No.068『心中天網島』

製作年:1969年
原作:近松門左衛門
監督:篠田正浩
脚本:富岡多恵子、武満徹、篠田正浩
ジャンル:コテコテのナニワ浄瑠璃ATGお芸術仕立て

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昭和女優ごっこが好きだ。
今どき女優のリアリズム自然体とは程遠い昭和女優のエクストリーム演技を観ると、真似したくてたまらなくなる。

自分の事を「あたくし」と言ってみたり、たまにはズベ公風に「あたい」にしてみたり。
笑うときは「うふふ」と唇に指先当てて小首を傾げてみたり、甲高く「あーはっはっはっ」と笑ってみたり。

不幸が起きると「そんなっ…」と一瞬言葉を失い、立ちくらみを起こすかと思えばハッ!と我に返り、「いやあ!いやあ!」と男の胸をポカポカ叩き、そのままシャツに顔を埋めて号泣する。
再び我に返ると眉をひそめて男から顔を背け、「あっあたくし…なんて事を」と頬を赤らめる。
あー、リアルでやってみてえ。
ガチで引かれるけどな。

さて今回のエクストリーム昭和女優ごっこ拝見映画。岩下志麻の可憐な遊女&貞淑人妻ダブル演技だ。
これがまたメケメケでテンション高いんだ。
たまらんわー。

★予告編



5分もあるロングな予告。踏み絵にどうぞ。

★あらすじ(青字はネタバレあり

人形浄瑠璃の舞台が上演される直前に、篠田正浩監督本人から電話がかかってくる。
あのシーンの演出どうしようか考えてんだよー、ここをこうしてー、ああしてー、とか映画製作の苦労話を電話口で語りまくる監督。
いかにもATG実験映画っぽい導入部だ。

さて本編。
紙屋の旦那・治兵衛(中村吉右衛門)は曽根崎新地の遊女・小春(岩下志麻)と恋仲になるが、治兵衛は商いもイマイチで旦那として半端者。
しかも小春の身請けは成金ライバル旦那・太兵衛(小松方正)も狙っており、資金面で治兵衛は分が悪い。
今世で一緒になれぬなら、いっそ来世で一緒になろう…
と2人はひそかに心中を誓い合う。

そんなある夜、初顔のお侍様が小春指名で遊びに来た。
でも小春ったら色事の席で「首くくって死ぬのと首切って死ぬのとどっちがいいか」なんて聞く始末。
ゴスロリ系厨二病キャバ嬢かお前は。
しかし指名嬢の態度が最悪でもお侍様はドン引きせず、
「客と心中の約束したけど本当は死にたくない。お侍様、あたしを贔屓にして。あたしにあのひとあきらめさせて」
なる身勝手なお悩み相談を聞いてあげる。

それを外から盗み聞きした治兵衛は、ガーンショック。
しかも盗み聞きに感づいたお侍様に捕まえられて、遊郭の窓格子に手首くくられ、道行く客のさらし者になる。
たまたま通りかかった太兵衛にも嘲笑われる屈辱も味わう。
しかもお侍様の正体は治兵衛の兄・孫右衛門(滝田裕介)。女房子供仕事ほったらかしで遊女に入れあげる弟が心配になり、別れさせに来たのだ。
小春の裏切りと男の面子を汚された屈辱で、治兵衛は「こんな女なんか別れてやる!」と逆切れして帰る。

★ダメ旦那の相方はやっぱり出来すぎ女房

ここでできる男なら、「畜生!俺にはやっぱり仕事しか!」と一念発起して商いに精を出すもんだが、治兵衛は典型的な浪速のバカ旦那だったので、ふてくされて昼間から蒲団かぶって寝てばかり。
紙屋はますます商売が傾き、しっかり者の嫁・おさん(岩下志麻・二役)もやきもきするばかり。
しかし輝く美貌の遊女から志麻姐さんが一転、生活に疲れた浪速のおばちゃん主婦に大変身してます。
白塗り眉無しほぼすっぴんでお歯黒。地味に怖い。

そこへ孫右衛門兄ちゃんと怖ーい義理の叔母さん(河原崎しず江)が巡回視察にやって来る。
治兵衛はあわてて飛び起き仕事に勤しむふりをして、「小春をフッて嫁と仕事一筋な俺」をアピールするが、兄と義叔母は「ふーん…本当かね」と訝しモード。
「小春は成金太兵衛に身請けされるってさ」と巷の噂話でトドメを刺して帰る。

分かっちゃいたがハートブレイク治兵衛は蒲団に潜り、「うわーんやだぁ小春ぅ小春ぅ」と泣くばかり。
うわあーだめだこのバカ。
現代の嫁ならここで緑の紙を突きつけるタイミングだが、何故かおさんは急に慌てて「あんた!小春さんを先に身請けしなきゃ!」と家中を引っ掻き回し、金の工面に走りだす。

…なんで?

