No.045『からっ風野郎』

製作年:1960年
監督:増村保造
脚本:菊島隆三
ジャンル:どこかヌケてるヒロイックヤクザ映画

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昭和文芸つながりで、遂に三島由紀夫先生のご登場です。

どこかで三島由紀夫vs寺山修司の対談を読んだ時、対談内容よりふたりのスタンスが面白くてなんか笑ってしまった。
己のナルシズムを笑われまい突っ込まれまいと互いに一定の防衛線を張った上で、話の節々で相手の防衛線をおちょくり、ちょいちょいと崩しにかかるのだ。
対談ってよりキャットファイトだろこれ。

「自分出たがりでナルシストのマルチ作家」という「文芸界で世間が最もつっこみやすい小説家」なスタンスではふたりは似てるが、若干違うところがある。
寺山修司の方が、ナルシズム防衛線の張り方が一枚も二枚も上手だ。

三島由紀夫はナルでもお坊ちゃまのお人好し。山は高いが防衛が雑で突破されやすい。
要は世間のみんながつっこみやすい。
寺山修司のナルにまともにつっこむには本人ばりのレトリック術かタモリ並の名人芸が要るが、三島由紀夫へのつっこみはあまたあるからなあ。


よちよち文藝部よちよち文藝部
(2012/10/21)
久世 番子

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近頃のつっこまれ例はマンガ『よちよち文藝部』の三島由紀夫回が面白かった。
自分の自爆をヒロイックに演出し、そのための素敵な小道具をいそいそと準備し、若い美形に見つめられながら自爆したいっつう行為に漂うぬけ加減を鮮やかにつっこまれてた。

という訳で今作は稀代のナルシストで隙だらけのつっこまれ名人が、全方位からつっこんでくれと言わんばかりに堂々と主演なさったヤクザ映画であります。
頭からケツまで三島先生の無防備なナルシズムをご堪能くださいw
★まず主題歌『からっ風野郎』の紹介から

主演みずから作詞と歌を担当したというのに、ヘタすぎて映画に使われなかった幻の珍品だ。
何だようー!織田裕二のサムバディだって反町隆史のポイズンだって世に出たのによう!大先生になんて扱いを!と思って聞いたら

マンボの♪チャチャチャ♪なリズムに音程も声量もリズム感もドヘタな歌声で
♪ひーとでなしでも ひとの子さー
(からっ風野郎)♪チャチャチャ♪


こりゃーあきまへんわwww
先生のっけからつっこまれ全開である。



★あらすじ(青字はネタバレあり

昭和30年代の東京の下町に、朝比奈一家という昔かたぎなヤクザがいた。
先代が亡くなってからヤクザ稼業は左前。先代を潰したライバルの新興ヤクザ、相良雄作(根上淳)率いる相良商事グループに押されてる。
そこで先代の息子の朝比奈武夫(三島由紀夫)は父の仇だ!と相良の脚を刺して大けがを負わせ、刑務所で3年弱おつとめしていた。

刑務所の休憩時間にバレーボール見てた武夫は刑務官に「面会人がいる」と呼ばれたが、何かを察して他の囚人に自分の服を着せて身代わりにする。
果たして面会人は相良の部下。身代わりはその場で暗殺される。

そして武夫が出所の夜。
もちろん刑務所の周りはプロの殺し屋が待ってて、ムショ玄関から出てくる武夫の車が狙われるが、しかしそれはダミーの車。武夫は警察の協力で別の車に乗り無事出所に成功する。
っておい!ワルに手をかしていいのか警察!
そしてプロの殺し屋なのに、こんな簡単な目くらましにだまされていいのか!

