No.044『書を捨てよ、町へ出よう』

製作年:1971年
原作:寺山修司
監督:寺山修司
脚本:寺山修司
ジャンル:負け犬青春前衛ミュージカル

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「文章のロレツが回ってない」と言われた。
確かにそうだねー。ぐだぐだだ。
基本酒飲みながら書いてるからな。

酒弱いのに飲むから完全酔っぱらってて、自分で何書いてるかわかんねーんだ。
で、後日こりゃあかんと直すんだが、酒飲みながら直すんで後日の後日見るとさらにわかんねーんだな。
悪循環だなあ。すっかりダメなクズです。

そんなダメ人間と傷を舐めあう気分にぴったりな映画。
ダメな子のダメな子によるダメな子のための負け犬青春ミュージカルだ。
登場人物がみんな社会の負け犬、汚ねえ厨二病のクズ人間だらけ。そいつらが人を煙に巻くようなレトリックの寺山式難解言葉の力を借りて、吠えて叫んで歌って煽りまくる。

映画の文法なんか知らねえよ。そんな手垢のついたお作法みたいな映画論なんかみんなすっとばしちゃってさぁ、お綺麗な映像美学なんかぐちゃぐちゃにしてさぁ、やりたいように好きなだけフィルム回すさぁ!と素人監督なりにやりたい放題やっちゃった。
荒削りで露悪趣味たっぷりなダメ映画。『草迷宮』と同じ監督とは思えませんなあ。

ATGリアルタイムじゃない世代のうめめちには、ATG映画といえばコレ!なイメージがある。
ザ・70年代アングラムービーです。
★予告編



青春アングラの熱と匂いが伝わるいい予告。
踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

ダメ映画ですからマトモなあらすじは期待してはいけない。

暗い画面で青年がひとりしゃべり続けている。
「何してんだよー。映画館の暗闇の中で腰掛けて待ってたって何も始まらないよー」と煙草片手に観客をしきりと煽る。
前衛映画らしい始まりだが、いつしかアジる言葉が負け犬ブルースに変わっていくのが哀しい。
ひどい津軽訛りで時々何言ってるかわかんない。自分がどんなにダメ人間かブツブツ愚痴ってるようだ。
顔は寺山修司からロマンチックなナルシストを差っ引いて韜晦を足した感じだ。

語り手の北村英明(佐々木英明)は学校をドロップアウトした冴えないフリーター。
勉強もダメ、恋愛もダメ、バイトも続かない、サッカー部じゃ万年補欠のお掃除当番。
青森生まれで5年前に一家で夜逃げ同然に上京し、新宿区戸塚の都電荒川線沿いのボロアパートの狭い一室で身を寄せ合って暮らしてる。

北村一家のプロフィールがまたひどすぎる。
ババア(田中筆子)は万年嘘つきの万引き常習犯。
パパ(斉藤正治)はオナニーがやめれない無職マザコン。
妹のセツ子(小林由起子)はうさぎマニアのニート。
なんと一家全員フリーター長男の稼ぎを当てにして暮らしてる。
英明はこんな生活がイヤでしょうがない。家族を捨てて人力飛行機でどこかへ飛び立つ日を妄想してる。でも実行に移せない。
そんなヘタレフリーター英明のダメダメ青春ライフを、妄想幻想を交えて描写した話である。

貧乏ダメ一家ネタの合間に、君の心象風景なのか何なのか謎のサブリミナルショットがばんばん入る。
映画の一場面からインスパイヤされましたーな世界の名作から引用したちょっといい言葉が壁や道路に描かれたり、シュール小ネタ集だったり、天井桟敷の劇団員が路上で前衛ミュージカルしたりする。
電車の車庫跡で全裸男女がフリーセックス。
フーテンらしい人が大麻吸ってピースサインする。
交差点でちんちん形のサンドバッグを持ってキチ演説する厨二病の女。
文通欄で同好の士を探す変態紳士な人々。
セーラー服を脱ぎ乳丸出しで、♪あたしが娼婦だったらー♪と歌う女子高生。
田んぼにおったてた高倉健の巨大立看板を背に、♪健さん、ああ健さん♪と歌う田舎ヤンチャ系な人々。
そういう負け犬どもが次々登場しては、わけわからんパフォーマンスして歌いまくる。アングラなんだが、アートです!前衛です!ってよりなんだか終始おバカでユルい。