実はおさんと小春は恋のライバルながら交流があり、旦那の陰で女の義理と友情?を育んでいた。
なんと『他の人に身請けされるなら小春は命を絶ちます』という宣言までしちゃってたのだ。
愛人が正妻にそんな宣言するってどうよ?
でもおさんは小春の純愛乙女心に共鳴したらしく、「小春さんの命を救って身請けして3人で暮らそ!」ともちかける。
「なんと良い嫁だ…」とグッとくる治兵衛。
おいおいおい。

そんな紙屋夫婦の斜め上に泥沼な事態を察したか、嫁父(加藤嘉)が夜中に激怒して突入し、「おめーどこまで娘を苦しめるねん!離縁や離縁!」とおさんを羽交い絞めで実家に連行させる。
ここで現代の旦那なら、嫁の実家に急行して玄関で土下座パターンだが、江戸時代の浪速バカ旦那はやっぱ違う。
「うわあー俺もうダメぇー」とキレて家のセット破壊。
小春の元へ一目散に駆けていく。

ああほんとだめだこいつ。

★夜のナニワで泣いてわめいてコテコテ心中劇場

そして話は皆様お馴染みの夜逃げ心中へ至る訳だが、これがまぁくどいのなんの。

一晩中(ラスト15分くらい)2人で
泣いてーわめいてー泣いてー泣いてー逃げてー
心中しようーやっぱヤダぁーでもやっぱ死ぬー
そんで泣いてーわめいてー泣いてー
と延々グダグダしながら逃避行するんである。

やっぱバカ旦那の相手もバカ娘。純愛の末の悲劇!ってより、「恋の厨二病をこじらせて自分達だけで盛り上がって死にました」な感じを受ける。
もちろんクライマックスですから主演2人の演技の力も入りまくる。
エクストリームな情念演技を15分。観てるこっちも疲れるわ。
とっとと死ね!


でも泣いてわめきながらも、お寺の墓地でエッチだけはバッチリする
ちゃっかりしてるな。

そして朝になり、ようやく心中の意思を固めた2人。
朝靄の枯野でわーわー泣きながら互いの髪を切り、小春は喉を刺され、治兵衛は鴨居に首吊って死ぬ。
やっと逝ってくれたー。お疲れ様でしたーな清々しささえ漂う雰囲気でジ・エンド。


★感想

岩下志麻お得意のボルテージ上がりきった昭和女優演技を120%堪能できます。
中村吉右衛門のダメ旦那も色香たっぷり。

ただ困ったちゃんな性格の役どころゆえか、昂ぶったらどうにも止まらない♪演技体質なのか、
心中シーンが2人して演りすぎ祭になっている。
一晩中墓地であれだけ泣いてわめいてエッチしてちゃ、誰か気づくだろうよ騒音でw
朝靄の枯野の芝居など情念エクストリーム過ぎてもはやホラーの域。正直笑っちゃったwww
思わず「とっとと死ね」と呟きたくもなる情念芝居を一度味わって観てみませんか。
いやもう凄いんだから。特濃で。

おかげで武満徹の幽玄漂うミニマムミュージックも、生で観れば爆睡必至な人形浄瑠璃の音色も、今回は眠くならずにすみました。
むしろ芝居の進行と阿吽の呼吸で、時に演技をクールダウンさせ、時に情念をけしかける良い合いの手になっていた。

さて今作のおすすめは断然美術!
まーすてきー♪と溜息出たのが曽根崎新地の遊郭街のセット。
ATGらしいシャープでモダンなお芸術だらけ。
人形浄瑠璃を意識して、時々登場人物全員が動きがストップして生きる人形芝居になるとか、場面転換でザ・ベストテン並みに回転扉登場とか、遊び心ある仕掛けたっぷりで面白い!
また治兵衛の家のインテリアがきれいすぎる。
粟津潔の骨太な美術と篠田桃紅の書が相性抜群。光と影の織り成す絶妙ライティングがステキぃ。
美術セットのミニチュアがあったら買いたい。

★黙々と働く黒衣に萌える

そしてこの映画で絶対忘れちゃいけないのが、浜村純ヘッド率いるスーパー黒衣軍団ですね。

最初は人形浄瑠璃っぽい雰囲気を出す人間小道具ね、と思ってたが、彼らが小道具超えて出ずっぱり。
服を着せ替えれば子供もあやし、お墓エッチもじっと見守り、首吊り自殺のほう助までせっせと働きまくる。
無言できびきび動く所作に男の肉体と色香がチラリ。基本無表情だが時折ふっと流し目送る。セクシー
佐川男子にも似た勤労青年のセクシー加減は只者じゃなかった。正体は天井桟敷メンバーでした。
やっぱりねー。

最後にいい味脇役チェック。
小松方正の成金旦那太兵衛。まさに十八番のはまり役。
「世の中ゼニや、ゼニやー!」といかにもな浪速商人な芝居を決めた後、このうえなく下種いドヤ顔で締める。
下品な味を存分に出してました。

(了)
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