No.043『草迷宮』

製作年:1978年
原作:泉鏡花
監督:寺山修司
脚本:寺山修司・岸田理生
ジャンル:アングラだがカワイイ幻想ショタコン映画

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お年頃の少年は寺山修司世界のアイドルである。

ときに彼は麦藁帽子を被って学校の帰り道を駆けてく可愛い少年である。
走ってて火照ったほっぺたを冷やそうと紫陽花の茂みに突っ込んだり、
海を知らない少女に海の大きさを教えようと一生懸命両手を広げたりする。

ときに彼は繊細な詩人である。
樫の木を見て血が立ったまま眠っていると想ったり、理科室に蝶々を閉じ込めたり、林檎の小箱に座って詩を書いていたりする。

ときに彼は大人への階段を昇ってみる。
生まれてはじめて恋をしたり煙草を吸ってみたり、皮かぶってるとか毛が生えないとか気にしたり、年上お姉さんに抱かれて花粉を吹き散らしたりする。

ときに彼は母に囚われた不憫な子である。
亡き母を慕い、母札を抱いて街をうろついたり、扉の外で母の情事が終わるのをじっと待ってたり、オカマのママに女の子にさせられちゃったりする。

まーなんてロマンチックでカワイイんだろう。
寺山修司が自分モデルでこしらえた少年は。

彼がリアル15歳で文芸に目覚めたその日から、短歌、俳句、詩、演劇、映画と様々なスタイルで何度も現れるショタコンテイスト全開な少年達。
「過去は捏造できる」とうそぶき自分の半生を幾重もの嘘でマスキングするくせに、「僕はかつてロマンチックでカワイイ少年だった」って設定だけはちゃっかり変えなかったりする。

『草迷宮』を製作したきっかけは寺山修司が42歳の時、フランスの前衛芸術系映画プロデューサーのピエール・ブロンベルジュから、「『誘惑』がテーマの短編オムニバス映画の一篇を作ってくれ」と頼まれたからだそうだが、依頼を受けて作った映画はもちろん「15歳少年の春のめざめ」だ。

42歳のオッサンになってもまだ語りたいのかよ!ロマンチックでカワイイ少年だった僕を。
その執念に恐れ入る。
あんた救いようもなく、自分大好きショタコンですなあ…
★あらすじ(青字はネタバレあり

舞台は昭和初期の信州。

「職業書生、名は葉越明」と自称する青年(若松武)が「死んだ母親の形見」を探して旅している。
その形見とは少年の頃母が歌った子守唄の歌詞だという。
明さんは母の幼なじみ、元女中、学校の恩師(伊丹十三)などゆかりの方々を訪ね歩くが誰も歌詞を覚えてない。訪ね歩く本人さえ何故そんなものを知りたいかわからない。
ただ子守唄に取り憑かれたように、歌詞という名の何かを求めて彷徨っている。

話は飛んで、明さんの少年時代に遡ること10年余。
とある町の黒門がご立派なお屋敷に、妖艶なお母様(新高恵子)と美少年(三上博史)が親子ふたりきりで住んでおりました。
お父様は海軍士官で戦争に行ったまま戻らず、15歳の明クンはお母様に溺愛されて従順だが時々隠れて煙草を吸ってみたりする高校生。
寺山修司おなじみのパターンですね。

★あなたぁお風呂?ごはんにする?それとも?

ある日学校から帰った明クンは土蔵の入口に赤い帯が敷かれてるのを見つけて、ちょっと中を覗いてみた。
そこには千代女(中筋康美)という女が住んでいた。

千代女は明クンを土蔵部屋にムリヤリ招き入れると、「あなたぁお風呂にする?それともごはんにする?」な勢いで空のお膳を差し出し、新婚おままごとを始める。
でもお膳はあるけどお箸が無いぞ。
と気づいた千代女ちゃん、なんと髪に挿してた箸を抜き取り「ハイ♪」とそのまま手渡す。

こいつはやばい。
とびびる明クンをよそに、「新婚夫婦がごはん食べた後にやる事はひとつだぁぁ!」といきなり千代女ちゃんは戦闘モード開始
がっつり馬乗りになり、着物はがしてやりはじめる。
「ダメぇ!でも…なんか…気持ちいいかも…」と初めての経験に抵抗しつつ恍惚を覚える明クン。

だがどこからか子守唄が聞こえると明クンは我に返り、千代女を突き飛ばして裸で逃走する。
得体のしれない甘美な恐怖を振り払おうと、お屋敷を出てひたすらどこかへ駆けていく。
真っ赤な帯が延々と敷かれた砂丘を越えて。
海を見て。

信州のどこに砂丘と海があるんだよ!
まぁアングラ信州には海があるんだよ。たぶん。

★お母様だってまだまだ女なのよ

砂丘に海に散々走りまくって今度こそお屋敷に帰った明クン。
突然裸で帰宅した息子にお母様は眉をひそめるが、明クンたら「母さん見て。見てよ」と無邪気にちんちんを見せびらかす始末w
息子の成長に「やだわ」と顔を曇らせるお母様。
ほんとこのシチュエーション好きだな寺山修司。