非道のヤクザ映画の割にぬる~い始まりだ。

★三島先生、チンピラ演技があまりに下手です

シャバに戻った武夫がまず寄った所はオンナ。
いかにも昭和センスなキャバレーホールで、♪丸くて長~いバナナの実♪なんてボケた歌を歌って踊る歌手の昌子(水谷良重)が目当てだ。
昌子の楽屋を訪ねた武夫は、ムショの禁欲生活で溜まったものを放出する気満々だった。
という事で、もちろん三島由紀夫先生が女を押し倒します!
脱ぎます!抱きます!やります!
まぁ、なんてラブシーンが下手なの先生!観てるこっちが恥ずかしくなるわ!


もちろんヤクザ映画らしく一発やった後は「命を狙われてるワルの俺にお前はいらねえ」と昌子をフッて出ていくんだが、チンピラ口調が似合わないわ先生!ガチで間の抜けた棒読みだわ!
服装は王道チンピラスタイルの黒シャツ革ジャン金アクセだが、粋な着こなしと言い難い。顔が長くてデカくて肩が無いからか。
でも笑顔がけっこう可愛いな。意外と瞳がつぶらでわんこっぽい。瞳キラキラな純情わんこヤクザってどうよと思うが。
いかん。序盤なのにもうツッコミまくりだ。

独り者になった武夫は三丁目の夕日みたいな昔懐かしい映画館の2階の隠れ家に直行。
切符係の一見地味な女にちょっかいかけるが、「あなた親分なのにちっとも怖くないもん」といなされる。
おっと女が先生に強烈パンチ。
女の名は芳江(若尾文子)、よく見るともちろん美人。こいつはフォーリンラブの予感。
だが芳江は兄の正一(川崎敬三)へ弁当届けに行って左翼労働者vs右翼愚連隊のバトルに巻き込まれ、身柄を拘束されて映画館をクビになる。

★三島先生、一応ヤクザらしい仕事をする

武夫は先代亡き後組を継いだ叔父の吾平(志村喬)を、出所の挨拶に訪れる。
吾平おじさんはクリカラモンモンの昔かたぎなヤクザの親分だ。
その傍には兄弟分の愛川(船越英二)もいた。
小卒で学が無いチンピラ(という設定なのだが、どーにも見えません)の武夫と違い、愛川は大卒で頭の良いスマートヤクザ。付き合う女もメガネ女子薬剤師・綾子(小野道子)だ。
しかし綾子の営む薬局って下町の普通の店なのに、「ガンの新薬」の話をしていたら、「調べてみるわ」ってここで調べれるのかよ。昭和らしいいい加減な設定だ。

武夫は吾平おじさんの命令で相良勇作の首を取りに行くが、殺し屋「ゼンソクの政(神山繁)」との銃撃戦になる。
先生のアクションシーンだわ!まぁ下手い!とろい!
絶対絶命のピンチにゼンソク発作が出て間一髪助かるなんてご都合主義全開なオチ!
しかも肩撃たれたのに治療中はパンツ一丁ってどういう治療なの
あまりないい加減っぷりにわくわくしてきた。

負傷中の武夫のお見舞いに、再び芳江が現れた。
そこで先生はチンピラらしく頬を叩いて強引エッチしてから、「実はお前が好きだ」と後出しで告る。昭和善玉チンピラのお約束通りに、ふたりはめでたくフォーリンラブ。

さっそく公園でデートしてたら偶然可愛い子供に出会う。
その子は偶然にも相良雄作の娘!って訳で成り行きで娘を誘拐する。
「返して欲しけりゃ金よこせ」って暗殺はどーした。行き当たりばったりな計画である。
しかしヘタレの武夫君、子供誘拐したはいいが、手荒く扱えずほのぼの遊んでしまうw
このシーンは先生も慣れてていい雰囲気。やっぱり三島先生も父親だ。

さて交渉の結果、東京駅八重洲口で子供と金を取引するんだが、もちろん現場周りは相良商事の殺し屋だらけ。
先生危機一髪!だがここで吾平おじさんが助太刀で登場して場を収める。
実は相良商事はガンの新薬を手に入れていた。新薬は治験がらみでトラブルを起こしており、相良は薬の現物をタネに製薬会社をゆすってたのだ。
吾平は子供と引き換えに、ゆすり金の半分よこせ、これで過去の因縁は手打ちにしようと持ちかける。
志村喬と根上淳の芝居の味が活きる粋な展開だ。いいわあ。昭和かっこいい。

