No.025『殺しの烙印』

製作年:1967年
監督:鈴木清順
脚本:具流八郎
ジャンル:昭和ハードボイルドのはずだが

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「宍戸錠の自宅が火事で全焼」のニュース見てまして、ご自宅に残した日活ハードボイルド時代の衣装や小道具コレクションが焼失したそうでびっくり。
ほっぺた焼けちゃったらしいですな。
日本の美容整形史を飾る貴重な品が!あらー無念。

しかしあのほっぺたはハードボイルド的に正直イケてたん?いつも気になる。
古い白黒映画で観てもくっきりはっきり詰め物感丸出しで、花咲か爺さんにしか見えないんですが。
誰か止めれなかったのか。

さて、本題の「殺しの烙印」。
この映画は宍戸錠のほっぺた同様、当時ハードボイルド的にイケてたのかすごく疑問だ。
鈴木清順の前衛映像美学が暴走してるので大好きではありますが、男の美学を魅せるジャンルにしちゃヘンテコすぎる。
はっきり言っちゃうとシュールコントだ。
「待てよ。こいつはハードっつうよりお笑いじゃねえか」と編集中に気づく奴は誰もいなかったのか?
めくるめく清順美学に圧倒されて誰も話の筋なんか気にしちゃいなかったのか?
こんなへっぽこ映画の1本2本世に出ても構わないくらいどーでもよかったのか?
不思議だ。
★まずは主題歌の解説から

冒頭に流れる主題歌『殺しのブルース』。
オルガン&ハーモニカの渋い伴奏をバックに大和屋竺のヘタウマな歌声で

♪男前の殺し屋は~香水の匂いがした~
「でかい指輪をはめてるな」
「安かねえんだ」
「安心しろ、そいつには当てねえよ」
曲がったネクタイを気にして死んだ~♪

冒頭からばりばりコントじゃねーか!

★予告編



とはいえ予告はコントの香りはしない。
予告だけなら本格派ハードボイルドと一応言える。

★あらすじ(青字はネタバレあり

花田五郎(宍戸錠)はある組織の雇われ殺し屋。「殺し屋ランキングNo.3」認定の凄腕スナイパーだ。
生死がかかるハードな生業からか性格はすこぶる破綻しており、「めしの炊ける匂いに欲情する」という常識では考えられないフェチ嗜好の持ち主である。

殺し屋稼業には珍しく嫁(小川万里子)がいて、稼ぎが良いのか昔のトレンディドラマばりに生活感の無いデザイン住宅に住んでるが、おしゃれな家の真ん中に鎮座ましますのが昔なつかし一升炊きのパロマガス炊飯器。
ハードな任務を終えて家に帰り、嫁に向かって放つ第一声が「飯を炊け」。
一升炊き炊飯器からほわほわ昇る湯気を見て恍惚の表情を浮かべる殺し屋って。

飯の匂いにむらむらしたら速攻セックス。
台所、風呂場、螺旋階段、所構わずやりまくる。

ニヒルな一匹狼殺し屋としてありえねえトンデモな私生活設定だが、めしが炊けてセックスさえできりゃそれでいいのか、嫁は旦那に黙って毛皮を買うような相当浪費癖のある悪妻だけど、夫婦喧嘩しながらも一緒に暮らしている。

★私生活はめちゃくちゃだが本業はちゃんとやる、はずが

ある日五郎は報酬500万で組織幹部(南原宏治)を護送する仕事を請け負うが、相棒・春日(南廣)とハイヤーを運転中に待ってましたとばかり敵の襲撃を受ける。
敵の雇った殺し屋はランキングNo.2「佐倉」とNo.4「スタイリストの高」。
元殺し屋ランカーだった春日は撃たれて即死、五郎は手強い相手に苦戦しつつ幹部の援護を受けて2人を倒す。
No.2を殺したので自動的にNo.2に昇格した五郎は、次々と来る暗殺依頼に華麗なテクニックを駆使して片っ端から任務を遂行する。

ある土砂降りの雨の中、五郎はずぶ濡れでオープンカーに乗る謎の女・美沙子(真理アンヌ)と出会う。
車のミラーに鳥の死骸をぶら下げ「私の理想は死ぬことよ」と呟く不気味ちゃんの美沙子は、組織から派遣された新しい相棒だった。
「SPに厳重警護された外国要人を暗殺せよ」なる難件を引き受け、2人はSPが離れる数秒の隙を狙って遠距離から一撃で仕留めようとしたが、銃口に蝶々が止まり狙いがブレるハプニングが起こり誤って無関係の一般人を殺してしまう。

暗殺に失敗した五郎はランキングNo.2からランク外に転落し、一転追われ者になる。
どうも暗殺に失敗したら即組織から刺客が来て殺される地獄のランキングルールらしい。きびしいねー。
しかも第1の刺客は嫁!自宅でいきなり旦那を撃ち放火する!
「変態!エッチ!すけべ!」と罵りながらも飯を炊きセックスしてくれた女に裏切られ、命は取り留めたがショックが隠せない五郎は美沙子の家へ転がり込む。

しかしそこは壁一面とベッドに大量の蝶々の死骸、扇風機に鳥の死骸が串刺しになった、不気味ちゃんの変態趣味部屋だった。ひぃぃ

でも死骸だらけ厨二病部屋に住む女に「飯を炊け」と迫る、裸で欲情モードの宍戸錠。
チャレンジャーやなー。蝶々の炊き込みごはんを出されるぞ。
ていうかそんなに飯が好きなら自分で炊けよ。
飯どころかまともな生活の匂いが一切しない女の美沙子は当然飯は炊かないが、五郎に惚れたらしく組織を裏切り2人はデキる。
しかし裏切りを組織がOKするはずがない。美沙子は誘拐されて姿を消し、五郎は組織から「彼女は全裸で拷問され殺された」と知らされる。

★伝説のNo.1スナイパーの理解不能な謎戦法

さらに五郎には組織から真打ち刺客が派遣される。
全殺し屋があこがれる伝説のNo.1。その正体はなーんだやっぱりね、最初に出てきた組織幹部・南原宏治だった。

されどNo.1に君臨する男はやっぱりすごかった。なにが凄いってめし欲情を超える濃厚ド変態っぷりだ。
No.1は「お前を殺しに来た」と五郎の自宅を堂々と訪問し、なんとそのまま一緒に住み始める。
24時間隣でぴったり密着監視。ベッドもトイレもずっと一緒。食事は腕組んで仲良くレストランに行く。
特技は目を開けて寝ることと服を着たままションベンすること
きたねー!!!

