No.033『月光の囁き』

製作年:1999年
原作:喜国雅彦
監督:塩田明彦
脚本:西山洋一・塩田明彦
ジャンル:ポチと女王様の変態青春物語

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私が勝手に「ポチもの」と呼んでいるジャンルがある。
優等生で頑張り屋だが最近心寂しい美女が瞳がキラキラウルウルした仔犬系男子と出会い、犬とご主人様みたいな癒し恋愛をするドリーミーな話であります。

10年前に『きみはペット』というタイトルの身も蓋も無くポチもの少女漫画が流行った。
ドラマにもなった。バリキャリ美女(小雪)が段ボール箱に入ってた仔犬系美少年(松本潤)を拾い、ペットとして住まわせるという話だった。
そのまんまですな。
私は意外と月9キラキラスイーツドラマも好きなんだが、あからさまに女子の妄想叶えましたみたいなクソ甘々なラブストーリーはちょっと苦手だ。見てると背中がかゆくなる。

しかし甘々スイーツなポチものジャンルって、たまに化けるから面白い。
例えば優等生で頑張り屋だが最近心寂しい美女が、瞳がキラキラウルウルして可愛いが妙に依存心の強い仔犬系男子と出会い、精神を(時に金やキャリアや人間関係も)破壊される。本人たちは「何もかも失ってもいい、愛さえあればいい究極の純愛なの☆」に酔いしれて頭お花畑だが、視聴者の方が「それってどうよ?」とドン引きするというlドリーミーホラーな恋愛物語である。

さて本作。
寝取られ(NTR)系のちょっと変態な青春映画で知られてますが、地獄のポチホラー映画としても楽しめます。
パッと見は地味な平成日本映画だけど、なかなか考えされる佳作ですよ。
★予告編



映画の匂いを活かして上手くまとめた予告。
押入れのシーンをキーにした構成がいい。

★あらすじ(青字はネタバレあり

ポチものって事で、あらすじ紹介をキラキラスイーツドラマ風にしてみました。

ポチドラマ第1章★高スペック美少女はおチビのポチに恋をする

高校生の紗月(つぐみ)は剣道部のエース。
顔は可愛く剣道はバリ強い。ミニスカ具合ととルーズソックスの丈具合が(1999年当時の)今どきなモテ女子だ。
彼女に気がある剣道部員は何人かいて、主人公の拓也(水橋研二)もそのひとり。でも拓也はチビで顔も剣道もあか抜けない普通男子で、とてもじゃないが告る自信が無い。
拓也は時々紗月のロッカーをガサ入れしてブルマーの匂いを嗅ぎ(いやん)、満たされない性欲をこっそり発散させていた。

ところがある日拓也は友達のマルケン(関野吉記)から紗月とのデートのセッティングを頼まれる。
拓也は紗月に事情を話すが、なんと「あたしは拓也が好きなの」と紗月から逆告白!
マルケンには悪いが棚ぼた式に交際がスタートする。

2人の関係は最初はごくごく平凡だった。
順調にデートを重ね、ファーストキスを経験し、初エッチは普通に拓也の部屋で。
風邪ひいて学校休んだ拓也を紗月が見舞いに来て、そのままセックスへなだれこむ。初エッチらしくちょっと早めになっちゃって、男としては無様に終わる。

ポチドラマ第2章★ポチは甲斐性は無いが純な心と独特な感性を持っている

ポチものにおいてのポチ君とは「高スペック彼女に釣り合わない「できない子」だが独特な感性がある芸術家肌の男子」という設定が多い(踊れる、絵が上手い、人の心が読めるとか)。この時点で全然普通メンじゃないじゃんとツッコミたいがwまぁスイーツドラマの相手役がリアル平凡だと話の展開広げるのがキツいしねー。

という事で、拓也も初エッチで自分の独特な感性を知ってしまった。いや正確には性癖を知ってしまった。
普通のセックスじゃ勃たない体質なのだ。

最初は性癖を隠して交際する拓也だが、女の勘は鋭くやはりばれる。
ある日いつも通りに男のお部屋でデート中、拓也が席を外した間に紗月は机の中を偶然見ちゃってビックリする。
紗月の写真。使用済み小物。小便の音を録音したテープ
拓也のオナニー用コレクションの数々だった。げげげー。
ドン引き&怒りに震える紗月は、戻ってきた拓也を「変態!」とののしり速攻別れる。

