No.058『乾いた花』

製作年:1964年
原作:石原慎太郎
監督:篠田正浩
脚本:馬場当、篠田正浩
ジャンル:渋くて素敵すぎる和製フィルムノワール

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60年代の激シブなヤクザノワール映画。
『月曜日のユカ』時代の加賀まりこが出ています。『ユカ』の加賀まりこはキュート小悪魔全開ですが、こちらは少女の可憐さと儚いたたずまいが魅力的。

他の松竹ヌーベルヴァーグ系映画みたいに奇天烈でメケメケな前衛じゃないけれど、端々にしびれるくらいノワールなたたずまいがある。
画面から滲む、鉛のようにずしりと重い鬱屈な空気。

昭和映画ってやっぱいいなあ~!としみじみ堪能できる佳作です。

★予告編



見たか冴子!な予告。フォントがすてき。
「その女は空っぽな宝石箱」なんて一度でいいから言われてみたい。

★あらすじ(青字はネタバレあり

刑期を終えて出所して東京のシマに出戻ったヤクザの鉄砲玉の村木(池辺良)は、賭場で有象無象のカタギじゃない男達に混じり大胆な花札勝負をする謎の美少女と出会う。
根性すわった少女の名前は冴子(加賀まりこ)。スポーツカーを乗り回す正体不明のお嬢様だ。
賭場にお嬢様が紅一点!
うぉぉ萌える設定だな。


身分違いの彼女に自分と同じ匂いを感じた村木は、愛人の新子(原佐知子)との逢瀬も気が入らず、彼女とのサシ勝負に心ひかれてゆく。

勝負事への刺激をこれでもかと追い求める冴子。
いつもの賭場も「勝負が小さくてつまんない」と言ってのけたので、村木は知人のヤクザ・相川(杉浦直樹)が主宰する、その筋の大物だらけの花札賭場へ彼女を案内する。
大勝負の刺激に心震える冴子の姿を見て、村木は満足する。

そこへ賭場のガサ入れが発生。逃げる道中にカモフラージュで恋人同士を演じる羽目になる。
でも他のクライムロマンスなら体も結ばれるところだが、ふたりはキス以上の情事は出来なかった。
同じ匂いを共有しても恋愛じゃない男と女。
ますます萌えるじゃないですかいいわー。

★でもストイックで萌える関係は長くなかった

ところがさらなる刺激を求めた冴子は、中国系ハーフヤクザのヤク中・ヨウ(藤木孝)からヤクを打たれる刺激を教わってしまう。

一方村木は本業のヤクザ稼業で、自分の属する組と大阪の組の抗争に巻き込まれ、再び鉄砲玉になる。
いざターゲットを殺る直前、村木は冴子に会い「あんたにヤクよりいいものを見せてやる。俺は人を殺すんだ」と暗殺現場に連れて行く。
オペラがBGMに流れる重厚ゴージャスなクラブで、村木はターゲットの組長を刺す。
冴子の目の前で…

ラストは2年後。
村木がおつとめする刑務所に相川が入獄して、「冴子が死んだ」と伝えた。
あの後彼女はヤク中のヨウとデキてヤクに溺れ、最後は殺人事件の被害者となったそうだ。その事件がきっかけで身元が割れたらしい。
「実は彼女は…」

相川の説明をさえぎる村木。
「もうそんなことはどうでも良かった」
心中で呟き獄舎の奥へ向かう村木の姿でジ・エンド。


★感想

「賭場にお嬢様が紅一点」の萌え設定以外、あらすじはどうってことないヤクザ話である。
オチが薄くてカタルシスも無いし。

でも観ると、いやぁクール。
ニヒル。ノワール。
篠田正浩監督ってこんな渋いノワールで乾いたスタイリッシュ系でしたっけ?って失礼な事言いたくなるほどだ。
あんた凄いよ、しびれるぅ!(昭和風に)

★可憐な白と重厚な黒。とにかく美しい

ヤクザ親分の家の戸田重昌デザインインテリアやヤク打ちシーンのネガ暗転処理など、松竹ヌーベルヴァーグお得意の前衛映像もあるけど、より眼に鮮やかに飛び込んでくるのが賭場と抗争シーンの美しさ。

賭場のシーンは徹底して白で攻める。
氷上・雪上・賭場上の女は天然のレフ板効果で5割増しは美しく映るというに、上下白スーツの加賀まりこが横座りで花札を繰る。
まるで賭場に舞い降りた妖精。
萌え萌えですわ。
「どっちもどっちも」と呪文のように繰り返す掛け声とか、花札を繰るカチカチした音、効果音の使い方も執拗で耳に残る。
音が良い映画っていいですね。

ヤクザの抗争シーンは逆に黒く、重く攻める。
見せ場は雨の夜にヨウが村木を襲うシーンと、クライマックスの鉄砲玉暗殺シーン。
どちらも甲乙つけがたい素晴らしさ。
雨の夜シーンは水たまりを走る時の黒い水飛沫や夜の闇からナイフが飛んでくる緊張感がフィルムノワール感たっぷり。ステキぃ。
鉄砲玉シーンは螺旋階段やステンドグラスとか昭和のクラブっぽいもっさり系アイテムを並べてありきたりな親分暗殺シーンになるところを、演出の妙で、マフィアノワール映画並みにずしりと重厚なシーンに仕上げてる。
上手いなー。

逆に言えばフィルムノワールすぎて、ヤクザ映画特有の湿り気たっぷりな情念のうねりや男の絆、女の情け、的な決めセリフがない。
その手のヤクザ映画好きには不向きかも。

★気になる俳優、池辺良のノワール俳優キメ顔

だらだら感想書いてて肝心な所を忘れてた。
『乾いた花』のカッコイイ度数を高めてる一番の要素は「池辺良、ステキ…」って事だ。

そんなの当り前でしょ!昭和屈指の二枚目なのよ!
と昭和映画世代のお姉様お母様方に怒られそうな発言だが、その手のスタンダード二枚目な作品を観ても(ちなみに東映ヤクザ映画は未見)、正直「うーむ非の打ちどころ無い二枚目だけどそれ以上思うところってねえな」なんだが、ノワール男優の彼はカッコイイ!
しびれるぅー!

思うにノワール男優のしびれるキメ顔は斜め横顔ですね絶対。

軽く首を傾げるかうつむくかして、眉間にクッと力を入れて唇を顰める。
するとあごと首の境目あたりに皺が寄る。
イケメンが中年になってコレが見えると「あーこいつもとうとう顔の輪郭崩れてきたな」って、イケメン俳優的にはなかなか悲哀感漂う老化のバロメーターだったりしますがwノワール男優はこの皺が!皺が素敵ぃ!

皺を寄せてひと睨みしながら目の前の相手の話を黙って聞いた後に、ふと目を伏せ、一呼吸置いて煙草を吸う。
あぁたまんなくセクシー!
観てるこちらのノワール度数がグッと上がるザ・渋い男の決めポーズですが、池辺良はこの斜め横顔の決め表情が色っぽい。
欧米俳優に肩張るくらいカッコイイです。

ヤクザぽくない真面目なスーツの着こなしも今どきの経済ヤクザっぽいというか、古典ヤクザ的な心情が読めなくて良い。
腹の底で何考えてるかわからないニヒルで危険な男っぽさを醸し出してます。
声が梅宮辰夫に似てる?のが気になるがw
当時こういう話し方流行ってたんですかね。

ノワール俳優での出演作は少なくて残念。
もっと観たかったなー。

(了)
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