どうやらNo.1の戦法は「敵をじらしてシビレを切った瞬間を見極め殺す」らしいが、散々密着監視でじらしときながら、ある時トイレに行ったきり行方不明になる。
日時指定で「後楽園へ来い」と指令を残して。
なんでやねん!
最初からとっとと後楽園へ連れてきゃいいのに。住み込み監視戦法は何の意味があったんだ。
理解不可能なホモくさい殺しテクだ。いや、テクなのか…ただの趣味なのか。

さらに組織から追い打ちで謎のフィルム1巻が届く。
上映すると映し出されたのは美沙子の姿。組織に訳のわかんない弄び方をされてて、元々壊れてた五郎がますます壊れる。

五郎はNo.1に怯え「どーせ俺は死ぬんだ絶望だー!」な鬱モードから「俺は戦うぜ!きやがれNo.1!」な無駄にアゲアゲモードまで情緒のアップダウンが激しくなった挙句、最期は完全キチモードにテンションあげまくって後楽園ホールのボクシングリングへ突入。
性格変わり過ぎだろ!序盤のニヒルな殺し屋はどこへ行ったんだ!
そのまま五郎は錯乱状態でNo.1と決闘する。というか、敵と戦うっていうより宍戸錠の1人アクション1人ポエム1人芝居状態。
目に入る者はみんな敵に見えて撃って撃って狙撃しまくる。

で、気が付けば南原宏治No.1まで殺しちゃってた。

「俺がNo.1だー!!!」とリングで雄叫びをあげる五郎。
でもどうせランキング外だったはずだが。今更No.1とかどうでもよくね?No.1を殺したらランク返り咲きっつうルールでもあるのか?
しかも五郎はまだ気づいてなかった。No.1と間違えて撃ちまくった相手は、顔を包帯でぐるぐる巻きにした美沙子だって事を。


コントと考えれば立派なオチがついたところで、とどめを刺すごとく『殺しのブルース』が流れて大笑い、支離滅裂な映画はようやジ・エンド。

★感想

宍戸錠の不自然なほっぺたに目をつぶれば人物のルックスはハードボイルドで美しい。
なかでも真理アンヌはまことに美しい。顔・カラダ・ミステリアスなオーラに圧倒される。
これでも当時19歳っ!
すげー!

もちろん鈴木清順だから映像は文句無しに美しい。
「シャープでスタイリッシュな映像」に嘘は無い。溜息が出るほど構図が完璧。ちょっとしたシーンでも一流写真家の作品のようだ。パロマガス炊飯器から湯気がほこほこ出てようがスタイリッシュに微塵の揺るぎは無い。ヌーヴェルバーグ、昭和モダニズム好きなら必見。
特に前半の凝りまくった暗殺シークエンスが観てて楽しい。わくわくする。こういうスタイリッシュなハードボイルド殺し屋物語に終始してくれれば、「性癖変わってるけどカッコいい映画だよね」だけで済んだんだが。

ところが残念ながらめしの匂いにとどまらず、脚本がシュールコント爆弾を次々仕掛けてくる。

★ていうかこんなにシュールでツッコミ放題な「殺し屋ランキング」を考え付いたのはある意味偉い

何と言っても映画で一番突き抜けたへっぽこ爆弾ポイントは「殺し屋ランキング」でありましょう。
No.3の花田五郎が華麗な暗殺テクの持ち主なのは見るからに分かるが、殺し屋ランクって何で決まるの?殺しの量?質?テクの華麗さ?
例えばJFK暗殺とかデカイ案件を成功させたらランキングがはね上がるの?

そもそも「殺し屋」とは依頼主から受けた指令を成功させたら報酬がもらえる訳で、とするとランキングが上がる条件は「依頼案件成功=依頼者を殺し屋から守る=結果として何事も無くつつがなく終わる」のみであるはずで、ランキングが上の殺し屋を殺したらランクが上がるって掟破りじゃないのか?
そもそも一匹狼な殺し屋同士がネット社会でもないのに、ランキングの推移とか他の殺し屋の顔とかなんでみんなつぶさに知ってるの?組織で殺し屋総会やって表彰式とかやったり、定期的に「殺し屋だより」でも来ない限りみんな把握できないのでは?拷問フィルムレターを送るマメな組織だから、リーマン社会並みの評価システムがあってもまぁおかしくはないけどさぁ。

如何せん肝心のランキングの仕組みが視聴者にさっぱり分からないため、男達がランキングに命かけて凌ぎを削る心情があんまり理解できずじまい。
ここらへんの説明不足が映画全体をシュールコントに思わせてしまった原因だろう。

まぁ面白いから些末なことはどーでもいいんだよ!ではありますが。
少女漫画『花のあすか組!』に登場する伝説の東京都23区不良少女の陣取り合戦「全中裏エリアマスター」の次くらいに興味があるシステムなので、誰か漫画化してランキングの謎に挑み、きっちり落とし前をつけれないものかと願います。

(了)
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