「土蔵の中にいる女の人、誰?」と尋ねると「あれは色きちがい」と答えるお母様。
まぁなんて扱いだよ。直球だな。
葉越家の住み込み女中だった千代女は恋愛の願掛けに失敗して発狂し、土蔵に幽閉されながら今でも運命の人を待ち続けてるらしい。

しかしいくら広いお屋敷でも一緒に住んで気づかないってありえない話だが、押し倒されて以来千代女が気になってしょうがない明クンはこっそり土蔵へ通い、窓格子から中を覗いては悶々する。
だが息子の幼い恋心に母親が気付かぬわけがありません。

「キィィ可愛い息子が色きちがいに恋惑うなんてぇ」と激怒して明クンを木に縛りばっしばし叩くお母様。
「ごめんなさいもうしません」
謝る息子を木に縛ったまま、お母様はいそいそ化粧して町へ出かける。
でも外出中に千代女が誘惑しに来たらどうする?と心配したお母様は、明クンの顔や全身に魔除けの呪文ならぬ女除けの子守唄を書く。

おおぅ。綺麗な耳無し芳一プレイ。
肌に流れる草書のライブ感がすばらしい。

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できあがり

子守歌写経に満足したお母様は黒い日傘を差して、「うふふ。お母様だってまだまだ女よ」と言わんばかりに、ふるんと微笑って家を出る。しかしどこへ行くんだよお母様。

★さて寺山修司お約束の私は誰?タイム

って事で、明クンが木に縛られてうとうと居眠りしながらお母様の帰りを待ってる間に、寺山修司映画らしく母子の甘美な物語は次々とひっくり返る。

黒子役の小坊主がわらわら登場して、お母様の秘密を口々に暴き立てる。
お母様は怪しい女。若い女中の千代女を土蔵に閉じ込める一方、自分は時々町へ出て知らぬ男と逢引きしてる。
自分は未亡人で明クンの父は海軍士官だというが、町の誰も海軍士官の父の姿を見たことがない。
一体明クンの『お父様』とは誰なのか?
明クンとは何者か?

時は進み(戻り?)子守唄を訪ね歩く青年の明さんは寺の住職(また伊丹十三)に知らんと断られ、色街の娼家で聞き込みするもみんな歌詞はうろ覚え。
困ってるうちにいつしか明さんは娼婦たちにお母様の幻影を見て、幻想的なセックスに耽ってしまう。
劇団天井桟敷屈指の脱ぎ要員・若松様のめっちゃいい筋肉のフルヌードが拝めて目の保養

夢とうつつが交錯する迷宮世界を彷徨うふたりの明。
明クンは砂丘で海軍士官のパパ?と出会うが、隠れんぼしてる間にパパは愛人?と入水自殺。
家の軒で立ちションすれば二階から変な声がする。見ると壊れたからくり人形が子守唄を歌ってる。
お母様の隣で寝てて目が覚めると、寝床のまわりに丸い球が転がっている。謎の球に顔を寄せてお母様を想わしげに見つめる明クン。
謎が謎を呼ぶ前衛お芸術な展開で、寺山修司お約束の私は誰?タイムが続きます。

★化け物屋敷のふすまを開けると衝撃的結末

さて話はクライマックスへ。
青年の明さんは謎の美少女・美登利(福家美峰)に導かれて、実家の黒門屋敷によく似たお屋敷に迷いこみ、ご主人(またまた伊丹十三!)と面会する。
ふと床の間の丸い石に眼が止まった明さん。
ご主人曰く「子産石」というおめでたい石らしい。これを撫でると子宝にめぐまれるとか。
話を聞いた明さんはその晩は屋敷に泊まらせてもらい、不思議な夢を見る…

少年の明クンが学校から帰ると、なんとお母様が男とやっていた。
この男が『お父様』なのか?と思ったが、なんと男の正体は明さん。
大人の男になった、自分だった…

悪夢に驚いて目覚めると、手まりをついて明さんの床に立つ美登利ちゃん。なんと美登利ちゃんはお屋敷に棲む妖怪だった。
ええっ!小学生美少女がオールヌードだわ!
たじろぐ明さんは(いや小学生ヌードじゃなくて小学生妖怪にだが)、屋敷に巣食う妖怪どもに次々と襲われる。

少年の明クンの目の前に川がある。
川岸の向こうには黒日傘を差したお母様。お母様求めて川に飛び込む明クン。
岸辺の草枯れてるよ!冬の川じゃねえか!急流にマジで流されかけてるよ!大丈夫か!
少年青年が入り混じっての急展開に何が何だかわけわかめ。

妖怪屋敷で謎だらけの物語はとうとうネタばらし。
美登利ちゃん、すいかの妖怪、白塗り坊主、首だけお母様に狂女に妖怪娼婦。有象無象の登場人物が魑魅魍魎に変身して明さんを嘲笑う。
そいつらを日本刀で片っ端から叩き斬る明さん。着物はだけて白ふんどしだわ!キャー!
襲いかかる悪夢を刀で払い、続き間を次々通り抜けて明さんが辿りついた奥の間には…

