺めて
「あんなに孤独な島はあたしと同じだと思ってたのに…島の裏には…あんなに…家があるなんてっ…!」
とこれまた意味の通じない理由で急に感極まる。

孤独な島と勝手に決めつけるなw島の住人の気持ちにもなってやれよwだが、こんな電波発言でも愛のハグで応える倉田銀行員。
心が通じあった(らしい)ふたりに「結婚」という道が開けた瞬間だった(らしい)。

ところがそこへ運命の人・笛吹き青年が再登場。
おお、銀行員と笛吹きの間で心揺れるのか?三角関係の恋愛パートへ突入か?と思った矢先、笛吹き青年は自分が吹く笛の由来を語り始める。

物語は三角関係恋愛パートどころか、何故だか戦国時代劇パートへ突入だ。

近江の若き地侍である長尾吉康(隆大介・二役)は、お市の方(関根恵子)の侍女・みつ(星野知子)と趣味の笛を通じて知り合いフォーリンラブ。
二人の恋を引き裂く障害も特になく、祝福されてさあ結婚、だがここは戦国時代。
そしてお市の方といえば兄の織田信長(北大路欣也)の命で近江の大名・浅井長政と政略結婚した悲劇の美女。
吉康とみつが初夜を迎えようとした直前、浅井長政の本拠地・小谷城が信長軍に攻められ落城する。長政はじめ一族郎党は処刑され、吉康とみつも離れ離れになる。

サイドストーリーにしちゃ長すぎるが、本格時代劇でなかなか見応えがある。
電波な本筋に比べれば安心して見れるわーと思ったら、わずか10歳で処刑された長政の長子の
万福丸の処刑シーンはまさかの史実「田楽串刺し」を再現。
ケツからがっつり棒を刺されたお子様が琵琶湖のほとりで晒し者。
さらに、みつが信長に反抗した見せしめに湖の崖から逆さに吊るされて死ぬというダブルトラウマシーン登場。
哀しみの吉康は湖に小舟を出し、逆さ吊り死体を見ながら鎮魂の笛を吹くしかなかった…

★宇宙パルサーって何ですか、先生

…という先祖の凄惨な悲劇を語った隆大介は今、みつの生まれ変わりを探しているという。
ここで「私の仕事は宇宙パルサー」なんて、いきなりとんでもない自己紹介を始める笛吹き。
宇宙パルサーって何だよ!
思わずgoogle先生で検索しちゃったじゃないか。
映画によるとJAXA研究員のようなものらしい。近々渡米してスペースシャトルに乗るそうな。

で、笛吹きは琵琶湖で出会ったお市に先祖が導いた縁を感じ、「一緒にアメリカへ行こう」なんて、これまた後先考えずにプロポーズする。
しかしお市は断る。
理由は「私はお市の方。みつじゃない」から。
お前の『お市』はただのソープの源氏名じゃねーか!

でも壮大な運命の出会いに感銘を受けたお市は自分の髪を切って笛吹きに渡し(なんで?)、倉田銀行員と結婚するためソープを辞めようと決心する。
結婚話を聞いた淀君は、餞別に新しい犬を世話すると白い犬の写真を渡す。
「お市の方は淀君の母親…親孝行くらいしないとね」
だからお市も淀君も源氏名!ただのあだなだろ!
ああお前もか、かたせ梨乃。唯一マトモな人間キャラだと思ってたのにー!

そんなこんなで着々と結婚準備が整い、お市のソープ最後のお勤め日となった。
しかし支配人に案内されて来た客はなんと運命の殺犬犯日夏だった。

復讐心が再燃したお市はお部屋でサービスする振りをして、隠してあった出刃包丁を取り出し日夏を襲う!
間一髪で逃れた日夏はソープから飛び出し逃げるg、「お市の君」なのに女忍者コスプレ姿wのお市は「東京の仇は琵琶湖でっ!」と血相を変えて追う。

だがしかし。
走って、
走って、
走って、
やっぱり2人で琵琶湖マラソンするんである。
途中で助けを呼ぶとか、回り道して待ち伏せするとか姑息な小細工などしない主義の2人は、ひたすらペースを守って走り続け最後はへばる。
駒沢オリンピック公園のデスレースから何も学んじゃいねえよこいつら。

しかし今回は地元の琵琶湖。地の利がある。
慣れない道を走った日夏がわずかに先にへばった。
「勝った…!勝ったわシロ!勝ったのよ!」
お市は琵琶湖大橋の上で勝利宣言すると、満を持して日夏の腹に出刃包丁をぶっ刺した。


電波女ストーリーもここでおしまい。あーさよなら、さよなら。
といきたいところだがまだ終わらない。
伝説のカルト映画には、伝説にふさわしい最期が待っていたのである。

★そして宇宙へ…!

琵琶湖殺人マラソンの結果も知らず宇宙へ旅立った宇宙パルサー隆大介は、ひとりで船外活動を行っていた。
目の前に広がる地球は青かった。
丁度日本上空を通り過ぎる頃、隆大介は宇宙服のポケットから何かを取り出した。
それはなんとお市の髪と共に紙に巻かれた笛だった。

宇宙パルサーは数万キロ上空から凄い眼力で琵琶湖の位置を正確にロックオンすると、真上にそっと笛を置いた。
琵琶湖の上空でくるくると回る形見の笛に被さる隆大介のモノローグ。


「例え琵琶湖は無くなっても…太陽系の消滅する45億年後まで…
笛は幻の湖の上にある…」

あるわけねえだろ!!
そんなバカなーーー!!


★感想

脱力した。
ああ…ただもう、凄いとしか…

頭からケツまでツッコミ満載な『幻の湖』だが、雄琴温泉ソープ街を舞台にしときながら肝心のお色気シーン無に等しい。
ヒロインの南條玲子は脱ぐことは脱ぐがわずか1シーンで絡みゼロ。序盤はジャージで走ってばかりだ。
だがかたせ梨乃が脱いでくれれば!とは思うが、南條玲子のお色気が見たいか?と言われても「別に」なルックスだったのが実に痛い。
オーディションで1600人の応募者から選ばれたらしいよ。この人が。

その昔バブル末期に『輝く日本の星!』というTBSのバラエティ番組がありまして、「第2の原節子をつくる」というテーマで新人女優オーディションを行ったのですが、いかにもバラエティっぽい「過酷な選考」を経て「優勝はこの人です!」と発表された瞬間、テレビの前で「えー!?」と固まった記憶をなんとなく思い出した。
いや全然関係ないんだけど。

あとショパン長谷川初範はご愁傷様なことにこの作品が映画デビューだそうですが、「スーツの似合う端正なイケメンだがいい様にあしらわれる男」という立ち位置が藤木直人っぽいと思った。

★おまけ 菅井きんを探せ!

シロちゃんが殺されて聞き込みしてる時に登場します。やっぱりおばちゃん役。

(了)
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