こうして平凡な高校生の恋愛話は幕を閉じたんだが、忠犬ポチがあきらめて「さあ次!」と別の女子にターゲットを移す訳が無い。
一途じゃなきゃポチじゃない。
拓也の純愛はここから本番だ。

ポチドラマ第3章★高スペックなライバル登場!だけどポチの愛はスペックなんかに負けない

情けない破局から間もなく、紗月は剣道部「憧れの先輩」植松(草野康太)に誘われる。
植松先輩は背高くイケメンで剣道上手くて押しが強い。拓也と違ってエースのモテ同士つり合いが取れてると言える。
紗月は先輩とデートするが、なんとなくもやもやした心残りがある。

そんな女の揺れる心を見透かしたかのごとく、ある豪雨の午後に拓也が紗月の自宅の庭に登場!
雨の中ずぶぬれでウルウルするチビ(ポチの定番胸キュンスタイル)に動揺して避けようとする紗月にお構いなくお構いなく、拓也は切々と己の真摯な愛を訴え(ポチは時に都合良くご主人を無視するものだ)、締めは正直な欲望を叫ぶ。
「僕は犬や。おまえの犬や」
こいつ堂々とポチ宣言しちゃったよ!

「はぁ!?変態が何開き直ってんだよ!」とカッとなった紗月はルーズソックスを脱ぎ、「欲しかったらやるわ」と田んぼに投げる。
一瞬戸惑った表情を見せた拓也だが、己の欲望に負けて田んぼに入り靴下をゲットする。
大事に大事に靴下を握る姿を眺めた紗月は、ついうっかり見ちゃったのです。

拓也のあそこは勃っていた…

イヤアアア!とフリーズする紗月。大事な処女をあげた男がこんな変態なんて!あたしよりルーズソックスがいいなんて!

ポチドラマ第4章★美少女はポチの純愛蟻地獄にズルズルと引き込まれる

ぶちぎれた紗月は拓也に命令して跡をつけさせ、植松先輩とのボーリングデートを見せつける。
「本を買ってこい」と命令して入手しづらい本を購入させ目の前で投げ捨てる。本拾う手をサンダルで踏む。
でもポチは痛そうな顔はするが手を跳ねのけない。顔こそ悲しげにウルウルするが、何をやっても尻尾ふりふり付いてくるし、自分を踏んで泥を被ったご主人様の脚を舐めてきれいにしてさしあげる。
澄んだ瞳で変態プレイをかます元彼を、ただ眺めおろすしかない紗月。

普通の女子は元彼にこんな行為をされちゃ速攻逃げる。百年の恋どころか千年の恋だって冷めるだろ。
しかし紗月は拓也の姿をキモいと嫌悪しながら気づいてしまう。
認めたくないが変態だけど本気で自分を愛してるし、認めたくないが自分も拓也が好きだから、拓也が求めるままに女王様と犬ごっこに応じるしかないのだ。
いやー、地獄ですね。

ポチとのSM関係が始まってから優等生紗月の日常が狂っていく。
絶対エースだった剣道大会で初めて敗北を味わい、イライラした紗月は拓也を自分の家の押入れに閉じ込めて植松先輩を呼び、セックスの一部始終を聞かせる。

事後に紗月が押入れ開けて拓也に「どう?」と尋ねるシーンが印象深い。
「僕だって嫉妬するし傷つく」と正直に答えるポチ。自分はただの紗月様ハァハァな変態マゾ奴隷じゃなく、あくまでベースは愛だと主張する。
「傷ついても嫉妬しても一緒にいたい。紗月をもっと知りたい」とポチは涙ぐむが、「何で(普通に)付き合うてもっと知れると思わんの?」とごもっともな質問を投げられ返答に詰まる。

何が悲しくてバカ犬とSMごっこをやらねばあかんのや!
と普通の女子ならちゃぶ台投げて縁を切るが、拓也が好きな紗月はズルズルと応じてしまい、何度も「拓也を押入れに閉じ込めて植松先輩に抱かれる」鬼畜プレイにはまる。

ポチドラマ最終章★そして最後にポチの愛が勝つ

女王様とポチの関係が煮詰まる一方で、何も知らない植松先輩は紗月にマジでメロメロになる。
でもこれ以上変態ごっこに耐えられない紗月は三角関係にケリをつけるため、山奥の温泉場に男2人を呼び出し事実をぶっちゃける。