★青春ドラマのお約束。友情・童貞喪失・家族の葛藤

さて映画の元ネタである天井桟敷の戯曲はサブタイトルが「ハイティーン詩集」だからして、ダメ人間にも青春ドラマが起こる。
童貞喪失であります。

寺山修司作品の少年らしく英明はまだ童貞だっので、サッカー部憧れの先輩(平泉征)に連れられて商売女のミドリさん(新高恵子)で筆おろしの儀式を行う。
もちろんされるがままに脱がされて、男の涙の喘ぎ声とお経が混じるアングラBGMで延々と童貞捨てるシーンが続く。
しかし尻は汚いが乳首がピンクだな英明君。
最後は怖くなって逃げるのも寺山少年らしい。

次に青春ドラマといえば家族の葛藤。
ダメ人間一家ゆえ葛藤もエグい。
ある日セツ子のウサギ萌えに業を煮やしたババアは、アパートの隣人(下馬二五七)に始末させる。
ウサちゃんは哀れ包丁で突かれて埋められて、ショックで家族不信になったセツ子は家出。あちこち彷徨ったあげくキチモードを発動してお年頃の性欲野郎が集うサッカー部室に乱入。性欲たぎった野郎どもにシャワー室で凌辱される。
途中で英明は妹の一大事に気づき、やめさせようと部室に突入しようとする。

普通ドラマの主人公なら兄の頑張りどころだが、ヘタレパパの息子はやはりヘタレだった。
妹奪還作戦を色々試みるが結局何もできず、自転車ベルの連続鳴らしで嫌がらせするばかり。
でも凌辱事件でさすがにヘタレの目が覚めたか、英明はダメな北村家をまともま家族にしようと遅まきながら努力を始める。
バイトの金でダメパパに屋台を買ってあげたり、傷心の妹をレストランディナーに連れて行ったりしてたところ、レストランで平泉先輩とバッタリ会い歓談する。

筆おろしの件といい何故か英明を可愛がる平泉先輩は、ダメ人間だらけの中では成功者だ。いいマンションに住んでて彼女は美人だったりする。
でも変なコミューン思想の持ち主でこわれてる人なんで、後輩の前で彼女とやり始めて「3Pしようぜ~」と誘ってくる。
ヘタレえ3Pを断り体育座りで見学する英明だが、行動できないくせに妄想はいっちょまえで、メケメケ美輪明宏様にあやし~く迫られる夢を見るw
なんで常に迫られて受け身なんだw残念ながらセックス方面は脱・寺山少年できないようだw

★負け犬な人々、みじめに一家崩壊

さてダメ一家の末路だが、パパは遂に職につくことを決めてババアの養老院送りを決意。
反発するババアは家出して町を放浪するが誰にも助けられずどうにもならない。通りすがりの人に「宝くじで500万当たった」とかホラを吹きまくり歓心を買おうとする姿が哀しい。
ババアを追い出したパパは新しいウサギを買うが、セツ子は化粧に夢中で見向きもしない。男という玩具を覚えた女にウサギはもう要らない。セツ子は家族を捨てて家出する。

面白いように崩壊する北村家だが、最後はやっぱり悲惨なオチが待っていた。
ある時英明が平泉先輩家を訪れると、珍しく「親を捨てたか?家出したか?」とアジるだけで入れてくれない。
「いや、パパを捨てれない…」と口ごもる英明だったが、「しょーがねーな」とドアが開けられて見た風景は、セツ子が先輩と同棲してる姿だった。
あのレストランディナーがきっかけでデキるなんて。お兄ちゃん大ショック。