★まぁチンピラ映画セオリー通りの展開になります

ひょんな事から金をゲットした朝比奈一家は、トルコ風呂(時代ですね…)経営に乗り出し貧乏脱出。
ほどなく吾平おじさんが大往生して武夫が跡継ぎになるが、こんなタイミングで芳江が妊娠して、産む産まないでもめる。
先生は若尾文子の胸に頬ずりして(まあうらやましい)医者から貰った堕胎薬を芳江にこっそり飲ませるが、感づいた芳江は飲まなかった。
「なんで堕ろさないんだー」と武夫は芳江をメッタ打ち。
そこまでして生みたいか?こんなダメ男の子供だぞ。

そこへまたまた事件が起こる。
相良が芳江の左翼兄ちゃんを誘拐して(警察に捕まったまま存在忘れてたわ…)、助けてほしけりゃトルコ風呂よこせと言ってきた。
「んなもん俺が一発ぶちのめしてやらあ!」
武夫はピストル片手に奪還するつもりが、頼りの愛川に諌められる。
「もういいやヤクザも時代遅れだし、店畳んで薬剤師の女と結婚して足を洗うさ」とのたまう愛川は、ちゃっちゃとトルコ風呂の権利を渡して堅気になる。現実的だなー。
そんな兄弟分の態度に武夫も目が覚めて、愛川のすすめで芳江と左翼兄は故郷の九州に行き、武夫は大阪で堅気になり再出発しようと決めた。

さて大阪・九州とくれば当時は空路も乏しいので東海道新幹線を利用する。
東京駅へ芳江を見送りに来た武夫は、せめて父親代わりのお土産でも渡そうとデパート(東京大丸か?)で産着を買っていた。
そこに来たのが、おお待ってたぜゼンソクの政!
最後の最後でヒットマンはおつとめを果たし、撃たれた武夫はエスカレーターを転げ落ちる。
力尽きた男の体を乗せてエスカレーターが上昇するシーンでジ・エンド。


★感想

wikipediaによりますと、脚本は元々石原裕次郎のために書かれたがお蔵入りになってたらしい。
そりゃスターがこんなヘタレ話じゃダメだろ。
それが巡り巡って三島由紀夫先生主演作に再利用され、日の目を浴びる事になったそうです。

しかしだな。石原裕次郎だって演技派じゃないが、スターであり役者である。まぁ演技のイロハくらいはできる。
でも三島由紀夫先生は破壊的な棒演技だからな。
まったく棒にもほどがある。
まだ阿部譲二なら棒でも本物のチンピラの香り味わいが出ましょうが、先生にはチンピラのかけらもない。フィルムを逆さにしても役が似合いません。

ところが、ダメでヘタレで甘ちゃんなチンピラと三島由紀夫先生の隙だらけのナルシズムがどこをどうしたか化学反応を起こして、ゆるーいが味わいある男になっちゃった。
なんでだ。
プロの俳優ならどんなに抜けた演技でも少々カチン!とくる苦味が残っただろう。これは意外、棒でしか出せない妙味になるとは思わなかった。
俳優と役柄のマッチングって不思議なだなあ、と思った次第でありました。

脚本はチープでも増村保造監督ですから、たったかたったか話が進むスピーディーっぷりで粋なエンタメ演出も見れますし、昭和らしい素敵な豪華配役も楽しめます。バカバカしいけど面白かった。

マイお気に入りは水谷良重のボケた歌と、ヤク中のもぐり医者(浜村淳)とガラの悪い女医(倉田マユミ)。
チョイ役だけど忘れがたい。脇役マニアは必見です。

(了)
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