後輩どもの狂った関係を聞かされて「そんなバカなぁ!おかしいよお前ら!」とうろたえる先輩。確かにおっしゃる通りだ。先輩哀れなり。
告白を終えた紗月は、先輩の目の前で拓也に「目の前の滝に飛び込んで死ね」と最後の命令を下す。
答えはもちろん「お前が死ねというなら死ぬわ」

その足でまっすぐ滝へダイブした拓也は、あちこち骨折したが命は助かった。
植松先輩はふたりの愛を知り手を引いた。「付き合いきれんわもう」な心境だったんだろう。
そして(ある意味観念した)紗月は拓也とよりを戻し、川の土手で仲良くSMごっこをやっていた。


恋愛映画としてはちょっとヌルい結末だ。
だがポチホラーとしては最高の結末となる。

紗月は色々傷つきイケメンを失いポチの彼女に逆戻り。まわりは植松先輩にマルケンと、失恋野郎が死屍累々。
ポでもチだけがひとり可愛い彼女との純愛も変態も望み通り叶えちゃったのだ。
彼女の小便の音を録音してオナニーのオカズにした男のずうずうしい純愛が最後に勝つ。
サッカーで言うと0-2でロスタイム1分からの逆転ハットトリックに等しい荒業である。

それでも最後に愛は勝つ♪ってか。
ありえねえ。
ポチ!…恐ろしい子!

そんなふたりが寄り添う河原の空は、曇ってるような陽が差すような灰色と紫色が交じった不思議な色をしていた。
この雲の色になんか心ひかれてジ・エンド。

★感想

あらすじを語るとまるでありえない話だけど、丁寧な演出で説得力を持たせていた。

ラコステのピンクのポロシャツにグレーのプリーツスカートが制服の、つぐみの平成っぽくあか抜けた女子高生に対して、男子高校生がみんな昭和顔というギャップがいかにも田舎の高校らしくて良かった。
水橋研二は当時24歳だったそうだが、ちゃんと田舎の冴えない高校生に見える。

特に序盤の平凡なデートシーンが甘酸っぱい。
デートは田んぼのあぜ道でチャリ2ケツ乗り。図書室でこっそりファーストキス。初エッチで制服脱ぐときブラウスの布が擦れる音とか、効果音の仕事が丁寧で良い。
チェリー男子の誰もが夢見る「平凡な初恋」の臨場感が良く出ていいねえ。平凡な青春をきちんと描いてるから、変態関係への移行に説得力が出るのだ。

★ポチ男子の現実はずうずうしい俺様

あと押入れセックスプレイの事後会話で「何で(普通に)付き合うてもっと知れると思わんの?」と語る、ふたりの考えがすれ違うこの会話。これもポチの恋愛観の本音をズバリと突く良いシーンでした。

普通の恋愛関係じゃ僕の片方(=愛)しか見えないし、女王様と奴隷でも僕の片方(=性)しか見えない。
愛も性もひっくるめて僕のすべてを知ってほしい。それですべてを受け入れてほしい。
もちろん僕も君の愛も性もすべて知りつくして受け入れるよ。僕たちが互いを丸ごと愛してこそ「純愛」はまっとうされるのだから。

一聴まともっぽいがとんでもなくずうずうしくないか?
ポチには彼女のために自分を変える気なんか1㎜も無い。彼女の普通の恋愛観に従う気なんか全然無い。
自分のために変わるのは彼女のほうであって、あくまで純愛の主導権はポチが握っているわけだ。

受け身で弱弱しく見えても芯は傲慢な俺様。
ポチ男子の怖さがじわじわ滲む心理ホラーらしい描写でした。

★気になる女優、つぐみの哀しき女王様

つぐみは少年漫画誌のグラビアぽいルックスだが腹の据わった印象のあるひとだ。
可愛いのにどこか人の心を逆なでする声がいい。

特に良かったのが植松先輩とのセックスシーンで、抱かれながら押入れにチラッと視線をやり、わざとあえいでイッた演技をする。
エッチの後で押入れから出てきた拓也の嫉妬の苦しさと欲望が満たされた歓びが同居した顔を見下ろし、椅子に座って「汗をかいた」と言い放ち、ひざまずかせて足をなめさせる。

なんでここまで自分を傷つけるの?ってくらい心をズタズタにしながら痛々しい女王様を演じる姿が美しい。
すばらしい。

他の映画では園子温『エクステ』での非道なバカママ役も印象深かった。
攻めにしても受け身にしても鬼畜が映える女優ってことでよろしいか。
女優業はやったりやめたりしてるようですが、もっと色々見てみたい人であります。

(了)
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