落ち込んで家に帰るとパパの屋台が警察に押収されてた。
なんでも買った屋台は盗品だったらしい。頑張って金貯めて買った希望が一瞬でパー。
そんなのってあるかよー!とあまりの仕打ちに遂に暴れる英明。
「バカヤロー!バカヤロー!」
キレて吠えまくる哀れな青年の姿で映画は終わる。

…と思ったらそこは寺山修司作品。
登場人物全員が登場してカーテンコールが始まる。

冒頭シーンと同じく、語り始める英明。
だがそれは「北村英明」の告白ではなかった。役者・佐々木英明のモノローグだ。
自分の出身地である青森、撮影の思い出、ダメパパ役の斉藤正治氏が本物のパパに思えてきた、とか訥々と語る佐々木英明氏を見てるとだんだん映画を観る自分ってものが解体された気分になる。
最後は「サヨナラ映画!サヨナラ映画!」と連呼して、今度こそ映画はジ・エンド。


★感想

長い!
くどい!
きたねー!
が素直な感想である。

人のなりが汚い。バブル前の昭和映画な事情を差っ引いても薄汚い。
『書を捨てよ』は他の寺山映画と違って、登場するプロ・セミプロ役者さん達も生々しくてギラギラしてなんか臭そう。
まだ普通に見れるのは平泉征と斉藤正治だけだ(むしろ普通に見えるからダメさが際立つんだがw)。

天井桟敷劇団員やハイティーン役者達のアングラパフォーマンスは良くも悪くも青臭い。いかにも小劇団丸出しでこっ恥ずかしい。
天井桟敷の舞台も実際はこうだったんだろう。キッチュで素敵なアングラオブジェじゃなくてさ。
都電沿いのボロ家が汚い。サッカー部の部室も超汚い。1970年の新宿の町そのものがビンボーで汚い。
わざと醜悪に撮っている。

詩や短歌、後年の映画の世界観から入って寺山修司を好きになった若いファンに、冷水をぶっかけるのがこの映画だ。

センチメンタルな青春の風景なんて無い。ロマンチックでカワイイ少年なんていない。みんな俺の頭が作ったまがい物だよ。ファンタジーだよ、と言ってるみたいだ。
リアル少年少女、リアル東京、リアルなんてこんなもんだ。ヘタレでくどくて青臭くて汚い。おまえらが今いる薄汚い世界と同じだよと。

これはキッツいなー。普段の精神状態じゃ絶対見ない。
リピートで観るのは『田園に死す』や『草迷宮』だ。やっぱり自分はロマンチックなファンタジーを観たいんだ。

★汚い街の愛すべき人々に癒される

しかしながら「どうしようもなくダメ人間な私」に頭から爪先までずぶずぶ浸りたい気分のとき、酒飲んでだらーっと観ると…実に癒されます…
何ですかね。この癒されモードは。毒を持って毒を制す解毒効果なのか。不思議ですなあ。

でもこんなリアルに汚ならしい世界でも美輪様は妖美だった。
毛皮のマリーらしく悩殺バブルヌードを披露されている。戸川昌子みたいなパンチヘアーだが美しい。
そして美輪様のバスルームもまたキッチュだった。『東京暗黒街・竹の家』みたく外国人監督が作った間違いだらけの日本家屋セットぽい仕立てだが、カワイイんだこれが。窓辺に垂らした折り鶴のすだれが少女趣味w

あと、凌辱されてズタボロな妹と無力な兄が自転車押してとぼとぼ帰るシーン、英明君が傷心の妹を何とか癒そうとしてウサギの物まねをするところで、アパートの壁に手でウサギの耳を作ってる影が映るんだが、手がぎこちなくぴょこ、ぴょこと動くのが、情けなくてせつなくて味があった。

またダメパパ斉藤正治が、物腰柔らかなんだけどいつもヘラッと笑ってる、そのヘラッ感も良い。
寺山修司はダメな男のダメな部分の描写がさらっとポイント突いてて上手いなあと思った。

(了)
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