金太郎腹巻姿のキッチュな子供達に囲まれて妊婦のお母様が待っていた。
まさかお腹の子は。
愕然とする明さんを見て邪悪に笑うお母様。
「明。おまえをもう一度妊娠してやったよ」

次の瞬間、明さんは岸辺で自分を眺めていた。
溺れて哀れ水死体となった少年の明クンを。後ろに金襴緞子の花嫁姿で連なるお母様を。
白無垢を着た花嫁のお腹の中には新しい明クンが宿っているだろう。
明は何時までもお母様と一緒なのです…

朝が来て明さんは目が覚める。
ああ気味の悪い夢だった。
しかし、ただの夢だったのか?それとも…

明さんは屋敷を後にしてまた旅に出る。
町から町へ、砂丘を越えて川越えて、子守歌を探して永遠に彷徨い続ける明さんなのでした。


★感想

さてちょっとマジメに感想書き。

42歳、つまり死の5年前に製作された本作品は、15歳から延々と紡いできた寺山少年物語のいろんな意味で集大成な映画になりました。
あらゆる寺山映画や演劇や文学の中で最もロマンチックで甘美に仕立てた、最もえげつない物語であります。

物語をぶっちゃけ下世話に要約すると
15歳のカワイイ美少年のぼくちゃんがお母様と一発やって男の子作って死んじゃう。
自家受粉?セルフ輪廻転生?スターチャイルド?どう呼んだらいいか知りませんが、これでぼくちゃんは永遠にお母様の息子!汚い大人になり果てない永遠の少年の僕!になるますって話だ。


思えば『田園に死す』の少年シンちゃんとはパッと見似てるようで方向性が真逆である。
「母を捨てて家を出てやる」と決意したが「捨てられずにウジウジ葛藤して」ついでに「母と別の女に童貞を奪われる僕」に比べて、明クンとお母様の関係は最初から出口が無い。
母を捨てもしないし家出もしないし大人にならない。
息子ラブなママには究極の理想の息子ですねって余計に始末に負えないじゃねーか!
こわいわー。
えげつないわー。

★寺山修司のサンプリングトラックはめちゃくちゃ上手い

しかも手の込んだことに、この映画は主人公をはじめ登場人物やモチーフは全部別作品の二番煎じ、三番煎じから成り立ってます。
寺山修司作品の断片をサンプリングして寺山少年物語というベーストラックを作り、泉鏡花をフィーチャリングする形です。
30年近く長い間に丹念に磨き上げられた輝石のごとくきらめくサンプリングベースと、妖美な泉鏡花の幻想小説の断片をDJテラヤマが精緻に構築した幻想映像トラック。と考えると理解しやすくなるかも。
岸田理生の脚本と演出がほんとにめちゃくちゃ上手いし凝ってます。

うめめちご贔屓な鈴木達夫撮影監督の手がける映像も凝ってますし、美術も低予算ながら凝ってる。
昭和アングラな露悪趣味は若干控え目で、ノスタルジックな昭和ロマン趣味で溢れてる。近代和風ゴシック好きはたまらないのでは?
大正~昭和日本画の妖女絵をあしらった美術道具がところどころ出てくるのがうれしい。上村松園の六条御息所の絵や鏑木清方の妖魚、月岡芳年の女絵をあしらった日本間がキレイ!これ欲しい。どこにも飾れないが欲しい。

★しかし見事にいいおもちゃになってましたね

そしてメインの見どころはやっぱり明クン役の三上博史だよねえ。
リアル素人の高校1年生でいきなり主役デビュー。
柴犬みたいな和風の品の良い少年じゃないか。かわいー。

今の高校生より全然幼いぞ。中学生かと思った。
そして意外にお芝居まったくできません状態だ。なんでまた天井桟敷のオーディション受けたんだろう。
こんな「寺山修司青春歌集」の世界から抜け出たような、見るからに繊細で優等生そうなおぼっちゃんがまだ何にも染まってないカモネギ状態で来たもんだから、見事に寺山修司のいいおもちゃになってます
丸坊主で緊縛で全裸で女とがっつり絡んでちんちん見せびらかす役って。

やめてー!かわいそすぎるだろー!とはじめは思ったが、どんなハードなシーンやらされてもスレてなくて品があるカワイイ少年っぷりが微塵も揺るがないのは凄いな。どんだけ強靭な二枚目耐性持ってんだと、将来を予感させるものがあります。

色キチ千代女ちゃんもアダ可愛いし、天井桟敷系のロリショタ脱がしはレベルが高い。
なんてったって妖しの小学生手まり美少女・美登利ちゃんにもびっくり!映画で見る限りじゃ相当な和風美少女だけど!
この子や『上海異人娼館チャイナドール』の高橋ひとみ(こちらも当時高校生)の容姿は、寺山修司少女詩集の挿絵から抜け出してきたみたいだ。
あ、あのレベルの子がガチの全裸でいいんですか?とこっちがドキドキした。

★つけたしですが、やっぱり気になりますよねの木

ちなみに『田園に死す』でのシンちゃんのお悩みが解決されてたりする。
そういう意味でも寺山少年物語解決編なのかも。
最後まで下世話ですみません。

(了)
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